公開処刑
「ケッ。わざわざ俺が誘き出してやったというのに、どいつもこいつも腑抜けばかりで呆れるな」
「……望み通り出てきてやったぞ。圭介を解放しろ」
「そいつはまだ早い。お前の公開処刑が済んだら解放してやるよ」
ま、そうくるよな。圭介を人質に捕られている限り、俺は石神に手を出せない。
「いやー、すまねえ秋人。非力な俺を許してくれ」
「……気にすんな。お前は何も悪くない」
しかしこんな時でも圭介のマイペースっぷりは変わらないな。少しくらい怖がったりしろよとツッコみたくなるほどだ。
「言っておくが俺はあいつらのような腑抜けとは違うぞ。お前を痛めつけることに何の躊躇いもねえ。お前には数々の恨みもあることだしな」
「……逆恨みもいいとこだな」
「何とでも言え。お前に致命傷を与えれば俺達はここから出られるんだ。お前には尊い犠牲になってもらう」
「そういう噂が広まってるんだったな。やりたければやれよ」
「ふん。話が早くて助かるぜ」
いくら俺がそれを否定したところで、ここまで噂が広まっては、誰も俺の言葉を信じようとは思わないだろう。だから噂がデタラメだということを、俺がこの場で証明する。
その方法は簡単だ、実際に俺が瀕死になればいい。俺が瀕死になっても氷の牢獄が消えなければ、皆も噂がデタラメだったと認めざるを得ないはずだ。
「金属バットでもよかったんだが、それだと死んじまうかもしれねーからな。この木製バットで妥協してやるよ」
「……そいつは慈悲深いな」
「だろ? んじゃ、歯ぁ食いしばれ!!」
生徒達がグラウンドの端から見つめる中、石神がバットを振り上げる。以前沢渡にモップブラシで顔面をブン殴られたことがあったが、石神の力は沢渡より遙かに上だろうし、あの時の何倍もの激痛が走るだろう。だが覚悟を決めた以上は――
「やめてください!!」
その時、背後で大声が響いた。千夏だ。
「……ああん?」
石神は腕を止め、煩わしそうに千夏の方に目をやる。
「こんなことして何の意味があるんですか!? 秋人さんがあまりにも可哀想です!! 皆さんも目を覚ましてください!!」
千夏が涙声で必死に呼びかける。こんな時まで俺を庇って……。けど駄目だ、俺の味方をしても反感を買うだけだ。それに今の生徒達には何を言っても――
「いやだって……あいつが瀕死になればここから出られるんだろ……?」
「だったらそうするしか……」
「でも……これはちょっとやりすぎじゃない……?」
「だよな……」
「止めた方がいいんじゃね……?」
驚くべきことに、千夏の呼びかけで生徒達の心が揺れ始めていた。何を言っても無駄だと思っていたが……。
「おいおい今更なに綺麗事言ってやがる!! お前らここから出たくねーのか!!」
石神の怒号で生徒達が押し黙る。一瞬光明が見えた気はしたが、氷の牢獄から出たいという願望に皆が支配されている以上、もはやこの状況は覆らないだろう。
「けっ、まあいい。あいつらが何と言おうと関係ねえ。俺がお前をブン殴ればそれで済む話だしな」
「待ってください!! こんなの絶対間違って――」
「千夏」
俺は千夏の顔を見つめ、小さく微笑んだ。
「俺なら大丈夫。全部終わるまで、そこで見ていてくれ」
「そんな……秋人さん……!!」
ありがとな、心配してくれて。心の中でそう呟いた。
「ははっ、カッコイイなあオイ! なら望み通り、くだばりやがれえ!!」
石神が俺の頭に勢いよくバットを振り下ろした。鈍い音がグラウンドに響き、俺は地面に倒れた。
「いやあっ!! 秋人さん!!」
千夏の叫び声と、大勢の生徒の悲鳴が聞こえる。
「はは……ははははは!! ざまーねえな月坂秋人!! 気分爽快だぜえ!!」
「……ってえ……」
俺はゆっくりと立ち上がった。額から血が滴り落ち、地面の砂を赤く染める。石神は俺を見て驚愕の表情を浮かべていた。
「なっ……今のを喰らってまだ立てるのか……!?」
「流石は総合格闘技のチャンピオン……マジで痛かったぞ……」
意識が朦朧とする。パワーだけなら最初に闘った鮫島にも引けを取らないだろう。なんとか立ち上がることはできたが、またすぐに倒れてしまいそうだ。
「で、どうだ? 見ての通り俺は瀕死になったわけだが……氷は消えたか……?」
周囲を見渡す生徒達。案の定、氷の牢獄が消滅する気配は全くなかった。それもそのはず、この程度のことで雪風が俺達を解放するはずがない。
「氷が消えないぞ……」
「私達、まだここから出られないの……?」
「デマだったのかよ……!!」
ザワつく生徒達。代償は安くなかったが、これで噂がデタラメだと証明することができた。その中でも石神は一際動揺を見せていた。
「馬鹿な、そんなはずは……!!」
「……まあ、氷は消えなかったが、お前は満足したんじゃないか? 俺に相当ムカついてたみたいだし、俺をブン殴れただけでもストレス解消にはなっただろ」
「黙れ!! くそっ、だったらもう一度――」
「やめてください!!」
再び石神が腕を振り上げたその時、千夏が俺と石神の間に割って入り、俺を守るように両手を広げた。
ブックマーク・評価をいただけると元気100倍です。よろしくお願いします。






