エゴの塊
「はいはーい!! みんな注目ー!! 爆笑ショートコントの時間だぜ!!」
そんな中、圭介の大声が体育館に響いた。こいつだけは全くテンションが変わらない。なんか圭介が化け物に見えてきた。
「お前、こんな時によくもまあ……」
「こんな時だからこそだろ。どいつもこいつもシケた面しやがって、葬式みたいで見てらんねえ。俺様の爆笑ショートコントで皆の元気を取り戻してやるぜ!」
自分で爆笑とか言ってる時点で滑る予感しかない。
「つーわけで秋人、お前の台本だ」
「……は!? 俺もやるのかよ!?」
「おうよ。このコントは二人いないとできねーしな」
「いやなんで俺が……」
「他に元気そうな奴はお前くらいだしな。頼んだぜ相棒!」
というわけで、何故か圭介とショートコントをやる羽目になった。登場人物はお坊さんと子供の二人。俺がお坊さん役、圭介が子供役だ。
「お坊さんお坊さん、何してるの?」
「ん? ティッシュを売ってるんだよ」
「えー? お坊さんがどうしてティッシュなんて売ってるの?」
「最近はお寺の仕事だけじゃ生活が苦しいから、生活費の足しになればと思ってな」
「あはは、世知辛いね。お坊さんが可哀想だから、僕も買ってあげるよ」
「ほほ、生意気な奴め」
「それじゃお坊さん、ティッシュください!」
「ナンマイ(何枚)ダー」
「ってダジャレじゃーん!」
シーン……。
ただえさえ寒い体育館が、更に寒くなったのであった。
昼食の時間になり、俺達のクラスは食堂に移動した。
「ったく、さっきは秋人のせいで思いっきりスベっちまったじゃねーか」
「お前が考えたコントだろ! 人のせいにすんな!」
圭介とくだらない言い合いをしながら、盆を持って配給の列に並ぶ。本日の昼食は半分のパンと少しのスープだけ。日を追うごとに、ますます食事が貧しくなっていく。
「はあ、いつになったらこんな生活から抜け出せるんだよ……」
さすがの圭介も、この時ばかりはテンションが急降下していた。当たり前に食事をしていた日々が、いかに幸せなことだったか思い知らされる。
「おらぁ!! いいから寄越せ!!」
その時、食堂に男の大声が響いた。そちらに目を向けると、図体のデカい男が別の男子に掴みかかっているのが見えた。
「ぼ、僕のパンを返して!」
「うるせえ!! どうせテメーなんざ飢え死にしたところで誰も悲しまねーだろ!!」
どうやらあの男が他の生徒から無理矢理パンを奪い取ったようだ。周りの生徒達は気まずそうな顔で見て見ぬフリをしている。
「石神の奴、こんな時まで暴れてんのか……」
「……石神って、あのデカい奴のことか?」
「おいおい、いくら転入してきたばかりだからって、そろそろクラスメートの名前くらい覚えたらどうだ」
高校はすぐに辞めるつもりだったから、クラスメートの名前なんて覚えようとも思わなかった。顔と名前が一致するのは圭介と、あと可愛い女子くらいのものだ。
「あいつは石神拓人。A組で一番の、いや二年で一番の問題児だ。しかもタチの悪いことに総合格闘技大会で何度も優勝するほどの実力者だから、逆らったりしたらタダじゃ済まねえ」
だから怖くて誰も止めようとしないのか。俺の頭の中で、真冬を自殺に追い込んだ沢渡の顔と石神の顔が被る。嘆かわしいが、ああやって他人を平気で傷つけるような奴はどこにでもいるのだろう。
「ま、すぐに先生が止めに来るだろ。貧弱な俺らにはどうすることもできねえし、触らぬ石神に祟りなしだ」
「……圭介。これ頼む」
「は? ちょっ、秋人!?」
圭介に盆を押し付け、俺は真っ直ぐ石神のもとに向かう。悪いが俺はこれを静観できるほどお利口さんではない。
「おい、何してんだお前」
「……あぁ?」
石神が鋭い目つきで俺を睨みつける。なるほど、確かに強者のオーラを感じる。生前の俺だったら何もできなかったかもしれないが、今の俺は違う。
「何って、こいつが俺に食い物を差し出したくてたまらないって顔してたから、ありがたーく貰ってやったんだよ。お前も俺に何か恵んでくれるのか?」
「黙れ。ただパンを奪い取っただけだろ。返せよ」
「嫌だ、と言ったら?」
「……力ずくで奪い返す」
俺がそう言うと、石神は腹を抱えて笑い出した。
「おいおい転入生くんよぉ、喧嘩を売る相手は選んだ方がいいぜ? 俺が誰だか知らねえよーだから教えてやるが、俺は――」
「石神拓人。総合格闘技の大会で何度も優勝するほどの実力者で、二年で一番の問題児なんだろ? さっき圭介から聞いたよ」
「……ほう。問題児とは言ってくれるじゃねーか」
背後で「俺の名前を出すんじゃねー!!」と圭介が小さく叫ぶのが聞こえた。
「今は皆で協力し合う時だろ。お前みたいな奴がいると協調性が乱れるんだよ。大人しくパンを返したら、今回は見逃してやる」
「ハハッ、誰に物を言ってやがる! どうやらテメーみたいな馬鹿には格の違いを思い知らせてやる必要がありそーだなあ!!」
石神が躊躇なく俺に殴りかかってきた。俺がぶっ飛ばされると思ったのか、周りの生徒達が悲鳴を上げる。だが――
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