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港街カリス観光〜服屋へ行ってみよう編〜


別名、レイン、面倒くさそうだとバレ始める話。


今後ともよろしくお願いします( ・∇・)ノ

 






 美味しい食事とモッフモフなウサギに癒されたソフィア達は次に、服屋へと向かった。



 案内されたのはどこにでもあるような普通の服屋だった。

 勿論、男性用の服も置いてあるが女性服の方が多い。それに、シンプルでも可愛らしいデザイン、なのに動き易そうという……まさに理想に近しい服が多い。

 リーフは服屋の奥まで歩いて行き、会計の席に座っていた恰幅の良い赤毛の女性に声をかけた。


「ランファ」

「あん?」


 彼女は読んでいた新聞から顔を上げると、リーフを見て破顔する。

 そして、立ち上がり彼の側に寄るとバシバシッとその背中を強く叩いた。


「リーフじゃないか! あたしの店に来るなんて珍しいね!」

「ちょ、痛い痛い痛い! 手加減してくれないかな!?」

「現役冒険者が何言ってんの。これぐらいヘッチャラだろう?」

「ランファは引退したとは思えない力強さなんだよ! 本当に痛いから、止めて!?」

「はぁ〜……弱っちいねぇ。冒険者の未来が心配になるよ、まったく」


 ランファはヤレヤレと肩を竦める。

 リーフは取り繕うように「ゴホゴホッ」と咳払いをしてから、ソフィア達の紹介をした。


「ランファ。こちら、レインさんとソフィアさん。僕と同じ冒険者なんだ」

「よろしく」

「よろしくお願いしますわ」

「それで……こちらはこの《ランファ・ブティック》の店長のランファ。元Bランクの冒険者なんだ」

「へぇ? アンタ、元冒険者なんだ?」


 レインが面白そうな目でランファを見る。

 引退後の冒険者は田舎でのんびり暮らしたり、用心棒として雇われたりするのが主流だ。服飾系、それも服屋を開くような元冒険者はかなり珍しいと言える。

 ランファ本人とそれを分かっているのだろう。彼女は堂々とした態度で、胸を張ってそれに答えた。


「あぁ、そうさ。あたしは歳で引退したんだけどね……現役時代、女性冒険者の服が地味なのしかなかったのが嫌で嫌で仕方なくってね! だから、〝冒険者でも可愛い格好がしたい!〟って言う女性冒険者達の夢を叶えるようって思って、この店を開いたんだ!」

「成る程なぁ。つまり、この店なら冒険者としても使える服を取り扱ってるってことか」

「そういうことさ」

「へぇ〜……流石リーフの案内。んじゃあ早速。ウチの可愛い嫁の仕事用の服と普段用の服、見繕ってもらえるか? 値段は幾らかかっても構わねぇーからさ」


 レインはソフィアの肩を掴んで、ランファの方に押し出す。

 〝値段は幾らかかっても構わない〟という言葉に目を輝かせたランファの前に立たされたソフィアは、その身から発せられる謎の圧力に気圧され、ギョッとした顔になった。


「嫁の服に金をかけてやるなんて……アンタ、良い旦那だね! よし、任せな! 早速、アンタに似合う服を見繕うよ!」

「え、ちょ、ぇっ……きゃぁぁぁあっ!?」


 ソフィアはランファに肩を掴まれて引っ張られていく。

 こんな強気に連れて行かれるなんて思いもしなかった。というか、こういうタイプは初めてだ。脊髄反射で一撃喰らわせそうになったが、なんとか堪えて拳を抑える。

 そうして、動き易そうな女性服が並んだ場所まで連れて来られると……ランファはハンガーに掛かった服を何着か選んで、ソフィアの身体へと合わせた。


「あんた、素材が良いから何着ても似合いそうだね! 好きな服の系統はなんだい?」

「……系統?」

「可愛い系、シンプル系、綺麗系などなど。どういうのが良い?」

「えっと……動き易い服が良いですわ」

「成る程ね! 後、戦闘スタイルは?」

「火属性の拳で闘う拳闘士ですわ」

「ふむふむ。ちなみに旦那は?」

「レインですの? 彼は水属性の、双剣使いですわ」

「……………ん?」


 ランファは一瞬だけ動きを止めて、ソフィアーーそれから適当に店内を見ているレインの方を見る。

 不躾にジロジロと観察し、彼の正体を察してギョッとする。そして、レインが嫁と言ったソフィアを見てもう一度ギョッとする。


「………え。まさか……」

「……どうなさいましたの?」


 固まったランファを見て、ソフィアは不思議そうに首を傾げる。

 だが、今の彼女は服屋の店長だ。最優先すべきはお客の服を選ぶこと。

 なんでこんな大物とチャラ男(リーフ)が知り合いなんだと思わなくもなかったが、ランファはレインの正体についてはひとまず置いておいて……けれどレインの正体を参考に、ソフィアの服を選び抜いた。


「取り敢えず……これとこれと、これだね。そこに試着室があるから、着替えてきな」


 ソフィアはポイッと試着室に放り込まれて、驚く。

 薄いカーテンでしか遮られていない試着室。衝立の影で着替えたことはあったが、こんな不特定多数が出入りする店で着替えるなど初めてで緊張する。だが、これが平民の普通なのだろうと服を脱ぎ始める。

 一応、強制サバイバルのお陰で、他の貴族令嬢と違って一人での着替えが出来る。ソフィアは素早く着替えるとランファの選んだ服のチョイスに、ピシッと固まった。


「……………」

「着替え終えたかい?」

「お、終えましたけど……あの、これは間違いではなくて?」

「ん? 取り敢えず見せてみなよ」


 シャッとカーテンが開かれ、ソフィアはギョッとした。

 ノースリーブのワイシャツに空色のリボン、濃青色のキュロットスカート。ガーターベルトで留められた白いハイソックスには、空色のリボンで結ばれた焦茶色のショートブーツが合わせられていた。


「…………うわぉ」


 つまり、紛うことなき旦那様レインカラー。

 自分の色に染まったソフィアを見たレインはその衝撃の強さに、顔を真っ赤にせずにはいられなかった。


「うんうん、間違ってないよ! 似合ってるね!」


 ランファは、ニッコニコ笑いながら満足そうに頷く。

 ソフィアは恥ずかしそうに太腿を隠そうとしながら、彼女に問うた。


「あ、あの……足を出すのは、はしたなくありません? もう少し、隠れる服は……」


 貴族令嬢は、必要以上に肌を露出させることはない。これは、王侯貴族の女性には貞淑さが求められていたからであり、夫以外に肌を晒すのははしたないことだとされていたからだ。

 だから、こんな風に足を晒すなんて……ハイソックスを履いているとはいえ、恥ずかしくて仕方ない。

 だが、ランファは肩を竦めながら、呆れたように言った。


「なぁに言ってんの。冒険者ならそれぐらい普通普通」

「う、ぅぅぅ……本当ですの? レイン?」

「…………」

「レイン?」


 救いを求めるようにレインに声をかけるが、彼は顔を赤くしたまま固まっており……一向に返事をしてくれない。ソフィアは〝どうしたのか?〟と、首を傾げる。

 そんなレインの隣にいたリーフは生温か〜〜い視線を新婚夫婦に向けながら、口を開く。


「どうやらレインさんはソフィアさんに見惚れているようなので代わりに答えると」

「レインが見惚れてるっ!?」

「まぁ、ソフィアさんの格好は冒険者の中じゃ結構普通じゃないかな? もっと短い丈の子もいるし、ビキニアーマー着てるかもいるし」

「そ、そうですの……」

「うんうん」


 リーフの説明に納得するソフィア。そこまで言われたら、恥ずかしがる方が恥ずかしい気がしてくる。でも、やっぱり少し恥ずかしい。

 ソフィアはモジモジとしながら、レインの前に立つ。

 そして、小首を傾げながらあざとく尋ねた。


「レイン、レイン。変ではありません? 大丈夫です?」

「……………うぇ?」

「ですから、変ではありませんかと……」


 ーーバシーーンッ!!


「いった!?」


 唐突に肩を叩かれたレインはギョッとしながら、横を見る。

 そこには生温〜〜い視線を向けるリーフとランファの姿。

 ランファはもう一度レインの肩を叩くと、「男だったらバシッと決めな!」と小声になってない小声で告げられる。

 レインはそれに、困ったように頬を掻いた。


「あ〜……その〜……ソフィア、さん」

「……はい」

「えっとですね? その……見惚れて言葉を失くすぐらいには似合ってます、うん」

「…………そう、ですの」

「そうなんですの」

「……………ありがとうございます?」

「……あ、はい。こちらこそ、ありがとうございます」


 互いに顔を赤く染めて、互いに頭を下げ合うソフィアとレイン。

 初々しいそのやり取りに更〜〜に生温〜〜い視線を向けながら、ランファはこの服を選んだ理由を一応説明した。


「この服、色からも分かるように水耐性が高い素材で出来てるんだよ。だから、多少はレインさんの巻き添え喰らっても、多少は大丈夫だと思うよ?」

「…………レインの巻き添え?」

「そう。だってアンタ、Sランク冒険者の《双刃雨》だろ?」

「ん? おー。気づいてたのかぁ〜……」

「いや、その髪色で名前がレイン、水属性の双剣使いってなりゃ《双刃雨》以外いないだろう?」

「………真似してる奴とは思わなかったのか?」


 同じ名前の冒険者ぐらいはいるだろうし、Sランクに憧れて戦闘スタイルを真似する冒険者もいないとは限らない。

 だが、ランファは引退したとは言え元Bランクの冒険者だ。彼女は腰に手を当てながら、レインをジト目で睨んだ。


「舐めんじゃないよ。こんなんでも元Bランク。自分よりも強い相手ぐらい察せるさ」

「ふぅん? そりゃ偉いな?」

「…………馬鹿にしてんのかい?」

「ははっ、まさか。時々いるだろう? ランクに見合わない実力の冒険者ってよ。引退したとは言え相手の力量を測れるなら、それなりにちゃんとした冒険者だったんだなぁ〜と思っただけだ」


 一応、冒険者のランクの昇格には共通の規定が定められているのだが……それでも時々、いるのだ。自分より強い冒険者に手助けしてもらったり、賄賂を渡してランクを上げる馬鹿が。


「まぁ、ソフィアは実力よりも低ランクだから、関係ねぇ話だけどなぁ〜」

「………そんな冒険者もいますのね……」

「おぅ」

「………それでは、身の丈に合わぬ依頼を受けて死んでしまう方も少なくないのでは?」


 ソフィアは顔を顰めながら、呟く。

 高ランクの依頼は報酬も良い分、危険度も高いのだと、冒険者になったばかりのソフィアでも理解している。

 つまり、実力に見合わぬ依頼を受けてしまえば、その分死ぬ可能性も高くなるという結論に至るのは必然だ。


「確かに死ぬ奴も少なくないわな。けど、冒険者ってのは何物にも縛られぬ代わりにその責任を自分で背負う……自己責任で生きてんだよ。死ぬのも生きるのも窮地に陥るのも自業自得、だ」

「…………」

「それに……国によって魔物の強さとかも違うから、ランク昇格基準には各ギルドによって微妙に差がある。だから、その国では適正ランクでも他国では違ったりする訳で。他国で活動するかどうかは冒険者次第っー訳であって……。うん、やっぱ自己責任に帰結すんだよなぁ」


 そこまで説明されてしまえば、確かに〝自己責任〟としか言いようがない。


「という訳で、そういう馬鹿は頭もちとお馬鹿なことが多いから……ソフィアも気をつけようなってお話だ。分かったか?」

「………頭も馬鹿……?」

「〝オレはAランクで強いんだぞ! オレに従え!〟とか。〝お前を高位冒険者のオレのパーティーに入れてやろう! 喜べ!〟とかな?」

「……………無駄に実感篭ってますわね……?」

「あははははっ。これの女verならあったからな。実感も篭るってモンだぜ」

「「「…………」」」


 死んだ魚のような目で乾いた笑い声をあげるレインに、三人の目が同情に染まる。

 常々思っていたが……彼の女難は相当根深いらしい。いっそ呪いの類なんじゃないだろうか?

 ソフィア達はチラリとアイコンタントを交わす。どうやら思うことは同じだったようで……取り敢えず、ソフィアが彼の気を逸らすことにした。


「えーっと……レイン」

「おう?」

「……安心なさいな。何かあったら、わたくしが守りますわ」

「……………」

「任せなさい」

「えっ……イケメン……素敵ぃ〜」


 キリッとした顔でそう言われたレインは胸がトゥンクした。それぐらいソフィアは凛々しかった。

 目に光を取り戻し、嫁の発言に頬を赤くする夫の姿にリーフとランファは〝普通、逆では……?〟と思わなくもない。

 しかし、下手なことを言ってまた目を濁らせるのも面倒だったので……ランファはとっとと、この面倒そうなSランクを放り出すことにした。


「ま、まぁなんだい? 素敵な夫婦ってことだね! リーフ!」

「うぇっ!? え? あ……そ、そうだね……?」

「おっと……こんな長々とウチにいて大丈夫かい? この後も予定があるんだろう?」

「あっ、そうだった! レインさん。そろそろ次に行こう。という訳で、ソフィアさんの服代、服代!」

「あぁ、悪ぃ。今払うわ」

「毎度あり〜」


 ランファはレインから代金を受け取り、レインは見繕ってもらったソフィアの普段着が何着か入った紙袋を受け取る。

 それを確認したリーフはランファからのアイコンタントで〝面倒くさそうだから、とっとと行きな〟と命じられ……〝逆らえない!〟と若干涙目になりながら、速やかにこの場から撤退することにした。


「よぉ〜し! 次は武器屋に行ってみよ〜! それじゃあね、ランファ」

「あぁ。また来ておくれ」

「おー。ありがとうな〜」

「ありがとうございました。失礼しますわ」


 ランファに見送られ(追い出され?)、ソフィア達は服屋を後にする。



 こうして……一行は次の目的地へと向かうのだった。







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