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………わたしの依頼を受けるような人達じゃないですよね?(by商人)


よろしくねっ!

 






 大通りから一本逸れた通りにある宿屋《たてがみ亭》ーー。


 こじんまりとした、若干年季を感じさせる木造のその宿屋の前に立ったソフィアは、珍しいモノを見るような目でその建物を観察していた。





「どうかした?」

「……いえ……その、宿屋を初めて見たものですから」

「! あぁ……成る程」


 その言葉にレインは一瞬驚くが、直ぐに納得する。

 ソフィアは貴族……元公爵令嬢だったのだ。庶民が利用するような宿屋ではなく、高級なホテルなどしか使わなかったのだろう。

 レインは繋いでいる手とは反対の手を顎に添えると……少し考え込んでから、口を開いた。


「…………今後、こういう宿屋を使うことが増えると思うんだけど……高級ホテルとかじゃないと受け付けないか?」

「?」


 レインの言葉に、ソフィアは目を瞬かせる。

 しかし、公爵令嬢であった際のことを言われているのだと理解した瞬間ーー呆れたような顔で溜息を零した。


「レイン、お忘れですの? わたくし、(駄女神による強制転移)ダンジョン攻略経験者ですのよ」

「え? うん、そうだな?」

「高級なホテルに泊まる機会も暇も、ありませんでしたし」

「!!」

「魔物が襲ってくる可能性がなければ、どこであろうと……充分過ぎるくらいですわ」

「…………oh……」


 ソフィアの令嬢らしからぬその言葉に、レインは目元を手で覆った。無駄に実感こもってるのが、余計に涙を誘う。

 レインは心の中で決めた。あまり高級そうな宿屋は無理ーーまぁ、Sランク冒険者なので金銭的には泊まれないことはなくもないが……レインは根っからの庶民なのでちょっとご遠慮したいーーだが、今後はそれなりの宿屋に泊まろうと。

 冒険者をやっていく以上、野宿をすることもあるだろうが……街で宿を取る時くらい、それぐらいしたって良いはず。

 そもそもソフィアは女の子だ。レイン一人だけならテキトーな所に泊まるだろうが、これからはそうはいかないだろう。だが、それでも問題ない。それくらいの甲斐性はあるつもりだ。

 レインはソフィアに安心する寝床を提供することを堅く決心しながら目尻に浮かんだ涙を親指で拭い……若干、死んだ魚のような目がデフォルト化し始めている気がするソフィアに声をかけた。


「多分、俺と同じで《自動洗浄オートクリーン》のスキルがついてるだろうから綺麗だろうけど……街で泊まる時は、風呂がついてる宿屋にしような」

「え? えぇ……お任せしますわ?」

「うん。じゃあ、この話はここまでにして。依頼主がいるか確認しよう」


 これ以上この話を続けると本格的に泣きそうになると察したレインは、話を切り上げることにした。

 ソフィアは彼の提案に頷き、手を引かれながら宿屋に入る。

 入り口付近には受付用のカウンター。その隣には二階に繋がる階段。一階は食堂になっているのか、赤いテーブルクロスが敷かれたテーブル席とカウンター席がある。外観と同じくこじんまりとしているが、掃除が行き届いているのだろう。清潔感を感じられる。

 そして……宿屋の従業員は奥に引っ込んでいるようだが、テーブル席に座って雑談している人達がいた。

 ソフィアは〝どうするの?〟とレインに視線を向ける。視線を受けた彼は一瞬考えるように黙り込んでから、直ぐに口を開いた。


「ーーこちらにダナさんという人はいるか? 依頼を受けた冒険者なんだが」


 遠くまで響いた声。食堂奥のキッチンか二階にいるであろう従業員に届くように、ほんの少しだけ声を張り上げたようだった。

 だが、その声に反応したのは従業員ではなく……テーブル席にいた一行。その内の、唯一立っていた男性が近いてくる。茶髪に深緑色の瞳を持つ、少し疲れた様子の男はーーテーブル席にいた者達もーー驚いた顔をしながら、口を開いた。


「あ、あの……今、依頼を受けた冒険者と言いましたか?」

「? あぁ」

「ダナ……つまり、わたしの?」

「! あぁ……貴方が依頼主本人か。丁度よかった」


 レインはバックパックから依頼書を差し出し、自分達が護衛依頼を受けた冒険者であることを証明する。


「俺の名前はレイン、こちらはソフィア。今回、隣国までの護衛依頼を受けさせてもらった。どうぞよろしく」

「! ご、ご丁寧な挨拶、ありがとうございます……。わたしは隣国で商人をしております、ダナと申します。報酬金額が少ないのに……お受けしてくださって、本当にありがとうございます」

「いや、冒険者として依頼を受けただけだからな。そんなに畏まらないでくれ。早速打ち合わせをしても?」

「あ、はい。こちらへどうぞ」


 ダナに促され、二人はテーブル席に近づく。

 そこに座っていたのは四人組の男女。どうやら彼らが既に契約済みの冒険者パーティーらしい。リーダーらしき茶髪の男性が立ち上がる。

 彼はにっこりと笑うと、レインに手を差し出した。


「よ、初めまして。オレらは隣国を拠点にしてる《獅子の牙》っていうBランクパーティーだ。オレはリーダーのエイジンだ」

「初めまして。聞こえてたかもしれないけど、俺はレイン。よろしく」

「あぁ、期待してるぜ! よろしく!」


 握手を交わしてから、彼らが座っているテーブル席の隣の席に腰かける。ソフィアはなんとなく、レインの隣に座った。レインの向かいに座ると、チャラそうな青年の隣になってしまうからではない。……決して。

 四人がけの席であったため、ダナも同じテーブル席の向かい側に座る。

 全員が座ったことを確認したエイジンは「ごほんっ」とワザとらしい咳払いをすると……早速と言わんばかりに、自己紹介を始めた。


「それじゃあ、まずはウチのパーティーメンバーを紹介する」

「待ってたよ、エイジ〜ン。僕、そちらのお嬢さんのことが詳しく知りたいな?」


 ーーぱちこーんっ☆

 緑の髪を一つ結びにした青年に星が飛んできそうなウィンクをされたソフィアは、微妙な顔になる。

 こういうタイプの男性に会ったことがないので、どう反応すれば良いのか分からない。

 というか……。


(…………また、女性の方々の視線が熱いですわね……)


 黒いローブを羽織った薄青色の髪の女性と、白の法衣風の衣装を纏った桃色の髪の少女が、レインに熱い視線を向けている。

 またやってきたのか、レインの鈍感と女難……。

 先の展開をなんとなく悟ったソフィアは、他のメンバーの様子に気づかずに会話を続けるレイン達に呆れたような溜息を零した。


「こっちのパーティーメンバーは魔法使いのルルと斥候スカウトのリーフ、治癒師のアリステラだ。オレが戦士の前衛、更にタンクも担当してる。リーフは中衛、残りは後衛って組み合わせだな。そちらは?」

「俺は双剣士で、前衛でも後衛でも出来る万能型オールラウンダー。ソフィアは……拳闘士だから、前衛になるのか」

「え? あぁ……そう、ですわね」

「えっ。そんな華奢なのに拳で闘う拳闘士なのかい? 驚きだなぁ……」


 リーフの呟きに、レイン以外の全員が頷く。

 拳闘士は屈強な身体つきをしていることが多い。それはそうだろう。近距離の拳一を武器とする闘士だ。それに見合った肉体を鍛え上げなければならない。

 しかし、ソフィアの見た目はかなりお嬢様だ。かなり華奢で、女性らしい身体つきをしている。はっきり言って、冒険者だと言われても信じられないくらいだろう。

 だが……彼女から放たれた言葉に、彼らは固まることになった。


「普通に武器を使うと武器の方が保たなくて、壊れてしまうんですの。だから、徒手拳闘に落ち着いたと言いますか……。殴って、貫いて、抉って、叩き折るのならば、素手でも出来ますから」

『……………(ヒェ……)』


 ソフィアの答えに、その場の空気が凍りつく。

 色々と聞きたいことがあったが……綺麗な顔をしたソフィアの血生臭過ぎる戦闘スタイルに、驚かずにはいられなかった。

 しかし、それを聞いたレインは動じることもなく。隣に座ったソフィアの白魚のような手を持ち上げて、マジマジと観察した。


「……こんなペンより重い物なんか持てませんって小ささと細さでよくそんなの出来るよなぁ」

「まぁ……(駄女神の)祝福(アレ)の所為ですわね」

「(駄女神の)祝福(アレ)の所為だろうな。というか、籠手も駄目なのか?」

「えぇ。やはり耐久性の問題が……」

「そうか……なら、後で竜狩りでもするか? それならある程度の強度になるはずだし」

『ごふっ!?』


 さらりと告げられた発言に、ダナ達は噴き出した。

 竜ーーそれは最低ランクの竜種であろうとも、五組以上のBランク以上の冒険者パーティーが必要とされる高難易度討伐対象である。

 つまり、そんな軽く〝竜狩りでもするか?〟で狩るような存在ではない。


「狩れるかしら?」

「ミノタウロスいけんなら、高位竜まではいけるだろ。あっ……でも、ソフィアがいるなら天位もいけるかもしれねぇな。俺一人だけで戦った時は、引き分けだったからさ」

「まぁ。それも駄女神アレの所為?」

「いや、それは偶然かち合っちまっただけ。今んところ、俺の人生の中で唯一の引き分けなんだよなぁ……リベンジしたい」

「なら、お付き合いしますわ。それも旅の目的にしましょう」

「あはっ、最高! クレーム入れるだけの旅じゃつまらないもんな!」


 二人の世界に入ってしまった二人は気づかない。

 あまりにもスケールのデカい話をしているものだから、最初はふざけているのだと思っていたエイジン達が……レインという名前が、Sランク冒険者として有名な《双刃雨》と同じだと気づき、動揺しまくっているのも。

 向かいの席に座ったダナが頬を引きらせ……頭を抱えたくなっているのも。



(……………もしかしなくても。この方達……わたしの依頼を受けるような人達じゃないですよね?)




 ダナの心の声は、生憎と誰にも届かなかった。








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【駄女神スキル・解説】

自動浄化オートクリーン

自動で身体が綺麗になります。

※なお、汚れだけでなく、老廃物などもついでに綺麗になります。つまり、いつでもどこでもツルツルたまご肌。


(駄女神からの一言コメント:以降〜駄コメ)だって、ダンジョン攻略中とか風呂入れないよ!? 女の子だよ!? 気になるよね!? 汚いと病気にもなっちゃうしね!

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