闇深を垣間見て、夢砕ける。
この場を借りてお礼m(_ _)m
誤字脱字ありがとうございます! 今後もよろしくお願いします!
不定期更新でごめんなさい!
なんかまたスランプ(?)みたいです……今後も不定期になりそうですが、どうぞ気長にお待ち頂けると幸いです。
それでは〜よろしくどうぞ( ・∇・)ノ
言ってしまえば……レインはソフィアのことをナメていたのだ。
駄女神に強制的にダンジョン転移させられて、サバイバル経験が豊富だろうが……所詮は貴族のお姫様。
甘やかされて育ってきたのであろう貴族。
自分達のことしか考えない貴族。
青い血が流れているからと傲慢な振る舞いをする貴族。
平民を見下す、高圧的な貴族。
他者を犠牲に、贅沢を貪る貴族。
そんな貴族しか見たことがなかったからこそ……レインは心のどこかで、彼女を他の貴族達と同じように見てしまっていたのだ。
だが、ソフィアは違った。
彼女は他の貴族と違って、とっくのとうにその手を血で汚して……きちんと命に向き合っていた。
レインは初めて、本当の貴族と出会ったのだ。
そして……惚れた。
向けられた殺意と、殺害予告に……完膚なきまでに、惚れてしまった。
だって、ソフィアからあんなにも濃密な想いを向けられて……胸が高鳴らずにいられるだろうか?
自分よりもレインの命を大切だと思ってくれていて。軽々しく扱うならばその命を奪って、背負って生きていくとまで言われてしまったのだ。
そんな強烈な愛ある言葉……レインが、惚れないはずがない!
……。
…………。
さて……少し話は変わるが、思い出して欲しい。
Sランク冒険者ーーそれは《歩く天災》と称される、話の通じない化け物達の総称である。
で……レインは比較的に他の奴らよりは話が通じるが、やっぱり話が通じないことも多い。
つまり、レインもSランク冒険者らしく、どっか頭のネジがぶっ飛んでいるのだ。ついでに言うと、あの駄女神の干渉を受けているので……悪役令嬢が相手になると、更に数本ぶっ飛んでいく。
要するに……。
殺意を向けられてソレが理由で惚れるとか……レインに限った話ーーというか、ある意味レインの特殊性癖???ーーなので、決してこれが普通だと思わないようにして欲しい。
*****
「………………」
ソフィアは真顔だった。
目の前にはニコニコしながら、自分の返事を待つレインの姿。
ちょっと離れたところには、〝何言ってんだ、コイツ……〟と顔で言っているダナ達。
ソフィアは黙り込んだまま彼らの顔を確認し、もう一度目の前の男を見つめる。
そしてーー……。
「レインと婚姻するにあたっての利益と不利益はなんですの?」
拒否するでも受け入れるでもなくーー淡々と、そう返事を返した。
「………ん? 結婚における利益と不利益?」
レインはぱちくりっと目を瞬かせながら、首を傾げる。
本音を言うと、速攻で拒否されるか殴られるかと思っていたので、まさかこんな返事が返ってくるとは思わなくて驚いた。
しかし、こんなこと言うのもアレだが……レインが普通ではないように、ソフィアも普通ではない。彼女は、至って平常運転で、頷いていた。
「えぇ。利益が多いのであれば、婚姻しても構いませんわ」
「えっ、マジで? 即拒否られるかと思ってたから、そんな返事がもらえるとは思わなかったわ」
「………? レインが言い出したのでしょう?」
「いや、そうだけどさぁ? うーん……」
レインは考え込む。
なんか随分と都合が良い展開になっている気がする。
多分……というか、ソフィアは明らかに自分に恋慕を抱いている訳ではないはず、だ。
なのに、婚姻するのに躊躇いがない。それどころか、だいぶ淡々としている。まるで、婚姻はビジネスの一つかのようにーー……。
「ちょ、ちょっと待ってください! ソフィアさん! 駄目です、駄目ですよ! 結婚は好きな人同士がするものです! 利益とかでしてはいけないですよ!」
と、そんな風に考えて油断していたからか。
今の今まで震えていたアリステラが、ググッとソフィアに詰め寄るのを許してしまった。というか、彼女の鬼気迫る顔が凄過ぎて、レインは固まった。
だって、あんなにもソフィアを警戒していたのに、今では肩を掴んでぐわんぐわんっと揺するほどだ。後ろでダナ達ーーリーフだけは大笑いしているーーが悲鳴をあげているが、それにすら気づいていない。
だが、それほどにアリステラにとって、ソフィアの発言は衝撃的だったらしい。
しかし……そんな彼女を見て、ソフィアは意味が分からないと言わんばかりの顔で首を傾げた。
「何をおっしゃっているの? 婚姻は契約でしょう? 家と家の繋がりを強くするため、同盟の証、人質、後継ぎを産むため、血統を保持するため……そういうために、婚姻をするのでしょう?」
「いやいやいや、絶対違いますって! 結婚は愛し合う二人が交わす、永遠に共にいるための誓いなんです!」
「いいえ、違わないわ。愛がなくても子供は産めるし、永遠に共にいる誓いなんて存在しない」
「いいえ、存在しますぅ! じゃなきゃ結婚しようなんて思わないでしょう!?!?」
「…………貴女、結婚に夢見てるのね」
ソフィアは呆れた顔を、幼い少女に向ける。
いつもの濁った瞳に似ているが、似ていない……なんの感情も宿っていない瞳。
それを間近で向けられたアリステラは〝ピキィン!〟と固まる。
だが、それでも夢見る少女は強いのか。アリステラはキリッと表情を引き締めた。
「なんですか!? 結婚に夢を見ちゃいけないんですか!?」
「いいえ、価値観なんて人によって違うもの。貴女にとって婚姻とは愛と幸せを象徴するモノなのかもしれないけれど……わたくしにとっては違うということを、理解してもらいたいわ」
「……!」
アリステラは泣きそうになりながら、黙り込む。
決して、どちらも悪くないのに……まるでソフィアが虐めているかのようだ。
流石にこの状況はマズイと思ったのか……ルルが「割り込んで、ごめん」と言いながら、アリステラの前に立つ。
そして……真顔のソフィアと、泣くのを堪えるアリステラを交互に見てから、口を開いた。
「……えっと……ソフィアさんも、アリステラも、どっちも正しい。ソフィアさんは、元貴族、だよね?」
「………えぇ」
「貴族は、政略結婚が普通だって、聞いた。だから、ソフィアさんの価値観も正しい。でも、アリステラの価値観も、普通だよ。平民が結婚するって、愛し合ってから、だから。だから、互いに違う価値観なんだから……アリステラ、自分の結婚像を押し付けるのは、駄目だと思う」
そう……ルルが言う通り。
ソフィアの価値観は貴族なモノであり、アリステラの価値観は多少夢見がちではあるが平民の中では普通の感覚だ。
だが、だからと言ってアリステラが〝自分が結婚とはこういうモノだから、他の人も同じじゃなきゃ駄目!〟と押し付けるのは烏滸がましい話だ。人の数だけ、考え方や性格は違うのだから。
しかし……ルルは彼女のことを可愛い妹分だと思っている。だから、ほんの少しだけ贔屓をするように……ソフィアに声をかけた。
「でも、結婚に愛がないって、ことはないと思う。結婚してから、愛が生まれるパターンもあるらしいし……」
「…………いいえ、それは他の方に限った話でしょう。わたくしの場合は、絶対に愛は生まれないと思いますわ。だってわたくし、婚約者に殺されかけましたし」
『……………………エッ??』
ソフィアの爆弾発言に、ダナ達は固まる。
そんな彼らを見たレインは〝あっ、話すんだ?〟と、事の成り行きを見守ることにした。
「血筋が相応しく、権力のバランスを考えて、わたくしは〝あの方〟と婚約させられた。そして、将来的に〝あの方〟を支えなければいけなかったから、寝る間も惜しんで教育を受けることになったわ」
『……………』
「まだそれだけなら多少は余裕があったかもしれないけれど……わたくしは定期的に強制的なダンジョン攻略も課されていた。そんな自分の時間も取れずに疲労困憊な日々、いつの間にか婚約者には恋人が出来ていました。まぁ、構いませんわ。きっと彼は、その恋人を側妃にするつもりだったのでしょうし。彼女は聖女らしいですから……娶ることを反対する者はいませんでしょう」
『……………………………』
ダナ達は思った。
〝ちょっと待て? 今、すっごいヤバい情報が出てきてないか……?〟と。
「そして、数日前ーー学園の授業で行われたダンジョン攻略で、婚約者の恋人が転移トラップを踏み抜きまして。深層に落とされましたの。ですが、婚約者を始めとした他のパーティーメンバーの方々は脱出用の魔道具を使って……わたくしをミノタウロスの前に置き去りにしましたわ」
『…………………………………………』
「そうして、わたくしはレインと出会ったのです。ね? 自分達が逃げるための時間稼ぎをするために、婚約者であったわたくしに攻撃を仕掛けてくるような奴との間に……愛が生まれると思いまして?」
ーーバッリィィィィン!!
真顔のまま首を傾げるソフィアを見たダナ達は、崩れ落ちたアリステラの方を向く。
確かに今、夢見る少女の夢が砕け散った音が、聞こえた気がした。
あわあわとする彼らを見ていたソフィアは、本来は当事者であるのに傍観者に徹していたレインの方に視線を動かす。彼はキョトンとしながら、のほほ〜んっと口を開いた。
「ん? どした?」
「…………レイン」
「おぅ」
「………貴方もアリステラさんと同じ考えであるなら、わたくしとの婚姻の話はなかったことにしてくださいませ」
「え? なんで?」
首を傾げる彼に、ソフィアも首を傾げる。
互いに不思議そうにしながら、話を続けた。
「だって……平民は愛し合ってから婚姻するのでしょう? わたくし、レインのことは人として、同志としては好いていますけど……異性として好いているとは言えませんもの。ですからーー」
「いや、それでも俺はソフィアと結婚するつもりだぜ?」
「……………そうなの?」
「あぁ。だって、俺は利害関係から始まったって、構わねぇもん。ソフィアは結婚しても愛なんて生まれないなんて思ってるかもしれないけど……それって正確には、結婚してから愛が生まれないのは元婚約者が相手に限った話で、俺はまた別だろ? 俺はもうソフィアに惚れてんだから、ソフィアが俺に惚れれば、それがもう愛に変わるのは時間の問題だろ。つまり、ソフィアが俺に惚れるように、俺が頑張りゃ良いだけの話って訳だ」
「…………確かに、そうですわね??」
ソフィアはぱちくりっと目を瞬かせる。気分的には、目から鱗だった。
婚姻に愛なんて存在しないと思っていたのは……政略結婚が当たり前と言った価値観の中で生きてきたのもあるが、あの王太子相手では、絶対に愛なんて存在しないと思ったからだ。
しかし、それはあの人に限った話であって、レイン相手ではまた別の話だ。現に、彼のことは人間として好いているのだし……一緒にいる内に異性として好きにならないとは、現時点では言い切れない。
「取り敢えず、ソフィアと結婚したら、俺は絶対にお前を裏切らねぇし浮気もしねぇよ? なんなら誓約魔法使っても良いしな」
「………そこまでしますの?」
「するする。だってよ? ソフィアが結婚にそこまで淡々としてんの、元婚約者が他に恋人作ったのも一因だろ」
「そう、なのかしら……?」
ソフィアは困惑する。
自分自身ではそう思ったことはなかったのだが……心のどこかで、なんとなく納得している自分もいる。
王太子への恋慕なんてモノは一切ないと断言出来るが、どうやらそれでも。彼のためにあんなにも厳しい王妃教育を受けたのに、当の王太子が他に恋人を作っていたことに……婚約者の不義理に憤る気持ちぐらいはあったらしい。
…………今の今まで、レインに言われるまで気づかなかった。
ソフィアは自分が自分の気持ちを把握出来ていなかったという事実に、心底驚かずにはいられなかった。
「まぁ……感情が鈍るぐらい、当時のソフィアは追い込まれて、疲れてたってことだろ。今はゆっくりしてるから、本来のソフィアが戻ってきてるんだろーな」
「……そう、かも、しれませんわ……だって、王妃教育を受けていた時のこと……今でははっきりと思い出せないぐらいなんですもの……」
「うん、そりゃ相当追い込まれてたな! 記憶が曖昧ってヤベェと思うぜ!」
愕然と呟くソフィアを見て、レインは心の中で決心する。
本気で、彼女のことを幸せにしようと、決心せずにはいられなかった。
という訳で……レインは改めて、自分との結婚のプレゼンをすることにした。
「兎にも角にも。ソフィア達が話してる間に俺と結婚する利益、不利益に関して頭ん中でまとめたんだが……説明しても?」
「え? あっ、えぇ……お願いしますわ」
「よしきた! それじゃあまず、利益からな〜」
そうして結婚に関して事務的に(?)話し合うソフィア達と……崩れ落ちたアリステラを慰めるダナ達という、中々に混沌な光景が出来上がる。
偶然にも側にあった道を通った名もなき行商人は……〝えっ、何あの一行……コワッ〟と、素早く走り去って行くのだった。
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