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【書籍化&】冤罪で死刑にされた男は【略奪】のスキルを得て蘇り復讐を謳歌する【コミカライズ決定】  作者: ダイヤモンド


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雪風の策略

「そいつは結構だが、わざわざ噂にする必要あんのかよ。他にもっと手っ取り早く伝える方法はあるだろ」

「ただ伝えるだけでは皆が信じるとは限らないからね。そこで噂の力を利用する。以前ネットで紙製品が不足するというデマが広まった時、あらゆる店でトイレットペーパーやティッシュが欠品して大騒ぎになった事件は君も知っているだろう? 噂にはそれだけの力があるんだよ」



 だがそれを考慮したとしても、こんな噂は誰も信じないだろう。普通に考えたら秋人と氷の牢獄には何の関係性もないからだ。


 ただしそれは、皆が正常な状態だったらの話。精神的にも肉体的にも極限まで追い込まれ、出口も見えない今の状況でこの噂を流せば、誰もが藁にもすがる思いで実行に移すはず。雪風はそう考えた。



「そして②僕の名前は絶対に誰にも話さないこと。③噂を広める際には必ず『誰にも言うなよ』と念を押すこと。この三つだ」

「……三つ目がよく分かんねえな。それじゃ噂が広まらねえだろ」

「心理的リアクタンスってやつさ。後でスマホで調べてみるといい」



 人間という生き物は、何かを強制されるとそれとは真逆の行動を取りたがる。つまり人は「誰にも言うな」「絶対に秘密だ」と言われたことほど話したい欲求に駆られ、結果としてその方が早く噂が広まることになる。そういった人間の心理を、雪風はよく理解していた。



「僕の話は以上だ。何か質問はあるかい?」

「……月坂秋人に致命傷を与えたら、本当に俺達を解放してくれるんだろうな?」

「勿論だとも。それで僕の目的は達成されたも同然だからね。期待しているよ」



 雪風が指を鳴らす。次の瞬間、雪風は石神の目の前から忽然と姿を消し、代わりに椅子の上には消火器が置かれていた。



「消えた……!?」



 石神はしばらくその場に立ち尽くす。あの男、雪風は一体何者なのか。とにかく今は言われたことをやるしかない。そう決意を固め、石神は屋上を後にした。雪風の掌の上で踊らされていることなど知らず……。




  ☆




 氷の牢獄の出現から六日が経過した。とうとう明日で食材も尽きてしまう。明日までに雪風を倒すことができなければ、俺達を待っているのは飢え死にのみ。今朝も春香達と協力して学校の敷地内を巡回をしているが、やはり雪風は見つからない。



「はあ……さすがに体力の限界にゃ……」

「そうね……」



 朝野と春香はすっかり疲れ果てた様子だ。この六日間まともに食べないで雪風を探し続けているのだから当然だろう。これ以上女子に過酷な思いをさせるのは忍びない。



「二人とも、キツイなら無理しなくていいぞ。あとは俺一人でやるから」

「キツイのは秋人も同じでしょ。アタシは大丈夫だから気を遣わなくていいわよ」



 まあ、正直言うとキツイ。この数日間で体力が著しく落ちたのを感じる。やはり空腹が一番の要因だろう。



「私はもういいかな……これだけ探しても見つからないんじゃ……」

「こらこら何言ってんのよアンタ! 雪風を倒さない限りアタシ達は一生ここから出られないのよ!? 簡単に諦めてんじゃないわよ!」

「ハッ! そうだよね、少女戦士ともあろう私が、ちょっと弱気になってたにゃ! 悪を倒すまで私は屈しないよ!」



 腕をグルグル回す謎の動きで気合いを入れ直す朝野。そうだ、雪風を倒せるのは俺達しかいない。ここにいる数百人の命を救うためにも、絶対に諦めるわけにはいかない。



「おう秋人、こっちに来い!」



 一旦休憩のため体育館に戻ると、圭介が俺に手招きをしていた。俺は圭介の隣りに腰を下ろす。



「なんだよ」

「爆笑ショートコント第二弾を考えてるんだが、良いネタが思い浮かばなくてな。お前も協力してくれよ」

「断る。ったく何かと思えば……」

「おいおいそりゃねーだろ。それでも相方か?」

「誰が相方だ! あんなの二度とやるか!」



 つーかあれだけ盛大に滑ったのにまたやるつもりだったのか。こいつのメンタルどうなってんだ。



「圭介。この際だから言っとくけど、あまり俺とつるまない方がいいぞ」

「は? なんでだよ?」

「……俺と一緒にいると、お前が危険な目に遭うかもしれないからだ」



 以前、神崎が千夏を人質に捕って俺を脅してきたように、雪風も同じような手を使ってくるかもしれない。その時真っ先に狙われるのは、一般人かつ俺と親しい人間だろう。



「ははっ、なんだそりゃ。つーかこんな状況だし、もうとっくに危険な目に遭ってるじゃねーか」

「そりゃそうだけど……」

「何を心配してんのか知らねーが、安心しろ。たとえ秋人のせいで俺の命が脅かされるような事件が起きたとしても、俺が秋人を恨むことはねえ。その程度で俺はお前との友情を断ち切ったりはしねーからよ」

「……気持ち悪」

「おいこら! 今のは感動するところだろ!」



 まあ本音を言ってしまうと、千夏の時ほど圭介を巻き込みたくないという気持ちはないんだよな。理由は一つ、圭介は美少女ではないからだ。我ながら浅ましい人間である。



「ところで秋人、お前しょっしゅう体育館からいなくなるけど、いつも何してんだ?」

「……かくれんぼだよ。暇だしな」



 俺は適当に答えた。あながち間違いでもない。



7月も頑張って更新しますので応援よろしくお願いします。

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