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【書籍化&】冤罪で死刑にされた男は【略奪】のスキルを得て蘇り復讐を謳歌する【コミカライズ決定】  作者: ダイヤモンド


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引き裂かれし兄弟

「貴史、大丈夫か!?」



 床に倒れた弟のもとに駆け寄る雪風。弟は混乱した様子で顔を上げる。



「兄さん、スキルが……! スキルが使えない……!!」

「何……!? まさかお前、貴史のスキルを奪ったのか!?」



 雪風が俺を鋭く睨みつける。俺が【略奪】を所持していることがバレている以上、そう思うのが普通だろう。しかしただ「はいそうです」と認めるのは芸がない。



「まさか、そう簡単に奪えたら苦労はしない。俺の【略奪】は対象を殺すことで初めてスキルを奪うことができる。けどまだ弟は生きてるだろ? そいつがスキルを使えなくなったのは、俺の別のスキルでそいつのスキルの発動を封じたからだ」



 当然これはハッタリだ。しかし雪風が得た情報は俺が【略奪】を所持しているということだけで、【略奪】の本当の発動条件も、俺が他にどんなスキルを所持しているのかも知らない。よってハッタリだとは気付けないだろう。



「しかしまあ、俺が地中に潜った時点で弟にはスキルを使って地上に退避するよう指示するべきだったな。そうすれば弟はこんなことにならずに済んだ。些細な判断ミスが命取りになることもある、よく覚えておくんだな」



 さっき言われた台詞をそのまま雪風に返してやった。もっとも【入替】には何らかの制約があって、すぐに発動できなかっただけかもしれないが。



「弟を殺さなかったのは、ちょっとしたハンデだ。ありがたく思えよ」

「くっ……調子に乗るなあああああ!!」



 雪風が怒号すると共に、部屋の床、壁、天井の全てが分厚い氷で覆われた。



「どうだ!! これでもう地中に潜ることはできないだろう!!」

「……ま、そうくるよな。しかしお前は弟のスキルに頼れなくなった。もはや結果は見えてると思うけどな」

「黙れ!! もう手加減はしない……!! この僕を怒らせたことを後悔させてやる!!」



 ハッタリが効いているのなら、雪風は俺が【入替】のスキルを手に入れたことはまだ知らない。ならば不意打ちとして使わない手はないだろう。あとは発動のタイミングだ。



「死ねえ!!」



 雪風が巨大な氷塊を生成して放つ。またそれか、俺には通用しなかったことをもう忘れたのか。俺は【怪力】を発動し、拳でそれを容易く粉砕した。どうやらだいぶ冷静さを失って――



「!?」



 その時、足下の氷が瞬く間に膨張して俺の首から下全部が固められた。なるほどこっちが本命か。さっきと違って入念に身動きを封じてきたようだ。



「ははっ! これでもう何もできまい!!」

「……それはどうかな」



 俺は【怪力】の効力を全身に行き渡らせ、強く力む。すると俺を固めていた氷は粉々に砕け散った。



「なんだと……!?」

「ただ拳の威力を上げるだけのスキルと思ったか? このスキルはパワーを上げる部位を選べるんだよ」

「お……おのれえ……!!」



 険しい顔つきで後退る雪風。どうやらそろそろ決着がつきそうだ。俺は拳を握りしめ、雪風に向けて一直線に疾駆する。弟のスキルで回避ができなくなった今、奴が次に取る行動は一つしかない。



「まだだ!!」



 雪風が自分の目の前に氷の壁を展開した。予想通りだ。雪風の背後にはテーブルが置かれている。発動するなら今だ。


 スキル――【入替】!!


 俺とテーブルの位置が入れ替わり、俺は瞬時に雪風の背後に移動した。



「何っ!?」



 雪風が驚愕の声を上げる。どうやらハッタリが効いていたようだな。俺が既に【入替】のスキルを弟から奪っていたことは完全に想定外だったらしい。


 すかさず俺は【怪力】で強化した右の拳を放った。もはや防御もスキル発動も間に合うまい。もらった!!



「……なっ!?」



 鈍い音が響き、大量の血が飛散する。確かに俺の拳は心臓部を貫いていた。ただしそれは雪風のではなく――弟の心臓部だった。弟が自ら雪風の盾となっていたのである。



「貴……史……?」



 大きく目を見開く雪風。俺が拳を引き抜くと、弟の身体は床に落ちた。



「貴史!! しっかりしろ貴史!!」



 弟の身体を抱き寄せ、必死に叫ぶ雪風。思いがけない光景に、しばらく俺は呆然と立ち尽くす。だがもう、弟は助からないだろう。



「兄……さん……」



 弟はうっすらと目を開け、か細い声を漏らす。その身体は既に消滅が始まっていた。



「ああっ、駄目だ!! 貴史が、貴史が消えてしまう!!」

「ごめん……兄さん……何の役にも……立てなくて……」

「馬鹿なことを言うな!! 嫌だっ、死ぬな貴史!! 僕を置いていかないでくれ!!」



 最期の力を振り絞るように、弟が雪風の手を握りしめる。



「また……兄さんと一緒に……生きることができて……幸せだったよ……」

「貴史……!!」

「ありがとう……兄さん……」



 雪風に笑いかけながら、弟は消えていった。



「貴……史……」



 一人残された雪風は、床に膝をついたまま、抜け殻のようになっていた。



「……死ぬ順番が変わっただけだ。お前もすぐに弟のもとへ送ってやる」



 俺は冷酷に告げる。雪風からは何の反応もない。もはや完全に戦意を喪失したらしい。だが俺は容赦しない。まずは【略奪】でこいつのスキルを奪って無力化し、春香の前に突き出すとしよう。俺は雪風に近付き、静かに手を伸ばす。



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