ごめんなさい
「俺を騙したのか……ふざけやがって……!!」
石神は校舎の屋上に目を向ける。二日前に雪風と遭遇したのは屋上だった。なら屋上に行けば雪風が姿を現すかもしれない。そう考えた石神は、校舎に戻って屋上までの階段を上る。
「雪風ぇ!!」
屋上のドアを蹴り飛ばす石神。やはりそこに雪風の姿はなかった。だが――
「なっ……!?」
衝撃の光景に、石神は大きく目を見開いた。
☆
「……千夏。俺はもう大丈夫だから、千夏も休んでいいんだぞ? 昨日からずっと俺の傍にいるんだろ?」
俺が目覚めた後も、千夏はベットの傍でジッと俺のことを見守っていた。なんだか入院患者にでもなった気分だ。
「私なら平気です。保健室の先生は体育館の臨時保健室の方にいますし、秋人さんが回復するまで、ここに居させてください。あっ、もし迷惑でしたらすぐに離れますけど」
「いや全然迷惑じゃないっていうかむしろ嬉しいんだけど、なんか悪いなと思って」
「私が好きでやってることなので、気にしないでください。何かしてほしいことがあったら遠慮なく私に言ってくださいね」
「……ありがとな千夏」
贅沢を言うならリンゴでも剥いてもらって「あーん」してくれたりすると最高なのだが、今はリンゴ一個も手に入らない状況だ。
「そういえば、昨日起きたことは真冬さんにも報告しておきました。真冬さん、物凄く心配してましたよ」
「……そうか」
思えばここ数日、真冬と連絡を取ってないな。久々に真冬の声を聞きたいし、連絡してみるか。俺は枕元に置いてあった携帯を手に取った。
「うおっ!?」
携帯の画面を見た瞬間、俺は声を上げた。真冬からの着信履歴が下の方までズラリと並んでいたからだ。どうやら相当心配させてしまったようだ。そしてちょうど真冬から電話が掛かってきた。
『秋人!! 大怪我したんでしょ!? 大丈夫!?』
電話に出るや否や真冬の大声が響き、つい携帯を耳から離してしまう。
「ああ。春香に治してもらったから、もう何ともない。心配かけて悪かった」
『そう。よかった……』
真冬の安堵が伝わってくる。しかし真冬がここまで取り乱すなんて珍しい。どんな顔で叫んだのか見てみたいものだ。
『そっちの現在の状況は千夏達からだいたい聞いてる。まだ雪風の居場所は分かってないんでしょ?』
「……ああ」
俺は布団を強く握りしめる。本当に不甲斐ないばかりだ。
『あれから私も色々と考えてみたんだけど……。もしかしたら私達は、大きな見落としをしているのかもしれない』
「見落とし……?」
『ん。あくまで私の仮説だけど――』
そこで真冬の声が途切れた。あれ、どうしたんだ突然……。
「げっ!」
携帯の画面が真っ暗になっていた。電源も入らない。くそ、ここにきてバッテリー切れかよ。この七日間全く充電できなかったから仕方ないが……。
「秋人さん、どうしました?」
「すまん千夏、携帯を貸してくれないか? たった今俺の携帯がお亡くなりになった」
「すみません、私の携帯もついさっき充電が切れてしまって……」
まじか。真冬が何を伝えようとしてたのか気になってしょうがない。もしかしたら雪風の居場所を掴む大きなヒントになったかもしれないというのに。あと真冬の連絡先を知ってるのは春香だけか。春香の携帯は生きてるといいが……。
「そういや春香はどこ行った?」
「秋人さんの意識が戻ったので、他の生徒さん達を呼んでくると言ってました」
「……は? なんでそんなこと――」
その時、廊下の方からドタバタと足音が聞こえてきたかと思えば、大勢の生徒が保健室に入ってきた。
「月坂が目覚めたんだって!?」
「あっ、いたぞ!!」
「月坂ぁ……!!」
ベッドに横たわる俺のもとに、生徒達が一斉に押し寄せてくる。まさかこいつら、まだ諦めてなかったのか!? もう分かっただろ、俺が瀕死になったところで氷の牢獄からは出られないって! ここじゃ逃げ場もない――
「「「「「ごめんなさい!!」」」」」
全員が深々と頭を下げた。彼らの思いがけない行動に、俺はポカンと口を開ける。
「俺達、月坂を瀕死にすればここから出られるって噂を聞いて……」
「それを鵜呑みにして、月坂に酷いことをしちまった……」
「今思うと私達、どうかしてた。本当にごめんなさい」
再三頭を下げる生徒達。ここまで真っ直ぐ謝られると、逆にこっちが申し訳ない気持ちになってしまう。こんな時なんて言えばいいのやら。
「と、とりあえず顔を上げて……」
「そうそう。悪いことをしたら、ちゃんとごめんなさいしないとね」
生徒達の間から春香が出てきた。春香の奴、わざわざ謝罪させる為に生徒達を俺のもとに連れてきたのか。春香らしい行動だな。
「まっ、みんな反省してるみたいだし、秋人もあまり怒らないであげて」
「あ、ああ……」
そもそも怒ってないんだけどな。こんな状況で誰もが精神的にかなり追い詰められていただろうし、異常な行動に出ても責められはしない。
「つーかこの噂って、誰が最初に広めたんだ……?」
「私、石神から聞いた……」
「あっ、俺も。まさかあいつの仕業か……?」
生徒達がザワつく。どうやら皆も石神が犯人だと気付き始めたらしい。
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