こいつの耐久性テストを行う
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
今週で丁度、本一冊分程度の分量に達します。そこで一区切りです。
ですので木曜日辺りの更新後、しばらく休載となります。
その間、鋭意執筆を継続しまして、二,三ヶ月後に更新再開する予定です。
とはいえいつ突然、更新再開するか未定ですので、皆さん是非ともブックマークをお願いします。
拙作は筆者幸田のご先祖様、鎮西八郎為朝を主人公とする小説で、為朝の人生を辿っています。ここまではほぼ、無風に近い感じでして、あまり盛り上がりませんでした。
ですが今後は、もっと見せ場も増えて盛り上がると思います。ご期待下さい。
なお誤字脱字には十分気を付けているつもりですが、まだ時折ミスっているようです。
仕上げはAIにも依存していますが、あれもまだまだですね(笑) 有能に振る舞っているダメスタッフ的な……(笑)
というわけで、誤字脱字や表現の誤り等に気付かれた方は、ご指摘頂けると助かります。
よろしくお願いします。
堺は、今日も晴れだった。
(あれ!? なんか、どっかで聞いたようなフレーズじゃね?)
まあ、いい。深く考える必要はないだろう。
郎党の案内で、鍛冶屋に足を運ぶ。
「これはこれは為朝様。ご注文の品は、既に出来ておりますぞ」
荷駄車の試作第一号が、そこにあった。ちゃんとイメージ通りに出来上がっている。
「おおっ。良うやった」
製造に関わった大工や革細工職人らも呼び集め、試運転を行った。
郎党達が乗ってきた馬に荷駄車を曳かせ、オレは御者台に座る。軽く綱を引き馬に合図すると、馬はゆっくり歩き始めた。
「おお。ちゃんと進むぞ」
鞭は使わない。手綱を、御者台まで届くよう長く延ばしている。
馬が荷駄車を牽引するための馬具を、皮職人に作らせた。その馬具に小さな輪っかを取り付け、長い手綱が邪魔にならぬよう通してある。そういった細部に至るまで、先日、皆で一から検討しつつ設計した。
「お前達も、よく見ろ。どこかに不具合はないか?」
オレは暫く、辺りをゆっくり歩き回った。職人達は、ぞろぞろとオレについて回り、丹念に荷駄車や馬の状態を観察する。
「大丈夫でしょう」
程なく、鍛冶職人二人も大工も皮職人も口々にそう言った。
オレ的には、まだ不満がある。揺れが、ゴツゴツと酷い。
図面を描いた時点で判明していた事である。何しろチューブタイヤではないし、懸架部分に緩衝装置も無いのだ。舗装などされていない路面を走れば、当然ながら揺れが身体を直撃する。
「バネは無いのか?」
先日、鍛冶職人に尋ねたのだが、彼は首を捻っていた。当世にはまだ存在しないらしい。
オレとしては、バネさえあれば、色々とショックアブソーバーの工夫は思いつく。
だがバネ自体が存在しないとなれば、時間をかけて試行錯誤せねばならないだろう。それを待てる程の、時間的余裕が無い。少納言信西がヘソを曲げ動き出す前に、さっさと九州へ移動したいのだ。
試運転は続く。
オレ自身が確認するため、御者を重季さんと交代した。さらに米俵を積んでみた。
ゆるゆると歩き回る、馬と荷駄車の動きに注視する。一旦止めて、今度は米俵を二俵に増やしてみる。問題なさそうだ。
今度は三俵に増やしてみた。ちょっと馬が苦しそうだ。悪路を長距離移動、といった条件を考えれば、米二俵分の重量が目安か。
(うん。これに幌布の重量も加わるし、米二俵弱、と考えるべきやろなあ。……となると積載量目安は一〇〇キロ位か)
今度は二頭立てにしてみた。
馬の制御が難しくなるか、と思ったが、そうでもないようだ。馬はそこそこ賢いので、ちゃんと相方と動きを合わせ、荷駄車を曳いてくれる。
積載重量もほぼ二倍、という目安で問題なさそうである。オレは荷駄車を握り、ガタガタと左右に揺すぶってみた。合計二〇〇キロ程度の重量であれば、各部の強度も全く問題なさそうに見える。
(よし……)
米俵を全部下ろし、今度は郎党三人を乗せて曳かせる。
「これは……揺れますのう」
「大地震のようじゃ」
皆、馬には乗り慣れている筈だが、結構辛そうだ。長らく御者台に座っている重季さんも、しんどそうにしている。長時間移動ともなれば、何らかの対策が必要だろう。
「よし。良いだろう……」
オレはゼニを払い、試作第一号を買い取った。
「オレ達は壷井に戻り、引き続きこいつの耐久性テストを行う」
「はあ。エラい念入りにやらはるのですなあ」
「そりゃそうだ。途中で壊れるようでは困るからな」
この程度で善しとするわけにはいかない。まだまだ入念な耐久性テストが必要だろう。九州へ向かう途中で一台、二台と次々に壊れてしまうようでは困る。最低でも九州に拠点を置くまでは、保ってくれなくてはならない。
「お前達は、それぞれ部品を作り続けてくれ。あと一九台分だな。大工の荷台と、皮細工職人のハーネスは、先程出揃った案通り改良し、作り続けろ」
オレは大工と革細工職人にそう伝える。
「車輪と懸架は、作るだけだ。まだ組み立てるな」
老齢の鍛冶師と、比較的若い鍛冶師に伝える。
「ほう。何故です?」
「今後のテスト次第では、まだ改善点が出てくるかもしれない。先に組み立ててしまっては、改良し辛いだろう?」
「なるほど仰る通りで」
鍛冶師二人が納得顔で頷く。
「というわけで、皆、作業を頼むぞ。……何か懸念点など、あるか?」
「そう言えば……」
若い鍛冶師が、あらためて口を開く。懸架部分の製造を担当している男である。車輪を製造する老齢の鍛冶師が、こいつの腕は信用出来る、と推挙した男だ。
「実は、原料が充分手に入らぬかもしれません」
計二〇台分ともなれば、かなりの量ですからな、と男は言う。老齢の鍛冶師の方も、しかりと頷く。
お前達はもういいぞ、と大工と革細工職人を解放した後、鍛冶師二人に詳しい話を聞き出す。
「懸架も車輪もデカいので、砂鉄を大量に使うのです」
「はあ」
当世の鉄製品製造と言えば、原料は砂鉄なのだそうだ。
「鉄鉱石ではないのか?」
「鉄鉱石?」
知らないらしい。
(そうか……。前世とは随分、事情が違うんやな)
早速、オレ達一行は鍛冶屋に移動し、製造の現場を見学した。
確かに、原料は鉄鉱石ではない。砂鉄を加工しインゴットを作っていた。それを再加工し、依頼通りの鉄製品を作り上げるのだと言う。
「唐土から鉄の塊を仕入れ、それを加工し鉄製品を作る者も居る、とは聞いております」
あ、それが鉄鉱石由来のインゴットか。
「ゼニならば、オレが出す。それは手に入らぬのか?」
「ここ堺では、ちと厳しゅうございます。手に入ったとしても、扱うたことが無いので慣れるのに時間がかかるかもしれませぬ」
「そうか……。じゃあ、ひとまず砂鉄の仕入先に案内してくれ」
オレ達はぞろぞろと、老齢の鍛冶師のあとにくっついて、仕入先の業者の下へと向かった。




