港街カリス観光〜案内役を添えて〜
別名、ウサさんフィーバー回。
他シリーズではひよこが出てるけど、本作品はウサギかもしれない。
話変わって〜
寒い日が続きますね! 皆様も風邪を引かないように体調に気をつけてお過ごしください。
それでは、よろしくどうぞっ( ・∇・)ノ
「おぉう……本当に結婚してるぅ……」
カリス中央広場ーー。
噴水の前で本日の案内役を待っていたソフィアとレインは、やって来るなり腕に刻まれた花紋を見てそう言ったリーフに首を傾げずにはいられなかった。
「何言ってんだ? 昨日、結婚するんだって言ったろーが」
「いや、そうなんだけど! それでもこんなアッサリと結婚するとは思わなくて!?」
「……そんなにあっさり、かしら?」
ソフィアとレインは互いに顔を見合わせて、〝よく分からない〟と言わんばかりの顔をする。
そんな二人を見てリーフは思った。
〝まぁ、この二人だから……型に当て嵌まらないか……〟と。
「まぁ……いいや。取り敢えず、お昼は食べたかい?」
「いんや、まだ」
「なら、先にお昼にしようか。オススメのカフェへ案内するよ」
リーフを先頭に三人は中央広場から商業区画へと向かう。
商業区画とはその名の通り、日用品や食品を取り扱う商店や、食事処、青空市場などが集まっている区画だ。
カリスはトトリス国の交易港でもあるため、王都の次に品揃えが良い。そして、人が多い。
そのため、鎬を削るように……美味しい食事処が多いのだと、リーフは解説した。
「という訳で〜僕のオススメカフェがこちら!」
「「おぉ〜……」」
「その名も《ウサさんカフェ》さ」
ソフィアとレインは案内されたカフェに、気後れする。
何故なら、《ウサさんカフェ》はとんでもなく可愛かった。ピンク色の屋根にチョコレート色の煉瓦。扉もピンク色で、外にはテラス席もあり……ピンクや黄色、オレンジといった小さな花が咲きまくる花壇が置かれている。
つまり、とんでもなくファンシー。流石のソフィア達も訪れたことのない傾向の店だ。気後れしてしまうのも仕方ないこと。
そもそもーー……。
「カフェって……本当に存在するモノでしたのね……」
ーーぽつりと呟かれたソフィアの言葉に、レインは直ぐに事情を察してしまう。
「………もしや……初カフェ?」
「……当たり前ですわよ」
「マジかぁ……」
「外食なんて許される立場ではありませんでしたから。いつも毒味が済んだ冷たい食事を食べていましたわ」
「「うわぉ……」」
そこそ冒険者歴が長い冒険者は、美食家である傾向になる。
それは依頼中はマトモな食事を摂れない反動であったり、健全な肉体を作るためであったり、美味しいモノが士気や精神的なコンディションに影響を与えるからだ。
だから、ソフィアの毒味が済んだ冷たい食事なんて食べなくてはならない状況だったら食べるだろうが、日常的に食べたいとは思わない。
レインもリーフも同情マシマシな顔で、ソフィアに声をかけた。
「美味しくて温けぇモンをお食べ」
「うんうん。今日は僕の奢りだから、いっぱいお食べ」
「……? 分かりましたわ……?」
「それじゃあ早速行こうか」
リーフはそう言いながら二人を先導して《ウサさんカフェ》に入る。
後に続いたソフィア達はやっぱり、驚かずにはいられなかった。
「「…………」」
外装も可愛らしいモノだったが、内装も凄かった。
ピンクや水色のチェック柄のテーブルクロスがかかった丸テーブルに木目の椅子。床も木目で、壁紙もピンクに白いウサギの柄だ。天井から吊るされたランプは、鈴蘭のカタチをしていて……細部まで〝可愛い〟で統一している。ここまでくると、逆に凄い。
そしてそんな内装よりも目を引くのは……。
「もきゅっ」
「もっもっ」
「もきゅきゅ」
床の至る所にいるーーウサギ。
「あっ、いらっしゃいませ〜!」
呆然とウサギを見つめていたソフィア達だったが、奥からやって来た店員ーーウサギ獣人に声をかけられて、顔を上げる。
リーフは慣れた様子で「やぁ、ナズナちゃん。こんにちは」と挨拶をしている。ナズナと言われた白ウサ耳を持つ店員はにっこりと笑って、リーフに容赦ない言葉をかけた。
「こんにちは〜、リーフさん! 今日はナンパした女性だけじゃなくて、ナンパした男性も連れて来たんですね!」
「ごふっ!?」
「ついに男性にまで手ェ出すようになったんですか? 見境なしですね!」
「ちょっと待って!? 違うから、ただの仕事仲間! 美味しいカフェって言ったらここだから、連れて来ただけだよ!?」
「もぉ〜! 誤魔化さなくて良いですよ〜! 毎回、初デートここでしてるじゃないですかぁ〜! それで? どちらが本命で?」
「本気で誤解されるから止めてくれないかなぁ!?」
ハッと振り返ったリーフは、ヒヤッヒヤした極寒のような目で見てくるソフィアと、ドン引きした様子のレインに見られて「ヒィッ……!」と悲鳴をあげる。
そして、とんでもなく慌てながら否定の言葉を吐いた。
「ち、違う! 本当に違うからね!? そんなつもりでお二人を見てないよ!?」
「…………まぁ、えぇ。それは態度からしても分かっていますが。見境なしなのはよろしくないのでは?」
「……俺、とーとー野郎から狙われるようになっちまったのかと思ったぞ……」
そんな二人の反応に、ナズナはキョトンと目を瞬かせる。
「あれ? まさか……本当に違う?」
「さっきから違うって言ってるだろ、ナズナちゃん! というかっ、二人の腕見て! 結婚してるから、この二人! いい加減、信じてくれぇっ!!」
リーフがその場に崩れ落ち、嘆きながら床を拳で叩く。その姿はかなり真に迫っており……ナズナは言われた通りにソフィア達の腕を見る。そこに刻まれた夫婦の証。
それを確認したナズナはやっと、純粋に美味しいお店として仕事仲間を連れて来てくれたのだと理解する。彼女はあわあわとしながら、謝罪した。
「あわわわっ、ご、ごめんなさい! ちょっと失礼過ぎましたね!? えっと……えとえと……取り敢えず、ようこそ! 《ウサさんカフェ》へ! ご覧の通り、このカフェはウサギさんと触れ合えるカフェです。美味しいご飯と可愛いウサギさん達にどうぞ癒されていってくださいね!」
「もきゅ!」
「もきゅもきゅ!」
その言葉に合わせて、床に散らばっていたウサギ達が〝まぁ、ドンマイ〟と言わんばかりにリーフに集まってモフモフの身体を押しつけ始める。
中にはナズナの足をタッピングして〝ちょっと、お客さんに対して失礼よ〟と怒ってるような鳴き声をあげているウサギもいる。
どうやらこのカフェのウサギ達はそれなりに賢いらしい。未だに嘆いているリーフを無視し、ウサギに叱られているナズナの代わりに空いている席に案内した茶色のウサギは、「もきゅもきゅ」と鳴きながら椅子に座ったソフィアの足に前脚をかけてくる。
その姿にウサギの言いたいことを微妙に察した気がするソフィアは恐る恐る口を開いた。
「………抱き上げろと?」
「もきゅ!」
肯定するように右前脚をテシテシ上げられ、ソフィアは〝ウサギって知能がとんでもなく高いのね……〟と驚きながら、持ち上げる。
同じく向かいの席に座ったレインはそんなソフィアを見て、〝多分凄い勘違いをしてそうだな……〟と思ったが、ここのウサギが野生のウサギよりも知能が高いことは確かだったので……今回は訂正することは止めておいた。
だって、ウサギを膝に乗せたソフィアはとても可愛かったので。
「もきゅきゅ!」
茶色ウサギはテーブルの上に置かれていたメニュー表を何度もタップする。
ソフィアはそれを開けと言っていると判断し、言われた通りに開いた。
「まぁ」
メニュー表もこれまたウサギの絵が沢山描かれた可愛らしいモノだった。
オムライスやグラタン、ドリアなど洋食系がメインで、ウサギの餌なんかも売っているらしい。今まで寄ったことのある酒場とは違う系統の食事ばかりだ。
ソフィアはチラリとレインの方を見る。助けを求められたと察したレインはテーブルに身を乗り出して、メニューを覗いた。
「何が食いたい?」
「…………お任せしますわ」
「うーん……んじゃとりま〝ウサさんマークのふわふわオムライス〟はどうだ? これが一番人気って書いてあるし、無難だと思うぜ」
「では、それで」
「俺は〝きのこパスタ〜ニンジングラッセを添えて〜〟にするわ。んで、シェアしよーぜ」
「シェア?」
首を傾げたソフィアに、レインは「そそ」と肘をつきながら笑う。
「分けっこすんだよ。そしたら、両方味見出来んだろ?」
「まぁ……マナーが悪いわ」
「気にすんなって。もうお堅い身分じゃねぇーんだからさ。平民は結構分けっこするモンだぜ?」
「……そうなの?」
「そーなの」
「なら、そうしますわ」
「よし。すんませーー」
「もきゅっ!」
店員を呼ぼうとしたら、ソフィアの膝に乗っていた茶色ウサギが遮るように鳴き声をあげる。その後膝から飛び降りたかと思うと、奥の方ーーキッチンがあるであろう方へと跳んでいく。
その後ろ姿を見送ったソフィア達は無言で固まる。
そして、小さな声で呟いた。
「………あのウサギ、もしかして注文を伝えに行ったのかしら?」
「もしかしなくてもそーだろーな……あの店員より店員してるんじゃね……?」
改めてナズナの方を見る。どうやらまだウサギにお説教されてるらしく、「はい……はい……すみません……」とペコペコと頭を下げている。
ソフィアとレインはちょっと呆れ顔で、会話を続けた。
「………ウサギ獣人だから、ウサギと意思疎通出来んのかね」
「あの感じでは……そうなのでしょうね」
「なんつーか……面白いカフェだな」
「ですわね」
そんな感じで、足下にやってきたウサギを抱いたり、モフモフしたりしながら食事が届くのを待つ。
途中、立ち直ったらしいリーフも席にやって来て、注文を聞いた黒ウサギが奥に消えるのを見送る。
再度同じ光景を見たソフィア達は、このカフェに詳しいらしいリーフにウサギのことを聞くと……。
「え? そりゃそうだよ。だって、ここは《ウサさんカフェ》だよ? ウサギも漏れなく店員だからね。注文を受けたり、接待したりするに決まってるじゃないか」
と言われたので、〝あっ、そうなんだ……〟と思わず納得してしまったのだった。
結果的に……地元民がオススメするだけあって、運ばれてきた料理はかなり美味しかったので、二人は大変このカフェに満足したのだった。
猫カフェのウサギverをイメージしています(笑)
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