ダウジングマシン
俺は真冬との通話を切り、小さく息をついた。
「ひとまず雪風は学校の敷地内のどこかにいるって考えていいのよね?」
「ああ、真冬もその見解だった」
「でも顔も分からない相手をどうやって探すの? 今のところ男ってことくらいしか分からないにゃ」
「俺の予想だと、雪風はこの学校の生徒として紛れ込んでる。今の俺達みたいにな」
ただ間違いなく偽名を使ってるだろうから、名前で探すのは無意味だろう。雪風という名前の方が偽名の可能性もある。
「でもこれといった手掛かりはないし、特定は難しそうね。生徒を一人一人調べてたらキリがないし」
「手掛かりはなくても、探す方法ならある。これを利用してな」
俺は右腕の袖を捲り、88の痣を二人に見せた。
「二人も知っての通り、この痣は参加者が近くにいると反応する。つまりこの痣が反応した時が、雪風が近くにいるという合図だ」
さすがにもう、これ以上の参加者はいないだろうしな。というか一つの学校に四人もの参加者がいるというのが既に異常事態だ。
「あはは、なんだかダウジングマシンみたいだね。ポ○モンのゲームを思い出すにゃ」
「問題は、生徒達が密集してる場所で痣が反応した場合だ。それだと誰に反応したのか特定が困難だから、そういう場所は避けながら――」
「君達、そこで何をしてるんだ!」
その時、生徒会の腕章を付けた人達がこちらに走ってくるのが見えた。朝野は慌てて変身を解除する。
「放送が聞こえなかったのか? 生徒達は体育館に集まるよう言われただろ!」
「いや、俺達は……」
「いいから早く来なさい!」
俺達は生徒会の連中に背中を押され、強引に体育館まで連れて行かれた。おいおい、体育館なんて今は生徒が大勢集まってるだろうし、最も避けるべき場所じゃないか。これじゃ痣が反応しても誰が雪風か分からない。同じ参加者に痣が二度以上反応することはないから、徒に反応させるのはマズい――
と思ったが、体育館に近づいても俺達の痣は無反応だった。つまり現在、雪風は体育館にはいないことになる。ひとまず俺は安堵した。
体育館に入ると生徒達がクラス毎に並んでいたので、一旦俺達もそれぞれのクラスに合流することにした。周囲を見渡すと、誰もがこの奇想天外の事態に不安げな顔を浮かべていた。
「なんか大変なことになってるけどさ、こういうのちょっとワクワクするよな」
まあ、中にはこんなことを言ってる馬鹿もいるけど。いつここが戦場になってもおかしくない状況なのに、まったくお気楽なものだ。
「おい秋人、聞いてるか?」
振り返ると、それは圭介だった。馬鹿はお前かよ。
それから担任教師が点呼をとり、人数確認が行われた。部活動の時間帯だったということもあり、八割以上の生徒がこの事態に巻き込まれたようだ。
「えー、皆さん。まずは心を落ち着かせて、私の話を聞いてください」
壇上に初老の男が現れた。確かこの学校の校長だ。生徒達は口を閉じ、校長の方に目を向ける。
「見ての通り現在、学校全体が巨大な氷で覆われており、本校の生徒及び教師の大半が閉じ込められているという状況です。一体何がどうなっているのか、正直私にも全く分かりません。しかし今、政府が私達を救出しようと動いてくれています。私達は必ず助かります。今大事なのは心を強く持ち、皆で協力し合うことです」
校長はああ言っているが、政府にどうにかできるとは思えない。たとえ大砲を撃ち込んだとしても氷の監獄を破壊することはできないだろう。雪風を殺さない限りこの状況は永遠に続くことになる。
校長の話が終わると、今度は教頭らしき人物が壇上に立った。
「私から一つ連絡事項があります。複数の生徒から、このような事態が起きる直前に校舎の上空を謎の物体が飛行していたとの目撃情報が寄せられました。UFOだとか宇宙人だとか魔法少女だとか証言はバラバラですが、もしかするとこの事態と何か関係があるのかもしれません。他にも何か知っている人がいましたら、私のところまでお願いします」
あ、それ朝野のことだ。こんな状況だし勘違いされてもしょうがない。今頃朝野は冷や汗をかいてそうだ。
そして次の指示が出るまで生徒達は体育館での待機を命じられた。俺、春香、朝野はこっそり体育館から出て再び集合する。
「俺達の痣が反応しなかったということは、体育館の中に雪風はいないようだな」
「そうね。つまり体育館にいなかった生徒が怪しいってことになるのかしら。まずはその生徒達から調べてみる?」
「いや。仮にその中から雪風と思われる生徒を特定できたとしても、居場所が分からなければどうしようもない。少なくとも今の体育館にいる生徒達はシロだろうけど、その全員を把握するのなんて無理だしな……」
「それより教頭先生の話だと、なんか私が疑われてなかった!? どうしよ!?」
朝野が慌てた様子で言った。朝野には悪いけど今そこは重要じゃない。
「あんなに目立ってたんだから自業自得だ。だから注意したのに」
「ううー、だってこんなことになるなんて思ってなかったし。これじゃ迂闊に変身できないよ……」
今までの傾向から考えて、支配人が転生杯の痕跡を抹消するのは事態が収束したタイミングだろう。よって雪風を倒すまで一般人の記憶は改竄されないことになる。
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