3つの力
「ほら、石神も食べなさいよ」
春香が石神に食材が入った袋を差し出した。
「……いいのか?」
「柄にもなく遠慮してんじゃないわよ。今はアンタも貴重な戦力なんだから。いいでしょ皆?」
デマを流した昨日の一件、そして女子生徒に大怪我を負わせた疑いで、完全に信用を失った石神。それでも生徒達は顔を見合わせ、頷いた。
「石神のことは嫌いだけど、仕方ないよな」
「石神のことはムカつくけど、他に闘えるのは石神くらいだもんね」
「石神のことは憎たらしいけど、ちゃんと食べて力をつけてくれ」
「……お前ら後で覚えてろよ」
そう言いながらも、石神は小さく笑みを浮かべていた。生徒から食べ物を奪おうとした上に、倉庫から食材を盗み出そうとした自分が、まさか生徒達から食材を与えられる立場になるなど夢にも思っていなかったからだ。
「あの、春香さん。秋人さんはどちらに……?」
秋人がこの場にいないことに気付き、不安そうな顔で体育館内を見回す千夏。
「秋人がついに雪風の居場所を見つけたらしくて、そこに向かったわ。今頃は雪風と闘ってると思う」
「秋人さんが、お一人で!? 大丈夫なんですか……!?」
「分からない。でも秋人なら勝てるって信じてる。というか絶対に勝ってもらわないと困るわ」
「秋人さん……」
千夏は両手を握りしめ、秋人の無事を強く祈った。
「うにゃああああああーーーーー!! 完・全・復・活にゃあああああーーーーー!!」
やがて全ての食材を食べ尽くした朝野が雄叫びを上げた。
「アンタ、本当に全部食べちゃったの!?」
「そうだよ! もしかして春香ちゃん、足りなかった?」
「いや、アタシは十分食べたからいいんだけど……」
本当なら今日まで全生徒に配給する分の食材は残っているはずだったが、そのほとんどを食べてしまった以上、もはや猶予はなくなった。全ての命運は、秋人と雪風の闘いに委ねられたことになる。
その直後、とうとう体育館の壁が突き破られ、大量の氷人形がなだれ込んできた。生徒達から悲鳴が上がる。
「落ち着いてみんな!! 後ろに下がって!! 朝野、あれだけ食べたんだからその分働きなさいよ!」
「言われるまでもないにゃ! 完全復活した私は最強かつ無敵! さあいくよ、えーっと……ごめん誰だっけ?」
「石神だ石神!!」
全ての氷人形を掃討すべく、春香達の闘いが再び始まった。
☆
依然として俺と雪風兄弟の闘いは続いている。最初の一撃をお見舞いして以降、俺は雪風にダメージを与えられずにいた。一方の雪風も、未だ俺に決定的なダメージを与えられていない。雪風が氷を駆使して攻撃し、俺がそれを凌ぐという構図が繰り返されるだけの膠着状態にあった。
「意外としぶといね。君に勝ち目なんてないのだから、いい加減楽になったらいいのに」
「……ふっ」
笑みをこぼした俺を見て、雪風は眉をひそめる。
「何を笑っているんだい?」
「お前が一体どれほど強いのかと身構えていたが、思ったほどじゃないな」
俺は雪風を挑発するように言った。弟の方は戦闘に参加していないとはいえ、マルチプルを含めた二人の参加者を相手に実際よくやれている方だろう。
「……今、なんと言った?」
「思ったほど強くないなって言ったんだよ。正直、もっと苦戦を強いられると思ってたんだけどな。大半の力を氷の牢獄の維持に回しているせいで、本来の力を発揮できていないんじゃないか?」
怒りを押し殺すような表情で、雪風は嘆息した。
「やれやれ、わざと手加減してあげているというのに。そんなことも分からないなんてガッカリだよ」
雪風が氷塊を生成すると、それは形を変えていき、やがて人の姿となった。氷人形はこうして生み出していたのか。だがその数は五体と少ない。この狭い空間で大量生成すれば雪風自身も身動きが取れなくなるからだろう。
氷人形といえば、春香達は無事だろうか。地上にはまだかなりの数の氷人形が残っていた。今頃きっと春香達も必死に闘っているはずだ。
「言っておくけど地上の量産型とは一味違うよ。数が少ない分、個々の戦闘力を上げたからね。さあ、僕の可愛い子供達よ。あの愚か者を葬るんだ」
五体の氷人形が俺に襲い掛かってくる。まったく舐められたものだ、この程度で俺を殺せると思っているとは。
俺は【怪力】で強化した拳で氷人形を次々と粉砕していく。いくら戦闘力を上げようと所詮ただの傀儡、俺の敵ではない。
雪風の闘い方を見る限り、奴のスキルには大きく分けて三つの力がある。①氷の牢獄や氷の壁のように再生能力を備えた氷を生成する力。②生成した氷を投射したり身に纏ったり自在に操る力。③氷人形のように自律行動が可能な氷を生成する力。
そしておそらくこの三つの力は併用できない。例えば①と③を組み合わせて再生能力を備えた氷人形を生み出す、なんてことは不可能だろう。もしできるならとっくにやっているはずだ。
雪風のスキルは意外となんとかなる。問題は弟のスキルだ。あのスキルがある限り、俺の攻撃は全て空振りに終わってしまう。となると先に狙うべきは弟の方。しかしただ狙うだけではスキルで避けられるのがオチだろう。ならば――
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