レロレロ悪役令嬢、運搬中。【裏】〜悪役令嬢が払った代償は〜
シリアスPart 2
今日の迷言
「Sランク、基本話が通じぬ、歩く天災」
よろしくね!
朝ーー。
宿の部屋から出てきた時点で、ソフィアの体調は絶不調だった。
青白い肌。気持ち悪そうに押さえる口元。見るからに具合が悪い。
流石のダナも体調が悪い人に無理させるつもりはなく、もう一日この街に泊まるかと考えたのだが……それを止めたのは、まさかのレイン。
彼は〝自分が彼女を連れてくから、出発しよう〟と提案して、無理やりにも近いカタチでその街を後にした。
…………本音を言うと、ダナはそんな彼にちょっと嫌悪感を抱いた。
ダナはかなり紳士的な性格をしている。要するに、女性を大切にしない男を嫌っている。
だから、まさか連れ合いであるレインがソフィアに無理をさせるなんて……と思ったのだ。
しかし、実際のレインは彼女をお姫様抱っこで運んでいるし。
護衛として役に立たないソフィアの代わりに、大精霊召喚なんていうとんでもない魔法使うし。
はっきり言って意味が分からない。
分からなくて、分からなくて、どうしても分からなくて。
ついに我慢出来ずに〝何が起きてるのか?〟を聞いてしまった。
そうして聞かされることとなった、ソフィアの体調不良の理由。
結論から言うと……ダナは色んな葛藤を抱えながらも、取り敢えず二人に対して頭が上がらなくなるのだった。
*****
意識を手放したソフィアを落とさぬように。改めて抱き上げ直したレインは、ゆっくりと顔を持ち上げた。
視線の先にいるのは……〝もう少し詳しく話してくれません?〟と言った顔をしているダナとエイジン。ルルの方はまた魔法について話が聞けると思っているのか、目をキラキラさせている。
レインはそんな彼らの様子に苦笑を零してから……欠かすことでもなかったので、ソフィアが〝こうなっている〟理由を詳しく説明することにした。
「…………うーん……どっから話すかな」
「そりゃあ最初っからだろ。オレらはダナさんの依頼を受けた冒険者で、護衛依頼を受けた。全てを依頼主に明かす義務がある。それに……護衛する側が体調を崩してるなんて、仕事に対する意識が足りないだろ」
「あはははっ、そりゃそうだ! 確かに正論! でも、ソフィアがこうなってんのには理由があんの。それに……代わりはちゃんと準備してんだから、そこまで怒んなよ」
レインはケラケラ笑いながら、大精霊ウィンディーネを指差す。
具合が悪いソフィアが護衛を全う出来ないだろうからと召喚された……国家単位の戦力を保有する幻想の生き物。
…………こんなちゃっちい旅一行には不釣り合いな存在に、エイジンは押し黙らずにはいられなかった。
「えっと……それで。ソフィアさんの体調が悪い理由は?」
「始まりは昨日。ダナさんの娘さんを見て、ソフィアは〝どうにかしてやれないかな?〟って考えたみたいなんだが……」
本当は聖女が原因でイリアーナが救われなかったことに罪悪感を抱いたからなのだが……それを素直に告げる訳にはいかない。
そのため、レインは嘘と真実を織り交ぜて説明をすることにした。
「結果から言うと、実際にソフィアには娘さんを助けられる可能性があった」
「……………………は……ぇ?」
「その準備のために、このレロレロ状態ってなってるって訳だ」
ダナは呆然としたまま、固まる。
今、目の前の青年が告げた言葉を……頭が理解する方が出来ない。
思わず、馬を操る手が止まるほどに……彼は動揺していた。
「……………イリアーナを、助けられる……?」
縋るような目で見られて、レインは肩を竦める。
彼は「進みながら、話を続けようぜ」と前に足を進める。
ダナは止まっていた手を動かし、慌ててその後を追った。
「《魔力閉塞症》だったか? それって、体内で循環してる魔力が詰まっちまう病気なんだろ? つまり、魔力は血液と同じってことで、要は血栓の魔力verが出来てるってことだよな?」
「? け、けっせん?」
「魔力の流れを水に見立てて水属性の使い手が無理やり魔力を回して、魔力栓をぶっ壊す……なんてのも出来るかもしれねぇけど。流石に無理やりなんて身体に負担がデケェだろうし、飛んだ魔力栓がまた他のところで詰まるかもしれねぇし。だったら、その魔力栓自体を溶かしちまった方が安心だよな」
「????」
「ソフィアは火属性だから、その魔力栓を溶かせる。んで……火は破滅と再生の象徴。火属性は攻撃面ばっかりが有名だが、浄化に使われたり、活性化に必要不可欠だったりすんだよ。だから、栓を溶かした後、魔力路ごと火にかければ魔力栓が出来にくい体質に変えられると思う」
「「??? ????」」
ダナとエイジンは、レインの説明に首を傾げる。受けた説明の内容が、理解出来なかったのだ。
だが、それも仕方ないこと。レインの説明はかなり先進的ーー言うなれば、前世の医療知識とこの世界の魔法知識を合わせたハイブリッド説明だったのだ。
この世界では魔法が発展したからこそ、前世のように医学が発展していない。つまり、血栓とか言われても分からない。
加えて……前世のレインは医療について学んだことがない。なのに、医療単語を交えた説明を、無意識かつ違和感なくしている。
無意識の部分があるからこそレインは余計に、ダナ達が理解出来ていないことを理解出来ずに話し続ける。
「とは言っても……あくまで可能性の話。さっきも言ったが、今は準備してる段階だし。そもそも成功するとも限らねぇ。だから、そこまで期待すんなよ」
「かのう、せい。じゅん、び」
「そうだ。ソフィアは魔力量が多いから、繊細な操作が苦手だ。まぁ、感覚派は総じてそうなんだが。けど、治すとなっちゃぁ繊細な操作は必要不可欠。ピンポイントで魔力栓を溶かさなきゃならんし。だから、魔力の総量を減らして、魔力を扱い易い状態にして……魔力操作を叩き込む。そっから、俺の身体を使って練習して……それでやっと、娘さんの治療チャレンジだな。まだまだ先は長いぜ」
レインは〝ヤレヤレ〟と溜息を零す。
ぶっちゃけ、分からない部分が多過ぎたが。それでもダナは、二人が自分の娘のために頑張ってくれているのだけは理解出来た。
「質問」
しかし、ルルがいつになく強張った声をあげる。
あまりにも緊迫感の漂う表情に……どうやらこの説明に〝何か問題〟があるのだと察した。
「身体、練習って言った? つまり……故意に〝同じ〟にする?」
「あぁ、そうだぜ?」
「自ら《魔力閉塞症》起こすなんて、自殺行為。意味、分かってる?」
「「!?!?」」
ダナとエイジンは、ゆったりと笑うレインに絶句する。
《魔力閉塞症》の辛さを、ダナはよく知っている。娘が苦しむ姿を見てきたからこそ、どれだけ苦しいかが分かっている。
なのに、それを自ら発症させるなんてーーそんなの、許容出来る訳がない。
しかし、ダナがそれを口にする前に……レインが口を開いていた。
「分かってるとも。だってそれが、ソフィアの払った代償なんだからな」
「……………は?」
ーー〝代償〟。
そんな場違いにも思える言葉に、その場の空気が固まる。
「…………まぁ、言うまでもなく察してるだろうが。コイツは良い教育を受けて育った」
ソフィアは王妃教育を受けてきたからか、所作が優雅過ぎる。それでどうせ元貴族だとバレてしまうため……敢えて口調矯正なんてさせていなかった。
冒険者は〝訳アリ〟が多いので、敢えて調べようとしてこないし。勝手に没落貴族なんだろうと、察してくれるからだ。
「だからなのか、今でも上に立つ者として困ってたら助けなきゃって思ってるらしくてなぁ? 随分とまぁ傲慢な考えをしてるもんだと思った訳よ。助けようとするってことは、手を差し伸べた相手に対して責任を持つってことだ。今回は人の命がかかってる。ってことは、人の命を背負うってことだろ? それをコイツは理解しちゃいねぇーんだから……笑えるってモンだぜ」
「「「…………」」」
「だから、それをよぉ〜く理解してもらおうと思ってな。俺の命を賭けることで、命の背負う重さを……恐怖を知ってもらう。それが俺が課したソフィアへの代償なんだよ」
ケラケラと笑いながら言い放つレインは、どことなく不気味だ。
ダナは顔を歪めながら、叫んだ。
「…………で、ですが……! そんなのしなくても、ソフィアさんなら理解してもらえるんじゃ……!?」
「勿論そりゃそうだ! だって、ソフィアは馬鹿じゃねぇからな!」
「!?」
あっさりと肯定されて、言葉を失う。
言葉で理解してもらえるなら、レインがしようとしていることは無意味なことだ。それを知っていながら、彼は実行しようとしている。
ダナは更に声を張り上げた。
「分かっていて、何故!?」
「だって仕方ないだろ? ソフィアは甘いから困ってる奴がいりゃぁ誰にでも手ェ貸そうとしちまいそうなんだもの。この世は汚いモンばっかりなのに、ソフィアはお綺麗過ぎる。こんなの簡単に貪られちまう。ちっとずつ汚してかねぇと、苦しむ羽目になんのはソフィアの方だ。どうせ苦しむなら、他の奴じゃなくて……俺の手で苦しませてやった方がマシだろ?」
いや、レインの言い分も分からないでもないが。
だからって、やることがぶっ飛び過ぎていないだろうか?
…………普通の人間が選ぶ選択ではないと、ダナ達はドン引きする。
「それに……ダナさんの娘さんーーイリアーナを救いたいとソフィアが願ったから。俺は彼女の願いを叶えなきゃいけない」
「「「??」」」
何度目か分からないダナ達の首傾げに、レインは苦笑を返す。
レインは、駄女神によって〝悪役令嬢のお助け係〟にされた存在だ。お助け係なんて言っているが、実際は悪役令嬢の下僕と同義である。
悪役令嬢を誰からも守らなきゃいけないし……悪役令嬢が望むなら、レインはその願いを叶えなくてはならない。
そんな事情を知らない彼らには、レインの行動は奇行ーー凶行にしか見えないのだろう。だからと言って、それも話してやるつもりはレインにはなかったが。
「ま、そういう訳で。説明は以上な」
「「………………(……えっ? なんかまだ隠してそうなんですけど……?)」」
「ダナさんとエイジン、〝まだ隠したんだろ……?〟って顔すんなよ。まぁ、隠してっけど」
「「隠してんのかよ」」
「全部を話す訳ねぇだろ。冒険者なんざ〝訳アリ〟ばっかなんだから。それにお忘れかもしれねぇーけど、俺、Sランクな? 色々とアレだぜ? 知ったら逆に自分達の首、絞めんぞ?」
ーーピシリッ!!
レインの指摘に彼らは固まる。
そう……そうだった。至って普通に話が通じる(?)から忘れていたが……レインは話が通じないSランク冒険者の一人なのだ。その身が抱えてる機密は、トップレベルのヤバさである。
彼が隠していることを暴き、それを実際に知ったら……語彙力なくなるレベルで、ヤバい。
「まぁ、つー訳でこの話は終わりな。あ、ソフィアはこのレロレロ状態が代償だと思ってから、本当の代償については言うなよ? 自分で気づかせんのが大事だし。もし喋ったら……分かってんだろ?」
そう言って脅しかけてくるレインを見て、頬を引き攣らせたダナ達は思う。
ーーーー〝あっ……今日一の命の危険を感じる〟……と。
Sランク冒険者にも話が通じる人がいるだ……と思っていた彼らだったが。やっぱりレインは紛うことなきSランク冒険者だと、改めて実感するのだった……。
ちなみに……。
「うはぁ〜……嫌な予感がして後方警備担当になって良かった! なんか物騒だわ!」
「…………確かに、あの会話に入ってなくて……良かったですね……えぇ……」
リーフとアリステラは微かに聞こえてきた会話の物騒具合に、後方担当で良かったと……遠い目をしていたのだった。
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