表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生無双!! チン説弓張月 ―― 純愛路線かハーレムか!? それが問題だ!  作者: 幸田 蒼之助
デカい馬を手に入れろ!

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/44

ひや~っ!

 というわけで、郎党達も皆、入浴を終えたところで宴が始まった。

 そこで親治さんの嫁さんや娘さんを紹介されたわけだが、娘さんとやらはまだ八つだという。

(なんやねん。嫁にやるとか何とか、まだ話が早過ぎるやろ)

 後々周囲に聞いて判明したことだが、当世、そんなものらしい。将来有望とみれば、縁組して結束を固めておくのだとか。

 そりゃまあ、有望かもしれないけどな。親治さんの嫁さんは結構美人だし、娘さんも嫁さんに似てそこそこ可愛かったし、そりゃ有望株だと思うよ。オレが有望株ってことなら、有望株同士だ。

(そういえば、“源氏物語”って平安時代の小説だよなあ)

 幼いうちからツバつけるってのは、この時代の風潮か。

 あ、いや、オレは全然興味ないけど。今は、お鶴との純愛路線まっしぐらやねんけど。……

「近頃、京の方はどうなっておる?」

 親治さんの関心事も、それだった。ここは京から離れている分、情報に飢えているようだ。

 オレは親治さんと、京や地方の事情について情報交換を行った。その辺、伏見の光基さんと同様、

「いざという時は力添えをお願いします」

 ということで協力要請をとりつけた。馬を手に入れるのが目的の旅ではあるが、折角の機会なので、外交をも果たす。

 せめてオレが、当世の歴史に詳しければ、上手く懸念なく立ち回れるのだろう。だが実際、この時代に転生してみて、そんな事はサブカルチャー的ファンタジーに過ぎないと早々に悟った。なにしろ今が、西暦何年にあたるのかさえ判らないではないか。

 ならば、出来る事は出来る時にやっておく。わずかな歴史知識を手がかりに、可能な限り賢く立ち回る。

(それしかない)

 と思っている。今回はその、布石を打って回る旅でもある。

 つい先程は思いがけず、郎党達の意外な結束を知った。

 そう。オレは清和源氏の本流たる河内源氏の、いわばホープなのだ。郎党達に支えられつつ、いずれオレがリーダーとして彼らを食わせていかねばならない。一族の舵取りを委ねられている。

 前世における、中小企業の社長さんみたいなものだ。

 ――シャッチョさん、シュケベね♪

 の社長さん……じゃない方のシャッチョさんである。カリスマ社長的な役割だろう。それだけ重い責任がある。それを痛感させられた。

 翌日は久々に小雨が降った。

 親治さんに頼んでもう一泊させて貰い、オレ達はその翌朝、出発した。

 目指すは河内源氏の本拠、河内国は石川郡壷井だという。馬が手に入りそうな商業地は、前世と変わらず難波(なにわ)(大阪市)の中心付近のようだが、

「ここから難波へ向かうならば、まずは壷井を目指しましょうぞ」

 だそうである。

 それならオレも、多少ながら地理が判る。当地から、前回こちらへ来た時よりも西寄りのルートを辿り、生駒山と二上山の隙間を通って大阪平野に抜ける。抜けた場所が羽曳野市辺りだろう。

 ということは、河内源氏の本拠地とは、前世の羽曳野市ということになるか。

 幸いにして親治さんの郎党に、地理に詳しい者がいたので、道順は確認してある。

 ……と楽観視していたのだが、これが意外と厄介だった。

 二晩は百姓家数軒に別れて泊まった。この旅で初めての経験だが、まあ、面倒臭い。当然風呂も無いし、粥を出して貰い寝るだけである。身分が違うため相手が気を使い、会話もあまり弾まない。

 山越えは一応念の為、オレの指示で案内役を雇った。山の中、一行二一人で迷ってしまえば大事である。ゼニで安全が買えるのであれば、それに越したことはない。

 馬――マイバッハ――は、なかなか良い。

 結構な甘えん坊だ。三日目には早くも、オレの姿を見れば嬉しそうに軽く嘶き、近寄れば頭を寄せてくる。

女人(おなご)はことごとく、冠者によう懐きますのう」

 重澄さん――重季さんの兄――がオレを冷やかした。

 四日目、オレ達一行は大阪平野に出た。前世の知識からすれば羽曳野市だろう。

「壷井のお館は、ほれ、もうすぐですぞ」

 郎党達は皆、京住まいだが、半数程は当地の出身である。重季さん達がそう、人選したらしい。彼らの表情がほころんでいる。

 山道を抜けたところで日が落ちたので、源氏の者の屋敷で一夜を明かし、翌日昼過ぎ、いよいよ壷井の館に到着した。

「広いな……」

 川沿いの台地上に築かれた、まさに城の如き館である。

 四方を堀と土塁で囲み、立派な造りをしている。六条堀川の館の、何倍あるだろうか。いや、あちらも随分広いと思っていたのだが。家人(けにん)もこちらのほうが圧倒的に多い。

 館から周囲を眺めて、良く分かる。伏見殿とそっくりで、交通の要衝に臨む高台である。

 周辺にも武家の屋敷らしきものが多数点在する。彼らを総称し“石川党”と呼ぶらしい。

「スゲぇ」

 壮観。一国一城のあるじとは、まさにこのことか。

「為朝冠者、ようお越し下さった。どうぞごゆるりと」

 館の留守を任されている、父の弟――八郎君(ゝゝゝ)一二歳の叔父――に歓待された。

「しばらく世話になります」

「噂には聞いておりますが、デカいですな」

「まあ、デカいです」

 郎党達はさっさと旅装を脱ぎ捨てると、館の下へとすっ飛ぶように駆け出して行った。

「何事か?」

「はははは。川の向こうに、湯が湧くのです。地元の者は皆、そこで湯浴みをします。ぬるいですがね」

「ほう。それは良いですな」

「冠者も湯浴みされてはいかがか」

「そうさせて貰いましょう」

 早速、軽装になり郎党達の後を追うと、彼らは下帯一枚で湯に入り、奇声を上げ騒いでいた。

「ほう。立派な露天風呂だな。温泉か?」

 オレは湯に飛び込み、次の瞬間、

「ひや~っ!」

 と湯から飛び出した。いや、湯ではない。水だ。冷たくはないが、熱くもない。温水プールのような温度である。

「冷てぇ!」

 二月の二〇日あたりだから、新暦ならば三月下旬か四月上旬だろう。外気温は、少々肌寒い程度である。それでこの水温は、少々キツい。

「これですぜ、これ。河内壷井の名物みたいなものでござる」

 河内出身の者達に言わせれば、これが懐かしいらしい。ぎゃあぎゃあ騒ぎながらぬる湯に浸かり、身体を擦っては立ち上がり、そしてまた寒さに奇声を上げる。

 まあ、楽しそうではある。オレも彼らに混じって奇声を上げ、大いに旅の疲れを癒やした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ