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平和過ぎて逆に不安になるとか、相当毒されてるよね


ちょっと短め!


では、よろしくねっ!

 







 ーーガタガタガタ……。



 ゆったりとした速度で進む二頭の馬に引かれた馬車の車輪が回る音が、長閑な道に響き渡る。



 ーーぴ〜よぴよぴよ〜♪



 小さな鳥の群れが、晴れ渡った青空を飛ぶ。




「………………え? 平和過ぎませんか……?」


 パードを出て早三時間ーー。

 ソフィアは(一応、護衛中ではあるけれど……)ただ歩くだけの現状に、途轍もない不安を覚え始めていた。


「いや、まぁ……ソフィアが何思ってるかなんとなく分かっけどな?」


 馬車より前の位置ーー隣で歩くレインは、顔色が悪いソフィアに苦笑を零す。

 ついでに前方数百メートル先にいる魔物に向かって、水の槍を放ちながら……笑っているのに笑っていない、濁った目をしながら軽やかに告げた。


「ダンジョンみたいに四方八方から魔物が襲って来ないのが、普通なんだとよ」

「そんなっ……! そんなの嘘ですわっ……!」


 ソフィアが大声で叫びながら、危機迫った様子でレインに詰め寄る。勿論、足は止まっていない。無駄に器用だ。

 だが、ソフィアの目はなんか〝グルグル〟と回っていて……しっかり歩いてる割には、一種の混乱状態になっていた。

 …………ちなみに、レインはそんな彼女にかつての自分を重ねていた。

 彼も同じ動揺をしたことがあったので。ソフィアと同じ駄女神強制ダンジョン転移経験者なので。

 レインはガクガクと揺さぶられながら、溜息を零した。


「嘘じゃないんだよなぁ、これが……。俺も最初、〝こんなの普通じゃねぇよな……?〟と思ったけど……これが普通なんだよ……」

「嘘、よ……」

「………ホントー」


 ダンジョン攻略ーーそれは決して簡単なことではない。

 いつどこで襲ってくるか分からない魔物を警戒し、足を進めている時も、戦っている時も、寝ている時も安心出来ない。

 魔物と戦っていれば連戦になることもあるし、乱入してくることもある。

 いつ戦闘になっても構わないように戦闘態勢を解かずに。それでも体力を温存するために、無意味な戦闘を避けるために、雑魚を蹴散らす威圧を放ちながら攻略を進める……。

 他の人達はパーティーやレイドーー冒険者パーティーが複数組むことーーで行うそれらのことを、たった一人で行うのだ。

 それに慣れ切った……魔物が襲ってくるのが当たり前になっていたソフィアが、平和過ぎることに対して逆に不安を抱くのはある意味、当然だったのかもしれなかった。


「いや、この護衛依頼も普通じゃないとは思うけどな……?」


 しかし、そんな二人の会話に横からツッコミが入った。

 馬車の右側を歩いていたエイジンは、ガシャガシャと鎧を鳴らしながら、頭を掻く。

 そして、呆れ顔のジト目でソフィア達を見た。


「冒険者が依頼を受けて魔物を狩ってるとはいえ、普通は三時間も歩けば一度や二度ぐらい魔物との戦闘になるんだ。でも、今回はそれがない。というか……さっきから放ってるレインさんの魔法で、先駆けで倒しちゃってるんだろ?」

「戦闘にすらならない先制攻撃って、どんだけ攻撃範囲が広いんだろうね〜……。こんな楽過ぎる護衛なんて有り得ないよね。というか、Sランクがいるだけでこんなに変わるとか……逆に怖いんだけど」

「えぇ……出発してから一度も、戦闘のために止まってませんから、時間を無駄に消費することなく進みますし。本当、Sランクとは規格外ですね……」


 馬車の左側を警戒していたリーフも、御者席に座って馬を操っていたダナも、エイジンと同じことを考えていたらしい。

 レインはそんな彼らの反応に「あー……」と頬を掻いた。


「規格外も何も……普段はこんなことしねぇよ? 魔法よりも剣の方が得意だから、普段も剣使って魔物倒してるし」

(((数百メートル先の魔物を魔法で倒しといて、剣の方が得意!?!?)))

「でもさ? 娘さんの体調を考慮してゆっくりと進んでる状況だが、今はなる早で国を出た方が良さそうだから、こうしてるって訳」


 彼が言う通り、馬車が進むペースはゆっくりとしている。

 若干の早歩きで追いついてしまうほどだ。馬車の意味ある? って感じでもある。

 しかし、それは全てダナの娘、イリアーナの身体に負担をかけないためだ。

 イリアーナは今、ダナが操縦している馬車ーー彼女のために用意された寝台付き馬車で寝ている。この馬車は座席の部分が可動するようになっており……それを動かすと真っ平らな簡易寝台になる馬車を特注したらしい。ふかふかのクッションや布団もたっぷり用意しているので、ゆっくりとした速度であれば振動が殆どなく移動することが出来る。

 まぁ、そういうことで。一行は馬車旅とはいえ、かなり遅いペースで進んでいた。


「ペースが遅い以上、戦闘なんて時間の無駄で足を止める訳にはいかんだろ。それに……魔法の方が早く放てるし。剣で倒して万が一にも返り血浴びたら、ダナさんと娘さんの精神衛生が悪くなりそうだからな。だから、こうしてんの」

「「「…………………」」」


 ダナ達は真顔になった。

 いや、レインの言うことは間違ってはいないし、依頼主に配慮しているのが分かるのだが。

 それでも、それを簡単に出来てしまうだけの力量があることに……畏怖してしまう。

 しかし、ソフィアは納得した様子で〝ウンウン〟と頷いていた。


「まぁ……そうですわね。今の状況では余計な時間を取られる暇はありませんものね」

「だろ? タイムロス回避だ」

「ですが、その所為でわたくし違和感があり過ぎて、仕方ありませんの」

「……………」

「こんなに戦闘も何もないなんて……警戒も殆どしなくていいなんて……吐きそうですわ……」


 口元を押さえて不安そうにしているソフィアから、レインは目尻に浮かんだ涙を拭いながら、そっと目を逸らす。

 敵が襲ってこないのが不安になるとか相当毒されてる……。

 まぁ、繰り返しになるが……レインも最初の頃は彼女と同じ感じだったのだが。

 ここまで精神的な影響を及ばすなんて、本当に碌でもない駄女神である。もう何度目か分からない怒りが胸の内に込み上げてきた。


「経験者としては慣れるしかねぇわな」

「慣れる、かしら……」

「俺も慣れたからなんとかなんだろ。取り敢えず、この後遺症(?)もクレーム追加案件な」

「…………えぇ、ですわね」


 駄女神へと静かな殺意を迸らせるソフィアとレインに、ダナ達は〝ヒクリッ〟と頬を引きらせる。

 この二人の会話は時々分からないのだが……取り敢えず、自分達の常識に当て嵌まらないのいうのだけは分かった。



 ーーーー〝本当、なんでこの人達、こんな依頼を受けてるんだろう……?〟




 彼らは心の中で……何度目か分からない、そんなことを思ったのだった。







 〜余談〜


「………なんか、楽しそう」

「仲間外れですね……」



 馬車の後ろで護衛を担当していたルルとアリステラは、話に混じれなくてちょっと拗ね気味だったとさ。







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