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こうして少女は助かり、隣国に到着しました。


スランプ〜続くよ〜どこまでも〜。


というわけで、かなりお久しぶりですが更新です。

お待ちいただいてる皆様には申し訳ないですが、今後も気長にお待ちいただけると幸いですm(_ _)m


では〜よろしくどうぞっ!


 






 美しい少女の手から放たれた白い炎が、馬車内部の寝台の上に横たわったイリアーナの身体を包み込む。



 なんの事情も知らなければ、恐怖映像だろう。

 だって、幼い娘の身体が火に包まれてるのだから。


 しかし、この炎は娘を救う唯一の手段ーーという訳でもないみたいだが。兎にも角にも、娘の命を救うためのものだ。

 ダナと護衛の冒険者達は固唾を飲んで、その光景を見つめる。



 そうして、その時は訪れるーー。



「ん……お父、さん……?」


 炎が消えるや否や、ゆっくりと持ち上がった瞼。

 ダナは娘の身体を抱き上げると、顔にかかった前髪を分けてやった。


「大丈夫かい、イリアーナ。苦しいところは?」

「え……?」


 そう言われたイリアーナは徐々にその顔を驚愕に染めた。

 自身の身体をペタペタと触りながら、動揺した声を漏らす。


「あ、れ……? なんで、苦しくないの……?」

「っ……! イリアーナっ……!」

「え? えっ? どうしたの、お父さん?」


 不思議そうにするイリアーナを抱き締めたダナは、ボロボロと泣いていた。勿論、それを見守っていた冒険者達も、だ。

 愛しい妻と同じ病気に罹ってしまったイリアーナ。可愛い娘までも失うかと恐怖した日々。

 それがやっと……終わりを告げたのだ。



 そしてーー。

 この出来事が後に《慈愛の聖女》と呼ばれるようになる少女の運命を大きく変えた日であることを、彼らはまだ知らない。





 *****






 イリアーナの体調に合わせてゆったりとした旅をしなくてもよくなったのと……ソフィア&レインによる大殺戮進行のお陰で、当初の予定よりも一週間も早く隣国トトリスに辿り着いた。



 ダナが店を構えているのは、トトリスの第二の王都と渾名される港街カリスだ。カリスにはトトリス最大の港があり……リゾート地としても栄えているのもあって、とても流通が盛んだ。下手をすれば、王都より品揃えが良い。

 そんなカリスに辿り着いた一行は、ダナ達を店の裏口まで送り届けると……深々と、彼から感謝の意を示された。


「皆さん、長きに渡る護衛、ありがとうございました。特に……ソフィアさんとレインさん。お二人にはどれほど頭を下げようが……感謝の意を表しきれません。イリアーナを救ってくださり、ありがとうございました」

「ありがとうございました!」


 父親を倣うように頭を下げたイリアーナ。

 そんな親子に、ソフィアとレインは互いに顔を見合わせる。

 そして……苦笑を零しながら、返事を返した。


「いいえ、どうかお気になさらないで。というか……わたくしが回復魔法を覚えたのは、この馬鹿の無鉄砲が原因ですし。悪く言ってしまえば、イリアーナさんが治ったのはお溢れのようなモノです。ですから、感謝は不要ですわ」

「そーそー。というか……ダナさんらは、逆に俺らがついポロッたヤバげな情報聞いちゃっただろ? どちらかと言えば……まぁ、プラマイゼロどころか若干マイナスな感じだし。それを考えたら、感謝は不要だわな」


 ーーピシリッ!

 レインの発言にダナとエイジン達は目を背け続けていたソフィアの王妃教育(爆弾発言)を思い出してしまい、頬を引き攣らせる。

 いや、まぁ……目は背けていたけれど、ついつい所作とか振る舞いとかを見てしまって〝うわぁ、貴族っぽい!〟とか〝マジで王子の婚約者だったぽい……〟とか改めて実感してしまったりもしたが。

 ダナ達は立派な平民だ。貴族のドロド〜ロなんて関わったら負けだ。触らぬ神に祟りなし。

 分かっていても、全力で見なかったフリをしていく所存である。


「と、とにかく! これで依頼達成だな! ダナさん、依頼書にサインを頼む!」

「あっ、はい!」


 慌てて話を変えたエイジンのファインプレーに乗っかったダナは差し出された依頼書に完了のサインをする。勿論、ソフィア達のにもだ。


「よし、サインを確認した。それじゃあ、また何かあったら依頼してくれ」

「はい。本当にありがとうございました」

「うぅぅ……お別れ、寂しい……」


 ダナの足元にしがみついて泣きそうな顔で呟くイリアーナの姿に、ルルとアリステラも寂しさからほんのり涙を滲ませる。

 色々とあった旅ではあったが……想定とは違うカタチで目的は達成され、最後には元気にアレは何、これは何と、はしゃぐ姿を見れるようになったのだ。

 折角仲良くなったのにもうお別れなんて、寂しくないはずがない。

 けれど……。


「大丈夫。《獅子の牙》は、カリスを拠点にしてるから、また会える」

「そうです! 暇な時は一緒に遊びましょうね!」


 その言葉の通り、《獅子の牙》の拠点はこの港街カリスだ。依頼によっては留守にすることもあるだろうが……同じ街で暮らしているので、気軽に会うことが出来る。

 そう言ってルルとアリステラが励ますと、イリアーナは「……うんっ」と涙声で頷いてから二人に抱きついた。

 それから、少し離れた位置にいるソフィア達をチラリと見上げる。


「………何かしら?」


 その視線に気づいたソフィアは不思議そうに首を傾げる。

 幼い少女は真剣な眼差しを向けながら……口を開いた。


「ソフィアお姉ちゃんとレインお兄ちゃんにも、また会える?」

「……………」

「これが、最後になっちゃう?」


 そう問われたソフィアは、困ったように頬に手を当てた。

 イリアーナは同じ女性であるルルとアリステラに懐いていたが、ソフィアとレインにも懐いていた。

 ルル達ほど面倒を見たという訳でもないのだが、治療に貢献したのが二人だから無条件で懐いてくれたのかもしれない。

 ゆえに、イリアーナが《獅子の牙》のメンバーと別れるのを寂しがるように、二人と別れることも惜しんでいた。

 しかし、ソフィアとレインはどこかを拠点をにしている冒険者ではなく、駄女神にクレーム入れに行くという目的があって旅をしているのだ。現在の目的地は駄女神の声を聞くことが出来るという巫女に会いに行くことだが……その先はどうなるか分からない。

 それに加えて、世界を見て回るという目的もある。

 だから、また会えるかどうかと聞かれたら……。


「運次第、になるわね」

「…………絶対、じゃないんだ……」

「あははははっ、そりゃ無理だぜ。だって俺らは冒険者。そう易々と死ぬことはねぇだろうけど、どうなるかなんて誰にも分かりゃしないんだ。だから、絶対に会えるなんて約束なんざ出来やしねぇって」


 レインのあっけらかんとした答えに、イリアーナは「そっか……」と悲しそうな顔をする。

 だが、彼女は直ぐにキリッと真剣な表情になると……二人の元へと近づき、片方ずつ、その手を握り締めた。


「また会えるって約束出来ないのは悲しいけど……でも、生きてればまた会えるかもしれないから。だから、なるべく無理をしないでね」

「それはレイン次第ですわね」

「いや、俺そんな無理してねぇよ?」

「手、腐らせてるのに何言ってますの?」

「二人にっ! 言ってるからね!!」


 自分達よりも遥かに幼い少女に怒られて、ソフィア達は大人しく頷く。

 そんな二人を見て、イリアーナはにっこりと笑うと……ギュッと強く抱きついた。


「この街に来た時は会いに来てね! またね!」


 そうして笑顔で見送られ……親子と別れを交わしたソフィアとレインは《獅子の牙》に連れられて、商業区画と鍛治区画の間ぐらいに位置する冒険者ギルドへと向かう。

 歩いて数分。人通りの多い道を進み、商業区域の奥から中程まで進んだところでーーーーレインがぽつりと、小さく呟いた。


「とまぁ……なんか結構感動的な別れの挨拶を交わしたが、実は二日ぐらいこの街に滞在する俺らなのであった」

「…………つまり、会おうと思えば明日にでも会えてしまうのですわね?」

「そゆこと」

「ぶはっ!?」


 隣を歩いていたリーフが、そんな二人の会話を耳にしてしまったのか思いっきり噴き出す。

 ゴホゴホッと咳払いする彼はチラリと先を歩くエイジン達を見る。彼らに先ほどの発言が届いてなかったことを確認すると……コソッと二人な声をかけてきた。


「え? あんな〝もうこの街を出るから会えないよ〟みたいな別れしといて? この街に滞在予定ーーって、滞在するに決まってるか。いや、そうだよね? 長期依頼の後だもんね? 駄目だな……冒険者として普通のことなのに、二人には当て嵌まらないって考えてちゃったっていうか……いや、それでも二日間なんて短いとは思うけどね……」


 冒険者は基本的に、長期の依頼の後は休みを取るのが普通だ。それは依頼の疲労を癒すためであり、体調コンディションを整えるためでもあり、息抜きのためでもある。

 人によっては依頼で稼いだ金が無くなるまで自堕落に暮らし、金が無くなれば依頼を受けるーーなんて感じで、仕事をしている冒険者だっている。

 隣国を移動するほどの長期依頼の後の休みが二日、というのは短過ぎーー……。

 …………この二人に限ってはそれで充分なのかもしれないとリーフは考えを改めた。なんせ、規格外な二人なので。

 彼は苦笑を零しながら首の後ろ辺りを掻く。

 ついでに……〝まだこの街にいるならば〟と、ある提案をした。


「あのさ……差し支えなければ、二日間の予定を聞いても? ほら、今回色々と世話になったからさ。なんか消耗品とか補充するなら、オススメのお店とか案内出来るかもしれないし」


 進行の邪魔になりそうな魔物をレイン(というか、精霊)が遠距離から全て倒してくれたお陰で、今回の護衛依頼はとんでもなく楽をさせてもらったのだ。今までに類を見ないほどに、だ。ある意味、サボったと言っても過言ではない。

 本来ならば依頼達成報酬を辞退して、全て二人に差し出すぐらいのことをしなくてはならないと思うほどなのだが……生憎とリーフ達にも生活があるし、冒険者は何かと入り用になるので、報酬を貰わないという選択肢はない。

 そのため、他のことで二人に還元しようと、リーフはこの街の案内役を買って出たのだった。


(案内、ですの……)


 その提案を聞いたソフィアは、隣を歩くレインに視線を送る。

 ソフィアは箱入りだ。いや、駄女神強制ダンジョン転移という名のサバイバルはやったことはあるにはあるので、下手な冒険者よりも冒険してるが……冒険者としてのイロハを知らない。つまり、冒険者が何を使うのか、何を補充しなければいけないのかが分からない。

 ゆえに、この提案をどうするかを、レインに一任することにした。


(………案内、ねぇ)


 ソフィアから一任されたレインは、ほんの少し困っていた。

 ぶっちゃけ、数年前にこの街に来たことがあるレインとしては、オススメの店の紹介とかいらなかったが……まぁ、年数経ってるから店も変わっているだろうし、この街に暮らす人しか知らない隠れた名店とかがあるかもしれなかったので、受けた方がいいかなと考える。

 そうと決まれば早速、レインは彼から店の紹介を受けることにした。


「んー……まぁ……取り急ぎはソフィアの装備品だな。とは言っても間に合せだから、そこそこの品質のモンを取り扱ってる店を紹介してくれるだけでいいぜ?」

「………えっ、それだけかい?」

「おぅ」

「いや、流石にそれは……もうちょっと何か出来ることないかい?」

「えぇ……じゃあ、美味い飯屋」

「更にもう一声!」

「ねぇよ!」


 レインは〝えぇ……〟って顔をするリーフに、呆れ顔を向ける。

 彼の内心は薄々察してるが、本当にそれぐらいしか求めることがないのだ。


「だってよ……水属性の回復魔法が使えるから、回復系の道具アイテムは殆ど消費しねぇのよ。それに、ソフィアも回復魔法が使えるようになったから、更に不要だし。冒険に必要な道具も消耗品もストックあんだわ。俺のバックパック、拡張魔法と時間停止魔法がかかった特別製だからな」

「えっ」

「なお、Sランクなら普通」

(そうだった! この人、Sランクだった!)


 何度も忘れかけるが、レインは数少ない《歩く天災》ーーSランク冒険者だ。

 振る舞いがあまりにもテキトーなので……規格外だと思っていても、なんか無駄にSランクであることを忘れてしまう。


「んで……装備品の方だって、多分無駄だろうけどないよりは多少マシだから言ったぐれぇなんだわ。流通が盛んとは言え、この程度の街で売ってる程度じゃソフィアに釣り合わねぇ。超高品質なモンじゃなきゃ、()()()ソフィアについていかねぇ。それこそドワーフの国とかエルフの国に行かにゃ駄目なレベルだ。だから……本当に繋ぎで充分なんだよ」


 そう言われてリーフは勿論、当事者であるソフィアも納得する。

 ソフィアの能力はかなり高い。なのに、その能力に適さない装備品では、装備品の方が先に壊れてしまうだろう。

 命を預ける装備品に手を抜くことなど三流冒険者がすることではあるが、釣り合わない装備であればどうしようもない。

 レインの言う通り、ちゃんと見合った装備が手に入るまで間に合わせるしかない。

 その説明にリーフは「それなら仕方ないよね」と苦笑を零して、頭を掻く。

 そして、〝こんな程度しか力になれなくてごめんね〟と言わんばかりの顔で、口を開いた。


「うん……まぁ、分かったよ。じゃあ、僕らがよく通ってる店を案内するね。朝の十時ぐらいに中央広場に待ち合わせ、でどうかな?」

「あー……午後にしてくれね?」

「ん? どうしてだい?」

「明日の午前中は神殿行って《婚姻の儀》を受ける予定なんだわ。だから、午後からの方がありがたいってだけ」

「………………」


 それを聞いたリーフは〝ぴっしゃーーん〟と衝撃を受けて、思わずその場に立ち止まってしまう。

 …………いや、忘れてた訳じゃないけど。あまりにも衝撃が強くて、忘れられるはずがなかったけれど。



 《レインお説教事件》から一切、その話出てなかったからものだから!

 まさかこんなところでそんな話が出てくるとは思っていたリーフは、驚かずにはいられなかった!



 だが、足を止めなかったがキョトンとした表情のソフィアが発した言葉を聞いて、更に驚くことになるのだった!



「まぁ、初耳。そういうのは早めに言っておいてくださる?」

(エッ!?!?)

「……あれ? 言ってなかったか? ……まぁ、そういうことだ。明日結婚するぞ」

「えぇ、分かりましたわ」

(えぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?!? それで良いのかい!?!? 良いのかよ!! もうちょっと真剣な方がいいと思うよ!? なんせ結婚だからね!?!?)



 ーーなお、生憎と小心者であるリーフはその本音を堂々と口にすることは出来なかったとさ。



 とまぁこんな感じで……シレッとした感じで、二人は明日の予定という名の結婚式を決めたのであった(マル)








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