無情な殺戮
氷人形の戦闘力は普通の人間の手に負えるレベルではなく、生徒達は為す術もなく散り散りになっていく。早く向かわないと取り返しのつかないことに……!!
「っ!!」
俺はすぐさま地上に向かおうと走り出したが、屋上のドア付近にまた新たな氷人形が出現した。くそっ、出入口を塞がれた! 今は一秒でも時間が惜しいのに、こいつらの相手をしていたら――
「秋人くん!! 春香ちゃん!!」
朝野は俺達の名を叫ぶと、一個の大きな星を生成した。俺との闘いでも使っていた飛行用の星だ。
「乗って!! こっちの方が早いにゃ!!」
「……ああ、助かる!!」
もはや形振り構ってる場合じゃない。俺達はその星に飛び乗り、一気に地上まで移動した。地面に着地すると、まず最初に大量の血を流して倒れている女子生徒が目に入った。
「大丈夫か!? しっかりしろ!!」
俺はその女子のもとに駆け寄り、必死に肩を揺らした。心臓部を貫かれた跡がある。返事がない。息もしていない。もうとっくに……!!
「春香!! スキルを使ってこの子を――」
言い終わる前に、春香は力なく首を横に振った。
「前にも言ったでしょ、アタシのスキルに死んだ人間を生き返らせる力はない。いくら死者の時間を戻したところで、その魂は還ってこないのよ」
「……!!」
俺は強く拳を握りしめる。罪のない子供を、こうも簡単に殺すのか……!!
「うわあああっ!!」
「ぎゃあっ……!!」
こうしている間にも、氷人形共の殺戮によって生徒達は次々に倒れていく。逃げようにもそんな体力は誰も残っておらず、そもそも氷の牢獄には逃げ場など存在しない。これでは一方的な虐殺だ。
俺は女子生徒から手を離し、立ち上がる。俺が今やるべきことはなんだ。目の前の死を嘆くことではないはずだ。
「春香は重傷を負った生徒達にスキルを!! 朝野は春香を守りつつ一体でも多く氷人形を破壊してくれ!!」
「分かったわ!!」
「了解にゃ!!」
俺と朝野で氷人形共を粉砕していく。だがさっきよりも遙かに数が多いので二人だけでは限界があり、犠牲者は増える一方。これが雪風の言っていた、ちょっとしたゲームだとでもいうのか。
「雪……風……!!」
雪風に対して尋常ではないほどの怒りが込み上げてくる。何故だ、何故こんなに酷いことができる……!?
「あ……ああっ……!!」
前方に、腰を抜かして座り込んでいる男子生徒を発見した。今にも氷人形に襲われそうになっている。駄目だ、この距離では間に合わない――
「おらあっ!!」
その時、何者かによってその氷人形が粉砕された。あれは……石神!?
「ぼさっとすんじゃねえ!! 死にてえのか!!」
石神は迫り来る氷人形共を殴り倒していく。一般人であるにもかかわらず、氷人形と互角以上に闘っている。総合格闘技チャンピオンの称号は伊達ではないようだ。
「!!」
石神の足下で横たわる一体の氷人形が、今にも起き上がろうとしていた。石神はそいつを倒し損ねていることに気付いていない。その氷人形が起き上がり、石神の背中を貫こうとした瞬間――
「石神!!」
俺はその氷人形を拳で粉砕した。ギリギリ間に合った。石神は驚いた顔で俺を見る。
「お前、何故俺を助けた……!?」
「そんなこと言ってる場合か!!」
正直俺も石神にはムカついている。雪風の差し金だったとはいえ、こいつのせいで酷い目に遭ったからな。だがこの状況においては石神も貴重な戦力だ。ここで失うわけにはいかない。
「石神、こいつら全員ぶっ倒すまで死ぬなよ!!」
「ああ!? お前に言われるまでもねえよ!!」
敵の敵は味方。氷人形という敵を前に、俺と石神は共闘する形となった。だが――
「駄目だ、キリがない……!!」
氷人形の数は減るどころか増えていく一方。俺達が氷人形を倒すよりも、新たな氷人形が出現するスピードの方が遙かに上回っているからだ。時間が経つほど状況は悪化の一途を辿っていく。
「いやあああっ!!」
「助けてえええ!!」
生徒達の悲鳴が止まらない。春香と朝野も限界が近いのが見て分かる。このままでは氷人形共を全滅させるより先に、俺達が全滅してしまう。
闘志が消えていく。目の前が暗くなっていく。もう、駄目なのか? 俺達はここで死ぬしかないのか……?
「……あああああ!!」
押し寄せる絶望を振り払うように、俺は咆哮した。諦めてたまるか!! 雪風をぶん殴れないまま死ぬなんて俺は絶対に認めない!!
氷人形を生み出しているのは間違いなく雪風だ。ならばこの状況を覆すには、やはり雪風を倒すしかない。だが依然として雪風の居場所は分からないまま――
ならば今ここで、雪風の居場所を推理して突き止めるしかない。しかし俺は闘いながら思考できるほど器用ではない。
俺は脱力し、深呼吸をした。今動かすべきは、身体よりも頭脳だ。
「おいこら月坂!! なに休んでやがる!!」
「……悪い、石神。三十秒だけ時間をくれ」
「ああ!? お前こんな時に何言って――おおっ!?」
俺は【潜伏】を発動し、地中に潜った。ここなら思考に集中できる。この三十秒を使って、雪風の居場所を導き出してみせる。俺が離脱すれば戦況が更に悪くなることは分かっている。だからこの三十秒は絶対に無駄にできない。
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