理性との闘い
(って、春香まで隠れる必要あるのか!?)
(私が見つかったら秋人を匿ってるのがバレるかもしれないでしょ! ちょっとは考えなさいよ!)
とにかく狭いので、春香と身体を密着せざるを得ない。春香の胸が、腹が、太股がモロに当たっている。なんだこのエロ漫画のようなシチュエーションは。
(なんか固いのが膝に当たってるんだけど! こんな時になに興奮してんのよ!)
(しょ、しょうがないだろ……!!)
いくら春香の中身が6才だと分かっていても身体は立派な16才なんだ、どうしても反応してしまう。理性だけは失わないようにしなければ……!!
「どうだ、見つかったか!?」
「いや、いない。どこに行った……!?」
「部室棟に入っていくのは見たんだ、この建物のどこかにいるはずだ!」
廊下から生徒達の声が聞こえる。今ここから出たら確実に見つかるので、しばらくはこの状況を堪能し――じゃなくて我慢するしかない。
「……どうやら行ったみたいね」
数分後、俺と春香は掃除用具入れから出た。正直、生徒達に見つからなかった安心感よりも理性を失わずに済んだ安堵感の方が大きい。
「助かった。ありがとう春香」
「どういたしまして。ビックリしたわ、部室棟の中を見回ってたら秋人が大勢の生徒に追い回されてるのが見えたんだもん」
「……ここは?」
「アイドル部の部室よ。たまたまアタシが鍵を持っていてよかったわね」
ああ、だから春香はこの部室に入れたのか。春香が部活をやっていてよかったと初めて思った。しかしアイドル部の部室か、どうりで良い匂いがすると――いや何でもない。
「さて、説明してもらえる? どうして秋人が追いかけられていたのか」
「……ああ」
俺の事の経緯を春香に話した。
「秋人を瀕死にすれば氷の牢獄から出られる……。いつの間にかそんな噂が広まっていたのね」
「皆まともな精神状態じゃないから、すっかり信じ込んでしまってる。まさかこんな目に遭うとはな……」
雪風が六日間も皆を氷の牢獄に幽閉したのは、全てこの為の布石だったのだろう。相手は何の罪もない高校生なので、俺も迂闊に手を出せない。
「ほとぼりが冷めるまで、ここに身を隠すしかないわね。本当は男子禁制なんだけど、今だけは大目に見てあげる」
「……そりゃどうも」
だがそう簡単にほとぼりが冷めてくれるとは思えない。とにかく今の内に何か手を考えなければ。しかし数分後、思わぬ事態が起きた。
「……っ」
春香が両手で股を押さえてモジモジし始めたのである。まさか……。
「秋人……おしっこ行きたくなってきた……」
やっぱり!! だけどまだ部室棟の中は俺を探す生徒達が大勢いるだろうし、今出て行けば確実に見つかってしまう。
「ど、どれくらい我慢できる!?」
「あんまり長くは……無理かも……!!」
考えろ。生徒達に見つからず、春香をトイレに行かせる方法を……!!
「も、もう限界!!」
「ブーッ!?」
俺は勢いよく噴き出した。春香が立ち上がってパンツを下ろしたからだ。
「おい何してんだよ!?」
「掃除用具入れの中にバケツがあったでしょ!? あれ取って!!」
「……は!? まさかバケツの中にする気か!?」
「しょうがないじゃない! 今ここから出るわけにはいかないんだから!」
「いやだからって……!!」
「それに男ってこういうの好きなんでしょ!? なら黙って見てなさいよ!」
「そりゃ好きな奴もいるだろうけど俺にそんな趣味はない!!」
「ああっ、もういいわ! 自分で取るから!」
掃除用具入れにダッシュで向かう春香。俺は春香の腕を掴んでそれを止めた。
「ちょっと何すんのよ!」
「……駄目だ春香。たとえどんな状況だろうと、一人の男として女の子にそんなはしたない真似をさせるわけにはいかない」
真剣な声色で、俺はそう言った。
「秋人……」
「だからまあ、なんだ。そういうプレイは、然るべき時にやってくれ」
「……やっぱり秋人も好きなのね」
「だだだだだ断じて違う!!」
「それより本当に漏れそうなんだけど! どうしたらいいのよ!」
俺は数秒間思考した後、春香にこう告げた。
「俺が囮になって生徒達を引きつける。その隙に春香はトイレに行ってくれ」
「……は!? 本気で言ってるの!? そんなことしたら秋人が……!!」
「どのみち、いつまでもここに引き籠もるわけにはいかないしな。なーに心配すんな、俺はそう簡単には捕まらない」
「ちょ、ちょっと待って!! 他に何か良い方法が――」
「んじゃ、また後でな!」
春香に異論を唱える間も与えず、俺は部室から飛び出した。
「いたぞ!!」
同時にそこにいた生徒達に見つかった。俺は廊下を突っ走ってそいつらを振り切り、階段を駆け下りる。
まずは部室棟から出ようと二階から一階に下りようとしたが、一階から駆け上がってくる複数の生徒が見えた。やむを得ず俺は下りるのを断念し、二階の廊下を走って反対側の階段の方へ向かう。
「げっ!?」
だがその途中、向こうから大勢の生徒が駆けてくるのが見えた。すぐに引き返そうとしたが、走ってきた方からも既に大勢の生徒が迫ってきていた。見事に挟み撃ちにされてしまった形だ。
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