表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/47

シリアス&バイオレンスだと思うでしょう? 残念、夫婦漫才(もどき)でした!


よろしくどうぞー!

 







「……………え? どういう状況ですか……?」




 その声に振り向いたソフィアは、ダナの隣にいる少女を見て、ほんの少しだけ身体を強張らせた。

 金髪碧眼の可愛らしい少女。年齢は七歳ぐらいだろうか?

 父親であるダナとは似ておらず、母親似なのであろうことが分かる。

 しかし、顔色がかなり悪いし、手足もかなり細い。ちょっとした刺激で折れてしまいそうな弱々しさだ。移動中に目覚めなかったのも省みると、かなり体力がないのだろう。現に、二階から降りてきただけというだけで、少しだけ息が荒くなっている。

 本来なら、この旅で治るはずだった。けれど、それは叶わなかった。

 その原因がこの国の聖女ーー自身の知り合いだという事実に、ソフィアは胸が痛む。

 ソフィアにはどうしようもないことだというのは分かっている。彼女は癒しの力を持つ聖女ではない。

 けれど、裏事情を知ってしまっている身としては申し訳なさが尋常じゃない。


 助けを求めに縋ってきたことを逆手に取り……民を言葉巧みに金を巻き上げる神殿(というか、多分一部の悪徳神官)。


 癒しを求める者がいるというのに、お務めーー聖女は助けを求めにきた者に癒しの力を使うという仕事がある(※金銭は取らないということになっているが、寄付が必要)ーーを放って、王太子達と逢瀬デートや交流を深める聖女(まぁ……神官が金だけ巻き上げて追い返したりして、人数調整していたり。元平民の聖女では王太子達に逆らえないだけかもしれないが……)。


 聖女のお務めを知っていながら、聖女を連れ回すことを止めなかった王太子殿下+金魚のフン達……(きちんとプライベートを分けて行動するなら良いのだが、頻度が多過ぎた。ほぼ毎日、王太子達と出かけるって……お務めの時間がない。逆説的に、聖女には休日がなかった)。


 以上の理由から分かるように、自国の所為でイリアーナの病気は治らなかったのだと言っても同然。

 本当はきちんと事情を話して謝罪すべきなのだろうが……そんなことをすれば、逆にダナ達の身が危なくなってしまう。神殿の横領なんて知ってしまえば、碌なことにならない。

 加えて、ソフィアは現在、亡命(?)中なようなモノ。国に見つからないようにするために、少しでも自分の情報ーー自分が聖女のことを知っている、この国出身であることを明かすなどーーは漏らさない方が得策だ。

 ゆえに……ソフィアは何も言わずに、笑顔の仮面を貼り付けて接するしかなかった。


「おっ、やっと来たな! ダナさん、イリアーナちゃん!」


 エイジンが片手を上げて、降りてきた二人を歓迎する。

 ダナ達は困惑した様子で賑やかな人々の合間を縫って、近くにやってくる。

 そして、ソフィア達の向かいの席に座ると……やっぱり困惑した顔で、質問してきた。


「あの……もう一度聞きますが、どういう状況ですか?」

「どういう状況……と言えば、夕食の最中ですけれど?」

「え? そんな抱き締められててですか?」

「え?」

「えっ?」

「えっ!?」


 最初はキョトンとしていたソフィアだったが、ダナにそう言われて自分が未だにレインに抱き締められているのに気づく。というか、抱き締められてるのに、あまりにも一体化し過ぎてて……異物感やら違和感がなさ過ぎて、抱き締められていること自体を普通に忘れていた。


(な、なっ!? なんてっ、はしたない!?)


 レインは「飯ぃぃぃ……」と今だに呻いているが、ソフィアはそれどころではない。これは不味いと警鐘が頭の中で鳴り響いている。

 ソフィアは貴族社会で育った。つまりは、男女で近しくしていいのは婚約者、或いは夫婦だと教わって生きてきたのだ。

 あのダンジョンで見捨てられた時点で既に、ソフィアは王太子の婚約者ではなくなっているが……だが、彼女はレインの婚約者ではない。共に旅をする仲間ではあるけれど、恋人ではないのだ。

 それも……こんな沢山の人がいる前で!

 という訳で、まぁ色々と動揺しまくったソフィアさんは……。


「な、何してますの! いい加減に離しなさいなっ!」



 ーーバチコォォォォン! ドスッッ!

 反射的にーー容赦なくその頭を平手打ちし……テーブルにレインの頭を叩きつけていた。



『!?!?』


 ーーシィィィィン……。

 ちょっと日常生活では聞かないようなおっっっそろしい打撃音に、煩いぐらいの賑やかさに満ちていた食堂が怖いくらいの沈黙に包まれる。

 ほとんどの人達が口を大きく開けて呆然としているし……先ほどまで茶化していたり、野次を飛ばしていた者達に至っては、顔面蒼白だ。特に目の前でそれを見てしまったダナ親子とエイジン達なんてガクブルである。

 だって、レインはSランク冒険者、戦略級兵器だ。一人で騎士団相当、或いはそれ以上の戦力を保有すると言われる存在相手に……こんな暴挙に出るなんて。信じられない。信じられる訳がない。

 というか、華奢なソフィアの見た目に反した破壊力過ぎて恐い。

 ※なお、イリアーナは純粋な暴力に怯えていた。


「………………」


 固唾を飲んで見守られる中、レインはゆらりと起き上がる。

 そして……凄まじい音を立てて叩きつけられた当の本人は……。

 至ってけろりとした様子で、頭を掻きながら苦笑を零した。


「悪ぃ、悪ぃ。ソフィアの置かれてた環境が相変わらずの闇深で、ちぃっと我を忘れたわ」

「やみふか? いえ、今はそれはどうでもよくて……まぁ、とにかく。淑女レディに対するマナーがなってませんわよっ、この変態!」

「変態!? 変態って酷くねっ!?」

「酷くありませんわ! 未婚の女性、それも恋人でもない相手に許可なく抱きついているのですわよ!? な、なんてっ……なんて破廉恥な! それでも変態ではないと!?」

「破廉恥でも変態じゃないって! ただ、こう……ちょいっと抱き締めたくなった、というか」

「抱き締めたくなったぁ!? 何をおっしゃってるますの!?」

「なんだろうなぁ……? 昨日、抱いて寝たからか、ソフィアに対するハードルが下がってるっていうか……反射で手が出て、抱き締めちまった? というか?」

「………………」


 スンッと真顔になるソフィアと、あはっと笑うレイン。

 周りの人々がレインの〝抱いて寝た〟発言に「ごふっ!?」と吹き出したのに、二人は気づいていない。

 ソフィアは思わずアイアンクローをかましたくなったのだが……酷過ぎる頭痛を覚えて、その手を止める。

 そして、大っきな溜息を吐いて……眉間のシワを揉んだ。


「昨日はまだ……もう少し遠慮があったはずなのに。なんですの、なんなんですの。そんな簡単に貴方の中の遠慮は飛んで行ってしまいますの……?」

「なんだよぉ、抱き締めたぐらいで。減るもんじゃねぇだろ?」

「確かに減るモノではありませんけど。ですけれど! わたくし、男女が近しくして許されるのは婚約者或いは夫婦のみと言われて育ってきましたの。つまり、わたくしと貴方は当・て・嵌・ま・ら・な・い・の! お分かり? 貴方にとっては女性に抱きつくなんて普通だから、そんなことをおっしゃるだろうけれど……これが理解出来たなら、容易くわたくしを抱き締めないで!」


 ギロリッと睨みつけるソフィアに、レインはこてんっと首を傾げる。

 若干のあざとさすら感じさせるその仕草にソフィアは微妙にイラッとしたが……次に告げられた言葉で、一気に脱力する羽目になった。


「いや、ソフィアしか抱き締めねぇよ」

「………………ねぇ、聞いてましたの……? わたくし、抱き締めないでと言いましたのよ……?」

「無理」

「なんでぇ!?」

「え? 戦略的な理由と個人的な理由と駄女神ダメダメ的な理由があるが、どっちから聞きたい?」

「戦略から聞きましょう。次は個人、駄女神ダメダメは殺意が湧くので、最後で」


 さっきの動揺が嘘のよう。一瞬で真剣な表情になったソフィアは、背筋を伸ばして耳を傾ける。

 今の今まで夫婦漫才みたいなやり取りをしていたのに、一瞬で様変わりした二人の様子に周りの人達はまた驚く。

 唐突な暴力で怯えていたイリアーナも、ソフィアの照れ隠し(?)的な平手打ちだと分かったのか……いっそ楽しむ余裕すら出てきたようで。ニコニコとし始めた娘の姿に、隣に座ったダナは頬を引き攣らさずにはいられなかった。


「一、ソフィアを抱いて寝ると回復力が上がります。昨日の夜のが良い例な?」

「回復目的で抱き締めるならば許しましょう。疲れが原因で遅れを取るなどあってはなりませんから」

「流石ソフィアさん。そういうのは分かってるぅ! 次な? ニ、ソフィアと触れ合うと、魔力が精錬されます」

「精錬?」

「要は、魔力の質が上がるんだ。同じ魔力消費量でも精錬されてない魔力とされた魔力なら、圧倒的に後者の方が強力だ。どれくらいかって言うと……えーっと、感覚的に……初級魔法が中級魔法(マイナス)ぐらいの強さになるか?」

「へぇ……そうですの」

「!?!?」


 ソフィアは動じなかったが、逆にルルが思いっきり反応していた。

 RPGに当て嵌めて例えるならば……初級魔法の魔力消費量は一〜五、中級ならば十五〜二十(※魔法の種類によって魔力消費量が変わる)ぐらいになる。だが、精錬された魔力であれば初級の魔力消費量で中級が発動出来ると、レインは言っているのだ。

 魔法使いであるからこそ、その凄さがよく分かる。目をギラギラさせたルルは反射的に二人の会話に割り込んで話を聞こうとしたのだが……アリステラによって口を覆われ、羽交い締めされた。


「その三、どうやら俺ら、魔力をプール……共有出来るっぽいんだよな。俺の魔力はソフィアが使えるし、ソフィアの魔力は俺が使える。多分、手を重ねるだけでも問題ねぇだろうが……近ければ近いほど、触れる面積が多ければ多いほど、操作コントロールしやすい。つまり……」

「わたくしとレインが力を合わせれば……魔力消費量の多い大技も使えるようになる、と?」

「そーゆーこと」

「ふむ……戦力増強目的(そういう理由)でしたら、抱きつくのを許しますわ。天位を倒すと決めたばかりですもの。もっともっと強くなりませんとね」

「まぁ、抱き合いながら戦闘、なんて……やれば出来っけど、面倒くせぇから上手い戦い方を見つけようぜ」

「えぇ、分かりましーー」


 ーーぐぅぅぅぅ……。


「「…………」」

「ご、ごめんな、さい……」


 話の腰を折るように鳴った可愛らしい腹の音。

 その音を出してしまったイリアーナはお腹を抑えながら、恥ずかしそうに目を逸らす。

 ソフィア達は互いに目を合わせ、声なき会話を交わすと……にっこりと笑いながら、彼女に声をかけた。


「ごめんなさいね、話に夢中になってしまって。そうよね、今は夕食の席でしたわ。細かい話は後にしましょう、レイン」

「だなぁ。悪ぃ、悪ぃ。俺らの所為で夕飯、注文するタイミングも逃しちまってただろ」

「あ、あの……大丈夫……話の途中で、本当に、ごめんなさい……」

「謝らないでくださいな。悪いのはこちらですもの。わたくし達の話は今じゃなくても出来ることですから、本当に気になさらないで?」

「そーそー。自己紹介もしてねぇしな? 取り敢えず、一緒に飯食って仲良くしてくれよ、お嬢さん」

「…………お姉ちゃん達、やっぱり面白いね……」





 〝さっきまであんなに怯えていたのに……この二人に対してそんなことを言えるなんて……ウチの娘は結構、肝が座ってるのかもしれない〟ーーと。


 若干、冷や汗気味なダナだった。









よろしければブックマーク・評価、よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ