結婚は人生の墓場と言いますが……この二人の場合は、あっさり結婚です(笑)
……うわぉ、珍しく早めに更新出来たぜ……。
だと言ってもまた直ぐに遅筆になるかもしれませんので、あまり期待はし過ぎないでくださいね(笑)
という訳で〜あっさり結婚回です! 多分、こんなしれっと結婚するのはソフィアとレインだから!
とにもかくにも、今後とも〜よろしくどうぞっ
( ・∇・)ノ
護衛任務の最中に説明された、レインとの婚姻の利益と不利益。
利益は以下の通り。
一つ目は、婚姻をしていればそう簡単に連れ戻されない。
二つ目、Sランク冒険者を相手にするなんて不利益が多過ぎるため、無理やり離婚もさせづらい。
三つ目、Sランク冒険者の伴侶として冒険者ギルドから恩恵が受けられる。
四つ目、Sランク冒険者の伴侶に手を出そうとする馬鹿が減ること。
五つ目、伴侶となるならば自分の全てを賭けてソフィアを守るということ。
不利益は四つ。
一つ目は、Sランクには強制指名があるため、永住することは出来ないこと。
二つ目は、Sランク冒険者の伴侶だからこそ利用価値があるかと思われて、狙われる可能性があること。
三つ目は、自分の伴侶として他のSランク冒険者達がちょっかいをかけてくる可能性があること。
そして……冒険者だからこそ、ソフィアを残して死ぬ可能性があるということ。
それらを吟味して……ソフィアはレインと婚姻することを決めた。
婚姻の不利益には多少の煩わしさはありそうだったが、それよりも利益の方にーー特に、あの国に連れ戻されないという利益が決定打になった。
そうして今日ーー。
二人は魔王(真)の祝福を受け……平民が主に通う神殿へと足を運んでいた。
*****
「おや、《婚姻の儀》ですか。えぇ、大丈夫ですよ。今日は特に予定がありませんからね。準備のために多少時間をいただきますが……それでも良ければ儀式を行えますよ」
祭壇の前に立った白い法衣を纏った初老の神官が、穏やかに微笑みながらそう告げる。
その返事を聞いたレインは隣で神殿内をキョロキョロと見渡していたソフィアに声をかけた。
「だとさ。ソフィア、どうだ?」
「……えぇ。構いませんわ」
「んじゃ、よろしくお願いします」
「承りました。それではお布施の方を」
「あぁ」
レインはバックパックからお布施ーーという名の儀式代を出して、神官に渡す。
神殿はお布施やこういった儀式の実施費を貰い、運営費を賄っているのだ。
神官はお金を受け取ると、にっこりと頷く。
「では、聖堂内にてお待ちください。準備が整い次第、お声がけさせていただきます」
そう言って奥へと姿を消した神官を見送ってから、ソフィアは人々が座るために並んだ長椅子の最前列へと腰掛ける。同じように隣に座ったレインは足を組み、背凭れに腕をかけている。
平日の早い時間帯だからか、神殿内にはソフィア達以外に人がいない。人がいたとしても祈りを捧げていたりするためそれなりに静かだが……今はもっと静かだった。そんな空間の中で、二人は無言で正面を見つめている。
しかし……その静寂を切り裂くように。ソフィアが小さな声で、ぽつりと呟いた。
「……………《婚姻の儀》を含めた凡ゆる儀式を行うのが神殿だと決められていますから、婚姻のためにここに来るのは当然だと分かっておりますけれど……駄女神に婚姻の誓約を誓うのは……少し、不快ですわね」
ソフィアの視線の先ーーそこにあるのは、神殿の中央奥に鎮座している女神の像だ。
白い石で出来たソレは、まさに慈愛に満ちた柔らかな笑顔を浮かべており……その背後の壁に嵌め込まれたステンドグラスの光を受けて、神秘的な雰囲気を醸し出している。それだけを見れば、まさに女神に相応しい姿だ。
だが、生憎とここにいるのはあの女神の本性を知る二人……。
レインは彼女の発言に噴き出すと、ケタケタと笑ってから……一瞬で真顔になった。
「あははははっ……否定出来ねぇな。駄女神に苦労かけられてきたのに駄女神の前で愛を誓うとか……なんだろな? 本末転倒感が半端ねぇ」
前世では婚姻届は役所、結婚式は神社や式場、葬式は寺ーーといった感じではあったが、この世界では冠婚葬祭全てが神殿で行われることになっている。
それは神殿はあくまでもこの世界の唯一神である女神に仕える者達の集まりであり……どこの国をも贔屓をせず、どの国にも属さない絶対中立を宣言しているからである。
中立を宣言しているからこそ、女神を祀る神殿はどこの国にも存在する。中立を宣言しているからこそ、どこの国でも同じように儀式を行うことが出来る。
そんな経緯で、神殿は女神への祈りを捧げる場というだけでなく、冠婚葬祭を担う場所になっていた。
そして、中立を宣言してしまったからこそ、国から表立って助成金などを受け取ることが出来ず……先ほどのようにお布施や儀式代を受け取り、運営費としているという一面もあった。
「お待たせ致しました。祭壇の前へどうぞ」
「「はい」」
お盆を手にして奥から戻ってきた神官に声をかけられ、ソフィア達は祭壇の前に移動する。
「それでは新郎は左腕を、新婦は右腕をお出しください。こちらの聖布で結ばせていただきます」
差し出し、重ねた手首に真っ白い紐が結ばれる。
神官は二人の腕が結ばれたのをきちんと確認すると、魔力を練り始めた。
ーー《婚姻の儀》。
それは、その名の通り、夫婦となる者が受ける儀式だ。
一生に一度きりーーなんてことはないけれど。愛し合う者達が受ける儀式である。
神官は新たな門出を迎えた若人達の未来を祝福するように、祝詞を唱える。
「貴方がたは今ここで、夫婦の契りを交わします。健やかなる時も、病める時も、共に助け合い支え合うことを誓いますか?」
「おぅ、誓います」
「えぇ、誓いますわ」
「それでは誓いの口づけを」
(…………えっ!)
神官に促され、レインは隣に立つソフィアの方を振り向く。
そこで彼はピシッと固まってしまう。
「……………」
(……いや。顔、真っ赤過ぎだろ、ソフィア……)
ソフィアの顔は見るからに真っ赤だった。色白だから余計に目立つ。首も耳も、赤い。
だが、仕方ないことだ。だってソフィアはいつだって忙しくて、色恋なんてしたことがない。なのに、そんな色恋の代名詞とも言える口づけを、それも人前でするなんて……恥ずかしく思わないはずがない。
そう……ソフィアは政略結婚をすることになんの躊躇いもなかったというのに、実は結構〝初心〟だったのだ。
「……おーい、ソフィア……だいじょーぶか?」
「………ぁ、う……」
「………これ以上、赤くなんな。こっちまで照れんだろ……」
羞恥から滲んだ涙と更に赤くなった顔につられて、レインも同じように顔を赤くしてしまう。
初心な反応を見せる二人に神官はニッコニコだ。〝どうぞどうぞ、ごゆっくり〜〟と言わんばかりである。
だが、口づけをしなければいつまでも終わらない。というか、時間が経てば経つほど躊躇いが生まれて、余計に恥ずかしくなるだろう。
レインは大きく息を吐くと、彼女の頬に手を添える。
そして、「……するぞ」と小さく囁きながら、ソフィアの唇に触れるだけのキスを贈った。
「っっ!!」
ーーボンッ!!
ソフィアの顔が爆発したと勘違いするほど真っ赤になり、腰が抜けたのかその場に崩れ落ちかける。
「おっと!」
しかし、崩れる前にレインが腰を抱き寄せ、ソフィアは声にならない呻き声を漏らした。
それと同時に、聖布と言われた紐が結ばれた手首が熱くなり始める。
驚いてそちらを見ると、真っ白な紐はピカピカと七色に光り……布から伸びた黒い蔦のようなモノがシュルシュルと手首を這っていた。
「なっ……なんですのっ……!? これ!?」
「うぉっ!? これっ、呪われる訳じゃねぇよな!? 大丈夫だよなぁっ!?」
「ほほほほっ、大丈夫ですよ。これは夫婦の証が刻まれているだけですから。もう少しお待ちくださいね」
それを聞いた二人はハッとする。確かに、自分の両親の手首にも……こんな風な、黒い刺青のようなモノが刻まれていた。
この世界では結婚指輪の代わりに、この夫婦の証が手首に刻まれるのだ。
だが、こんな風に刻まれるとは知らなかったため……ついつい動揺してしまった。
冷静さを取り戻した二人は神官の言う通り、大人しく暫く待つ。すると、黒い蔦は動きを止めて〝ぶわりっ!〟と葉を生い茂らせる。
それを確認した神官は二人の手首から聖布を外す。
レインは反射的に手首の袖を捲って、刺青のような証がどこまで刻まれたかを確認する。
彼の行動を守っていた神官は広範囲ーー手の甲から肘の辺りまで刻まれた夫婦の証に「おやまぁ……」と感心したような声を漏らした。
「これは凄い。ここまで広い夫婦の証は初めて見ました。どうやらお二人はとても相性が良いらしい」
「………相性が良い?」
「えぇ。この証の大きさは、夫婦の相性で範囲が決まるとされていますゆえ。普通は手首を一周する程度なのですよ」
「「……………」」
その言葉が本当ならば、ソフィアとレインはとんでもなく相性が良いということになる。
二人はどんな顔をしたら良いか分からなくて、少し困ったような様子で顔を見合わせた。
「また、この証はご夫婦に相応しい草花が刻まれることから、花紋とも言われます。お二人に刻まれたのは……アイビーでしょうかね。〝永遠の愛〟の証です。ほほほっ、大変よろしいことかと」
「ど、ども……」
「えぇ。それでは、花紋の確認を以ちまして、お二人は夫婦だと認められました。《婚姻の儀》は以上になります。ご婚姻、おめでとうございます。お二人の未来に幸多きことを」
「「あ、ありがとう……ございました……」」
神官に見送られて、二人は神殿を後にする。
途中慌てはしたが、案外あっさりと終わったなと思いながら、神殿の前で二人は視線をチラリと寄せ合う。
これで二人は夫婦。苦楽を共にする関係性になった。それがほんの少しだけ……気恥ずかしい。
「……………取り敢えず。こっからもよろしくな、ソフィア」
「……えぇ、こちらこそ。よろしくお願いいたしますわ、レイン」
ソフィアとレインは少し照れながら、改めて挨拶をする。
こうして……後に破天荒夫妻と呼ばれるようになるソフィアとレインは、初々しい(?)夫婦生活〜ドキドキ☆両想いになれるかな?〜をスタートさせたのだった。
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