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【書籍化&】冤罪で死刑にされた男は【略奪】のスキルを得て蘇り復讐を謳歌する【コミカライズ決定】  作者: ダイヤモンド


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変質者?

 時刻は午後十時を回り、就寝の時間となった。緊急事態とはいえ、年頃の男女が同じ場所で寝るわけにはいかないため、男子は体育館、女子は校舎の教室を使う運びとなった。


 しかし当然ながら布団も毛布もないため、冷たくて固い床に雑魚寝するしかない。おまけに狭くて寝返りも打てない。体育館で大勢の男子が横たわっている光景はなかなかシュールである。



「秋人、トランプあっけど神経衰弱でもすっか?」

「あのな……修学旅行じゃないんだぞ。圭介はもっと危機感を持て」

「なら将棋でどうだ?」

「そういう問題じゃ……ってなんで将棋なんだ」

「そりゃあ、俺は将棋部だからな。あーでも部室から駒やら盤やら持ってくんの面倒くせーし、やっぱいいや」



 こいつ将棋部だったのかよ。こんな時に圭介の意外な一面を知ってしまった。



「はあ、せめて女子達と夜を過ごせたらテンション上がるんだけどなー。秋人もそう思うだろ?」

「お前、この状況でよくそんなことが言えるな……」



 圭介には一周回って感心すら覚えてきた。他の生徒達はすっかり元気をなくしてしまっているのに、こいつは普段と変わらないな。



「しゃーねえ、やることないし寝るとすっか。うー、さみさみ」



 ゴロンと床に寝転がる圭介。しかし俺はこのまま寝るわけにはいかない。雪風がいつどこに現れるか分からないからだ。むしろ夜が一番警戒すべき時間帯だろう。


 かと言って一睡もしないのはさすがにキツイので、春香・朝野との話し合いの結果、朝になるまでは数時間ごとに三人で交替して学校を巡回することにした。よって自分の担当時間以外はちゃんと睡眠がとれるわけだ。


 順番は俺→春香→朝野で、俺が最初だ。正直今は眠りたい気分だったが、ジャンケンで決めたことなので文句は言えない。


 そして皆が寝静まった頃。体育館を抜け出した俺は、まず体育館周辺や部室棟の中を見て回ることにした。この寒さの中で出歩くのは正直しんどい。これだけでもかなり体力が削られてしまう。カイロでもあればちょっとはマシだったかもしれないが、この五月下旬の時期にそんな物など持っているはずもない。


 続いて俺は女子達が寝ている校舎の中へと足を踏み入れた。どの教室もカーテンが閉められており、その隙間を覗き込んでみると、床に雑魚寝している女子達の姿があった。体育館よりは一人あたりのスペースが広そうなので少し羨ましい。


 ってなんかこれだと女子寮に侵入した変質者みたいだな。だが俺は正統な理由があって行動しているので、断じて変質者などではない。校舎に雪風が現れる可能性だってあるじゃないか。そう自分に言い聞かせながら廊下を歩いていると――



「ふぁ~。トイレトイレ……」



 ある教室から一人の女子が欠伸をしながら出てきた。やばい隠れなければ、見つかったら絶対面倒なことになる。そう思った矢先――



「ぶっ!?」



 俺は噴き出した。なんとその女子は下半身がスカートもズボンも穿いていない、つまりパンツ一枚の状態だったのである。直後、女子がもう一人教室から出てきた。



「待って、私もトイレ……ってアンタ、何よその格好!」

「え? ああ、だって私いつも寝る時こうだし」

「まったく、自分の家じゃないんだから。てか絶対寒いでしょそれ」

「別にいいじゃない、ここには女子しかいないんだし――」



 俺の存在に気付いた女子二人が硬直する。しまった、パンツに目を奪われて隠れるのを忘れていた。



「きゃああああああああああーーーーーーーーーー!!」

「変質者よ!! 変質者が現れたわ!!」

「違う!! 俺はそんなつもりじゃ――」



 いや、下手に言い訳したら余計こじれそうだし、ここは逃げるが勝ちだ。というわけで俺は全力疾走で校舎から脱出したのであった。今後校舎の中の巡回は春香達に任せよう……。



 その翌朝。圭介が俺に話しかけてきた。



「聞いたか秋人、昨晩女子達が寝てる校舎に不審者が現れたんだとよ。暗くて顔は見えなかったみてーだが、男ってことは間違いなかったそうだ。いやーこんな状況でよくやるよな、さすがの俺もそこまでの勇気はなかったわ。とんだチャレンジャーがいたもんだ」

「そ、そうか……」



 俺は苦笑いを浮かべるしかなかった。




  ☆




 氷の牢獄が出現してから三日が経過した。未だに雪風は姿を現そうとせず、真冬からもこれといった報告はない。スマホのバッテリーも15%を切ったので、今後真冬との連絡は緊急時のみとした。


 この凍えるような寒さ、そして僅かな栄養しか摂取できないせいで、体調不良を訴える生徒が後を絶たない。しかし保健室のベッドにも限りがあり、既にそこは満室である。


 そこで簡易的ではあるが、体育館の端に臨時の保健室が設立された。体育倉庫にあるマット等を布団として代用し、比較的症状の軽い生徒はそこで休んでいる。しかしそれでも数が追いつかず、やむを得ず床に横たわっている生徒も多い。



「お腹空いた……」

「早く家に帰りたい……」



 日に日に生徒達の顔から生気が失われていく。いつまでこの状況が続くのか、いつになったら家族に会えるのか、そんな不安が皆から伝わってくる。こうなっては体力より精神力の方が先に限界を迎えるかもしれない。


 雪風は一体何がしたいんだ。皆の生きる気力がジワジワ削られていく様子を楽しんでやがるのか。だとしたら相当の屑野郎だ。



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