かくれんぼ
「たっだいまー!」
とそこに、朝野が元気の良い声と共に帰ってきた。
「早いな! ちゃんと探したのか!?」
「いやー、そういえば秋人くん達との連絡手段がないってことに気付いて戻ってきたんだにゃ。LINE交換しよ!」
「ああ、そうか。俺もうっかりしてた」
おいそれと仲間以外の参加者に連絡先を教えるのは危険かもしれないが、状況が状況だしやむを得ない。
「秋人さん。もしかしてそのお方も……?」
「……ああ、転生杯の参加者だ。今は俺達に協力してもらってる」
朝野に聞こえないように小声で答えた。一般人である千夏が転生杯に関わりがあることを朝野に知られたら、色々と面倒なことになりそうだしな。
「はあ。どうしてこう、秋人さんの周りには女の子が集まるのでしょうか……」
「何か言ったか?」
「い、いえ! 何でもありません!」
「おやおや? 秋人くん、その可愛い子は?」
朝野は興味深そうに千夏を見た後、したり顔でポンと手を打った。
「あ、分かっちゃった。秋人くんの彼女でしょ? ふーん、秋人くんも見かけに寄らずやるねえ」
「そ、そんな彼女だなんて! 私は別に……」
「俺と千夏はそんなんじゃない。ちょっとした顔馴染みってだけだ」
と、いうことにしておこう。俺と千夏の関係を一から説明している暇はない。
「本当かなー? なんか怪しいにゃー」
「本当だ。なあ千夏?」
「……はい」
どこか落ち込んだ様子の千夏であった。
「つーか今はこんな話をしてる場合じゃないだろ」
「それもそうだね。んじゃ、もう一度行ってくるにゃ!」
LINEの交換を済ませると、朝野は再び部室棟の方へ走っていった。
「よし、俺も行くか。千夏はもし怪しい人物を見つけたらすぐ俺に知らせてくれ。それだけでも十分助かる」
「……はい。秋人さん、絶対に無茶はしないでください」
「ああ」
不安げな表情の千夏を後目に、俺は雪風の捜索を開始した。
☆
氷の牢獄が出現してから、約二時間が経過した。結論から言うと、雪風は見つからなかったどころか、三人とも痣の反応すらなかった。俺達は一旦捜索を打ち切り、再び体育館前に集まった。
「はあ、これ以上探すところはないってくらい探したのに。雪風って人は相当かくれんぼが得意みたいだにゃー」
「これだけ探して見つからないってことは、やっぱり学校の敷地内にはいないんじゃないかしら」
「んー……」
俺は腕を組んで考え込む。俺もそんな気がしてきた。真冬の読みが外れたか? とりあえず真冬に連絡してみよう。
「真冬、そっちはどうだ?」
『学校周辺の監視カメラをくまなくチェックしてるけど、今のところ怪しい人物は見当たらない。秋人の方は?』
「こっちもだ。三人で探しまくったけど気配すらなかった」
『三人? 秋人と春香、もう一人は……』
「はいはいどーも! 朝野比奈でーす!」
俺の携帯越しに朝野が真冬に話しかける。
「真冬ちゃん、でいいのかな? 真冬ちゃんも秋人くんの仲間なんだよね? 今だけアタシも秋人くん達に協力させてもらってるにゃ! どうぞよろしく!」
『……ん。てっきり秋人に負けて脱落したとばかり思ってた』
「にゃっはっはー! 甘いね真冬ちゃん! 少女戦士は悪の怪人なんかには絶対に負けないんだよ!」
「だから誰が怪人だ」
それにしても、朝野のコミュ力半端ないな。俺には顔も見たことのない相手にこんなフランクに話すことなんてとても無理だから、感心させられる。
『秋人達は引き続き、雪風を捜索して。きっと学校のどこかにいる。私は念の為、学校から少し離れたエリアの監視カメラもチェックしてみる』
「……分かった」
俺は通話を切った。どうやら真冬の見解は変わらないようだ。ここは真冬を信じて捜索を続けるとしよう。
結局この日、氷の牢獄に閉じ込められた数百名は学校での宿泊が決定した。ここから脱出する手段がないので、そうするしかない。
しかし大きな問題が二つ。一つ目は食事。当然ながらこの状況下では食べ物を調達する手段がない。一応、食堂で提供するための食材が倉庫に保管されていたらしいのだが、それを少しずつ消費したとしても一週間ほどしか保たないそうだ。つまり一週間以内に雪風を倒すことができなければ、俺達は飢え死にするしかなくなる。
二つ目は寒さ。氷の冷気が直に流れ込んでくるので、まるで冷凍庫の中にいるかのようだ。夜になってからは更に冷え込み、学校中の暖房をガンガンきかせてはいるが、それでも寒さが大きく上回っている。仮転生体は少々特殊なので俺達のような転生杯参加者はまだマシだが、一般人にこの環境は厳しいだろう。これでは飢え死により先に凍え死ぬ者が出てきてもおかしくない。
現在午後七時過ぎ。教師陣の先導で、生徒達はクラス毎に食堂に移動した。普段ならここは食券を購入して食事をする場だが、今そんなことをしたら大混乱になるので、食べ物は完全配給制となった。生徒達は盆を持って並び、順番に食べ物を受け取っていく。
「うげ、これだけかよ……」
圭介が盆を見て苦い顔を浮かべる。配給されたのは二分の一サイズのハンバーグ、小盛りご飯、そしてサラダだけだった。成長期の子供にとってこの量は全然物足りないだろうが、この状況がいつまで続くか分からないし、我慢するしかない。
先日誕生日でした。何才かは秘密です。






