表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生無双!! チン説弓張月 ―― 純愛路線かハーレムか!? それが問題だ!  作者: 幸田 蒼之助
飛躍への旅立ち

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/44

彼の地に源氏の旗を立てよ

 オレこと八郎為朝様御一行は、いよいよ九州に向け出発した。

 ちなみに昨晩は、馬肉パーティだった。

 オレがゼニを出し、当世においては貴重な胡椒を買い集めた。そして庭に幾つか篝火を焚き、盛大にバーベキューをやった。

 いわば出陣前の景気づけといったところである。下男下女も混じり、皆と酒を酌み交わしつつ大いに騒いだ。

 馬肉は新鮮で、柔らかかった。

「これは美味うござる」

 塩胡椒を振ったバーベキューが、大好評である。オレに射たれた哀れな馬も無事、極楽浄土へと旅立ってくれたことだろう。唯一の不満は、初夏の晩ゆえ羽虫が(たか)り、閉口した事か。いや、慣れないのはオレだけで、皆は平然としていたのだが。……

 出立直前、父・六条判官為義はオレ達を呼び集め、

「此度の件は、都落ちではないぞ。皆、無事に九州を目指せ。彼の地に源氏の旗を立てよ」

 と激励してくれた。オレは父から、尾張権守家遠宛の書状を受け取り、別れの挨拶を交わすと館を後にした。

 一行は、郎党三〇人。それに下男一〇人である。

 メンバーは多少、変更した。先日の馬探しの旅は短期間の予定だったため、妻子持ちの郎党も混じっていた。今回は彼らを除き、全て独身メンバーとしている。

 壷井党、石川党も一〇人混じっているが、やはり妻子持ちが多少混じっている。それらも河内壷井に到着した後、再編成することになるだろう。

 館の郎党達は笑顔でオレ達一行を見送ってくれたが、下女達の半数ほどは涙を流していた。ただし父とのやりとりを知らされていない兄達は、

八郎(あ奴)め、とうとう勘当されおった。良い気味だ」

 ヘラヘラ笑いながら高みの見物……といった様子である。

 ――名高い源氏ヶ御館の八郎為朝様は、勘当されたそうじゃ。

 という噂は既にあちこちに伝わっているようで、みちの両脇には見物の人集りが出来ていた。一行四一人はその中を悠然とく。

 オレはマイバッハに騎乗。今回は郎党三〇人が皆、騎乗である。一行の中程を下男一〇人が歩き、うち二人がオレのアヴェンタドール、シルビアの手綱を握る。

 マイバッハはいつもの如く、嬉しそうな表情である。アヴェンタドールは鼻息荒く、時折沿道の野次馬を威嚇している。手綱を握る下男も持て余し気味である。どういう状況であれ動じないのが、シルビアだ。こいつは大物になりそうな予感がする。

冠者(かじゃ)、眠そうでございますな」

 隣を歩く郎党の一人から言われた。

「昨晩は遅くまで、おなごと戯れておったそうでございますな。旅中はおなご遊びも程々になさいませ」

 どっ、と笑いが興った。皆、表情は明るく、おおよそ勘当され都落ちする一行には見えない。

 郎党三〇人のうち数人が、“南無八幡大菩薩”の旗指し物を背に挿している。

 これが、オレにはよく解らない。

 源氏の一族郎党は、これがあるとボルテージが上がるらしい。まあ、なんにせよ、プラスの効果があるならば大いに利用するまでのこと。

 沿道の人々を眺めつつ歩き、心残りがひとつ、あった。一行四一人全員が、オレ考案の試作品であるナップサックを背負っている。こいつを近々、大々的に売り出すつもりでいたのである。

 案の定、

「あれは何ぞ!?」

 という声が沿道から漏れ聞こえた。大いに売れただろうに、実に悔しい。

 ちなみにオレの担ぐナップサックには、油紙で幾重にも巻いた上文箱に収められた、お鶴の筆写した大切な書物が入っている。お鶴の想いと、オレのお鶴への想い、未練を、肩にずしりと感じた。

 沿道に妙齢の女性を見かけると、つい、そこにお鶴の面影を追ってしまう。

(重症やなあ)

 一人、馬上で苦笑する。

 夜は、前回の旅同様、伏見の光基さんの館に泊めて貰った。

「よう来たな」

 温かく迎え入れてくれた、光基さんである。そして次の瞬間、郎党達の顔色を眺め、怪訝そうな顔をする。

「噂は聞いておる。心配しておったのじゃが……」

「あははは」

 オレは光基さんに、昨日の顛末を話した。少納言信西の使者――平忠正――を退け、信西に軽くやり返したこと。勘当という体裁をとり京から離れること……などを伝えると、

「なるほど事情は解った」

 光基さんはしきりに頷く。

「やはり、そなたは聡いのう。上手い手じゃ」

 その晩もまた、ささやかな歓待を受けた。

「京には依然、戦乱の兆しが燻っております。ゆめゆめ警戒を怠らないよう」

 と勧め、翌朝丁寧に礼を述べて伏見殿を辞した。

 天気は良い。

 移動には荷馬車を使うべき、と考えていたが、なにしろ梅雨を挟んだため開発が間に合わなかった。

 そのせいで皆、鎧兜を着込んで馬に乗っている。オレも“八龍(はちりょう)レプリカ”を着込んでいる。これが猛烈に重いし、なにより暑い。

 さりとて全て脱ぎ、下男に担がせるわけにもいかない。そうすれば多数の下男をゾロゾロ引き連れて歩くことになる。すこぶる効率が悪い。

 鎧兜の重量の分、馬への負担も大きい。オレは替え馬があるものの、郎党達には無い。その辺を考慮し、ゆるゆると旅路を征く。

 その日の宿は、摂津源氏の者達の屋敷に分宿した。

 京から離れたこの地にも、オレの名が通っている。そのせいで、オレは驚くべき当世の風習を目の当たりにすることとなった。

 オレは一番大きな屋敷を宿としたのだが、翌朝、

「八郎冠者の湯浴み水を、下され」

 周辺の住人達が、オレの入浴した残り水を貰いに当屋敷へ押しかけて来たのである。

 つまり当世には、貴人や豪傑の入浴後の残り水を貰って飲むと、健康に良いという迷信があるらしい。

(うげっ。気持ちわりぃ)

 と思い拒否したが、屋敷の使用人達が、彼らに勝手にあげてしまったようである。腹を壊しても知らんぞホンマに。……


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ