レロレロ悪役令嬢、運搬中。【表】〜実はインテリ(!?)レインさん〜
表があれば裏がある。
という訳で、今回は明日の【裏】と合わせて一つ(?)のお話みたいなもんです。
取り敢えずシリアスなんだなぁ〜? 多分。
まぁ、よろしくね!
実を言うと……この世界で一番、駄女神からの被害を被っているのは悪役令嬢ではなく、転生冒険者の方だったりする。
ーーそれは何故か?
本来ならば、レインという青年は冒険者になることすらなく……一介の村人Rという存在で終わるはずの人間だったからだーー…………。
ーーーーと、いう訳で……。
これ説明した上で、レインのソフィアへの抱きつき理由(個人)の話に繋がる。
先に説明したように、本来のレインの人生は村人Rで終わるーー要するにモブであった。平和過ぎて逆に退屈するような平凡な村の出身で……農作物を育て、同じ村娘の幼馴染を嫁に貰い、オチもヤマもない平凡な人生を歩むはずだった。
しかし、彼は前世の記憶を持っていたため、駄女神に目をつけられてしまったのだ。
今では駄女神の祝福(※悪役令嬢お助け係としての能力オンリー。なお、ソフィアに必要となれば適時自動更新されていくという、なんか無駄に高度な呪い)を受けているため、Sランク冒険者まで上り詰めているが……。
それでも元がモブだからか。彼の基礎スペックはとても低い。特に魔力生成量がかな〜〜〜り少ない。どれくらいかと言うと、生命活動に必要な量に毛が生えた程度しか魔力を作れない。駄女神でもそれだけは変えることが出来なかったようだった。
逆に本来は村人なのに、駄女神の祝福の効果によってSランク冒険者にまでなったのだから……駄女神の力の〝とんでもなさ〟が分かるというモノだろう。まぁ、そんなチート性能な女神の祝福も、それほど万能ではないというのがこの〝魔力生成量〟から証明されているのだが。
とにもかくにも。
レインは魔力を受け止めるーー貯めるーー器はとても大きいのだが、魔力を作る量が途轍もなく少ないという欠点を抱えている。そうとは言え、日常的に生成した魔力を溜め込んでいるので、一切使えないという訳ではない。
それでも、下手に魔法を使い過ぎると、ポックリ逝ってしまう可能性が高かったため……レインは大事を想定して、基本的に魔力を使わないようにして生きてきたのである(←ここ、レインが剣の方が得意と言っていた理由でもある)。
だが、しかし。ここにきてソフィアのご登場だ。
元々、駄女神によって悪役令嬢と出会うことは定められていたので予定調和感が否めないが……彼女と出会ったことで、レインはその魔力生成量が少ないという欠点を補えるようになった。
ソフィアは魔力生成量がとんでもなく多い。軽く、数百人単位の生成能を有している。というか……逆に生成量が多過ぎて、意識して魔力を体内に留める必要がないからか、常に垂れ流し状態になっているほどであった。
ぶっちゃけ、魔力生成量が少ないのも困りモノだが……多過ぎるのも困りモノである。
魔力が作られ過ぎたがゆえに、逆にソフィアの体調を崩したり……(←レインに会う前は疲れ易く。いつも身体が怠かったり、吐き気を覚えたりしていた。本人は、サバイバルと王妃教育で忙し過ぎたのが、原因だと思ってる)。
垂れ流しになっている魔力量が多かったーー要は常時発動で威圧が放たれている状態ーー所為で、魔力が低いモノ(※人・魔物問わず)はソフィアに近づくことが出来なかったりしたのだ。
魔力生成量が常に瀕死だが、貯め込む器はデカいレインと。
魔力生成量が多過ぎて、万年疲労状態になっていたソフィア。
ここに需要と供給の関係が成り立った。
結局何が言いたいかと言うと……。
レインはソフィアに抱き合うことで、余剰魔力を貰い……その結果、簡単に死にづらくなり。
ソフィアの方は、レインが魔力を貰ってくれるお陰で体調不良の改善され、自動威圧が解除されたのである。
そして……皮膚接触をしていた方が魔力が操り易くなるため、レインは抱っこという選択をしているのだった。
以上が、レインが彼女に抱きつく個人的な理由である。
…………。
………………。
………………………ちなみに、駄女神的な抱きつく理由とは。
駄女神の祝福(呪)の効果の一つに、〝一定時間、悪役令嬢とスキンシップしないと状態異常(※甘やかしたくて甘やかしたくて仕方なくなるという中毒症状みたいな感じ)が発生する〟というガチの呪いがある。
悪役令嬢と出会った瞬間ーー駄女神の祝福(呪)が自動更新され、その効果が新たに発生した。
駄女神的な言い訳としては。
『ソフィアたんって〝将来の国母に甘えなど許されない〟って教育を受けてきたから、甘えるなんて出来なかったんだよね……。でも、頑張ってきたんだからもう甘えても良いと思うんだよね! でもでも、真面目なソフィアたんのことだから理由もなく甘えるなんて出来ないだろうし……甘える理由があれば……? ううん、逆に甘やかす人がグイグイ行くようにする……? ………あー、もう分かんない! 分かんないから、上手い感じでテキトーにやっちゃえ!』
……とのことである。
最初は「いや、テキトーで状態異常発生させんじゃねぇよ」というのがレインの言い分だったのだが……時折垣間見するソフィアの闇深が凄過ぎて「ソフィアは甘やかさなきゃいけねぇ!」に無自覚かつ無意識にシフトチェンジしたので、この呪いはある意味無用(?)になった。
……………まぁ、こんな感じで。
戦略的な理由だったり、個人的な理由だったり、駄女神的な理由から……レインはソフィアに抱きつくのだった。
なお、このスキンシップは互いに満更でもないので!
これらの理由を言い訳にしている部分がないとは言えないのだが!
生憎と二人とも恋愛感情とかに鈍い〝お子ちゃま〟なので……そういうのに気づくようになるのはまだまだ先の話である……。
………ちなみに。
この二人の関係を、人は〝いつの間にか外堀が埋まってるヤツ〟とも言う。
*****
『……………全部を救うことなんざ出来やしねぇけどな? ソフィアが代償を払うってんなら、その罪悪感消すために特別に手ぇ貸してやるよ。さぁ……どうする?』
悪魔のような笑顔を浮かべている時点で、嫌な予感がしていたのだ。
イリアーナに対して勝手に感じてしまった罪悪感が原因とは言え……レインが抱きついてくる理由(個人的な理由とは言っていたけれど、命が関わっている以上、抱きつくのを了承した。駄女神の方に関してはクレーム追加である)を聞いたところで終えておくべきだったのだ。
………………ソフィアはそう思わずにはいられない。
「俺独自の考え方なんだけどよ? 魔法の適性って属性だけじゃなくてさぁ、放出型か内向型かってのもあると思うんだよな。後、理論派と感覚派」
魔法の属性は大きく分けて六つ。火・水・土・風・光・闇だ。稀に複数属性持ちなんかもいるが、一属性のみの所有が普通だ。属性ごとに補正が入り……火属性ならば攻撃力、水属性は魔力、土属性は防御力、風属性は素早さ、光属性は回復量、闇属性ならば状態異常耐性が上昇するようになっている。これが誰もが知っている基本的な魔法の知識だ。
しかし、レインはこれを更に細分化した。
「放出型はまぁ、一般的な魔法の使い方な。火の弾出したり、槍にしたりとか。体外に出すから放出型って表現してる。つまり、体内で作用させるのは内向型ってことだ。そうだなぁ……例えば、自己治癒能力の活性化とか身体強化とか、そういうのがこれに分類されんだろうな」
ーーカポカポ、カポカポ。
気が抜ける馬の足音が、道を進んで行く。
「んで。理論派ってのはその言葉の通り、呪文で魔力量、方向性とか威力とか調整して発動するタイプだ。放出型の奴は大概、理論派だろうな。そうじゃねぇと魔法の威力にムラが出るし。で……こう表現すりゃぁ感覚派が内向型に多いって分かるよな? 多分、身体の調子がいつも一定じゃねぇように……そういう調子とか状態に合わせて発動させっから、感覚が優れてんだと思うんだよなぁ〜」
柔らかな日差しと包まれる温かさが心地良いのに……。
目の前がぐるぐる回っていて、ソフィアは気持ち悪さを覚える。
「だから、魔法の使い方教わっても上手くならなかった理由って……ソフィアが内向型感覚派だからなんだ思うぜ? 先生に〝こういう風に呪文を唱えて、これぐらいの魔力量を消費して、こうしてあぁして〟ってキッチリカッチリ教わってたんだろ? それが合わねぇなら、その先生とタイプが違ったからとしか言いようがねぇよなぁ」
「………………うぇ……」
「あー……まぁーた顔色悪くなってきたなぁ。やっぱレロレロしてる時に説明しても無理だったかぁ。魔法講義はまた後でだな。つー訳で。ウィンディーネ、ちと癒しの水を頼むわ」
『……………………承りましたわ』
レインの声に反応して、馬車の周りを飛びながら敵を警戒をしていた水色の髪の女性ーー下半身に魚の尾を持った大精霊ウィンディーネが、なんとも言えない顔をしながら癒しの水を生み出す。
その水はふわふわと宙を移動し、ソフィアの薄く開いた唇から体内へと滑り落ちていく。
こくんっと動く喉。潤んだ瞳。体調が悪そうだからこそ、儚げな印象を受ける美少女と……そんな彼女をお姫様抱っこで抱き上げながら優しく微笑む美青年……。
「…………んん……」
「ゆっくり、な。無理せずに、だ」
はっきり言おう。
二人の姿はまるで、なんか見ちゃイケナイモノを見たような感じになっていた。
そしてーー……。
「………………………これ、どういうことなのか話を聞いても大丈夫ですか……?」
とうとう我慢出来なくなったダナに声をかけられたことによって……二人のなんとも言えないイケナイ空気(またの名を、側から見ると砂糖吐きそうな空気とも言う)が、ついに切り裂かれたのであった。
(すっげぇ、勇者……! 本人に聞くなんて……!)
今の今まで気まずい顔で黙り込んでいたエイジンは、御者席に座ったダナに向かって感心した顔を向ける。
ダナの次に歳がいっている彼ではあるが、生憎とこの二人に声をかける勇気はなかった。いや、かけられる訳がない。
だって、お姫様抱っこしながら護衛してるんだもの。
偶にすれ違う馬車なんかも二度見した後で、顔を真っ赤にしてるんだもの。
なんか見てるこっちが顔が赤くなってくる感じなんだもの。
今日ばかりは……嫌な予感を察知して後方警戒に回ったリーフと元々後方担当だったアリステラ、高位魔法である精霊召喚に夢中になっているルルが羨ましかった。
とは言っても、エイジンもなんだかんだでこうなってる理由が、気になって仕方なかったのだが……。
「んん? あー……ソフィアがレロレロしてることか? 簡単に言やぁ魔力生成した途端に俺が貰ってるから、調子崩してんだわ。まぁ、魔力が少ねぇ状態に慣れりゃぁ大丈夫になるだろうけどな」
「魔力生成をした途端に」
「貰ってる?」
「…………なんと!!」
「「ひょぇっ!?」」
大精霊ウィンディーネに夢中になっていたルルが、大声をあげるモノだからダナとエイジンは思わず悲鳴をあげる。
目をキラキラさせた魔法使いはグイグイグイッと、いつもの内気が嘘のようにレインに近づく。
そして、興奮した様子で彼に質問した。
「さっきの説明も、大変勉強になった」
「精霊に夢中になってるかと思えば、ちゃんと聞いてたのかよ……」
「エイジン、煩い」
いつにない威圧マシマシの真顔に気圧され、エイジンは黙り込む。
駄目だった。普段静かな人ほど興奮したら手に負えないのである。
ルルは黙ったリーダーに満足そうに頷き、話を戻す。
「レインさんは、優れた魔法使い」
「いんや? 俺は魔法使いとしては三流以下だぜ。なんせ、魔力生成量がミソッカスだかんな。溜め込んでなきゃ生活魔法すら碌に使えねぇ」
「なんと!? でも、高位魔法! ウィンディーネ!? あっ、魔力を貰ってるから? でも、魔力譲渡、出来る?」
「普通は無理だろうなぁ。魔力ってのは血液と同じーーって説明じゃ分かりづれぇか。えーっと……魔力にゃ固有のカタチがあっから……普通は受け入れられないはずだ。多分、魔力を貰ったら……良くて身体に合わなくて体調崩す。悪くて死ぬんじゃねぇか? まぁ、血縁関係がありゃ魔力の波形は近しくなるだろうから……軽度の拒絶反応で済むかもしれねぇが」
「なんと!!」
「あっ。でも、これはあくまでも予想だかんな? 実際に調べた訳じゃねぇし、魔力譲渡なんて普通はしねぇからどんな副作用があっか分かったモンじゃねぇ。俺とソフィアは、相性が良いから大丈夫なだけだ。だからこそ成り立ってるんだ。つー訳で、下手に魔力譲渡の実験なんざすんじゃねぇぞ」
「分かった」
ソフィアはどこか遠くで交わされる会話に耳を傾ける……が。
やっぱり体調が悪くて、それどころではない。どうしようもない。というか、レインにお姫様抱っこで運ばれている状態なのだから、どれくらいヤバいかがよく分かる。
「……………(うぐぅ……久しぶりに、無理そう、ですわ……)」
ソフィアは心の中で弱音を零す。
こんなにも体調を崩したのは数年ぶりだった。自分で選んでこうなっているとは言え……それでも辛いモノは辛い。
しかし、昔と違って今は看病をしてもらえる。王太子の婚約者であった時は、具合が悪くても休むことが許されなかったし、看病をしてくれる人なんていなかった。
だから……こうして面倒を看てもらえるだけでも、遥かにマシだった。
「……おっと。ちょいっとヤバめだな? ソフィア、寝ちまえ。寝てる間は余計な意識が節約出来るから、魔力が少ねぇ状態に適応すんのが早くなんだろ……多分」
「…………レ、イン……」
「おぅ。だいじょーぶだ、ここにいる。だから、安心して眠れ」
「…………えぇ……」
レインが安心させるように持ち上げている腕に力を込めて、更にソフィアの身体を抱き寄せる。
ふわりと香る爽やかな匂い。強まる温度。
相変わらず気持ちは悪いけれど、安心感を覚えたソフィアは、トロトロと瞼を下ろしていく。
「おやすみ、ソフィア」
優しい声を最後に、彼女は意識を手放した。
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