果たし状
「あ、あの、秋人さん」
「ん? どうした千夏」
「昼休みが終わるまで、秋人さんと一緒に居てもいいですか? 秋人さんとお話したいなと思って。あっ、もし迷惑なら――」
「ああ、いいぞ。春香と違って暇だしな」
俺がそう答えると、千夏は心から嬉しそうな表情を浮かべた。
「ありがとうございます! 秋人さんの好きなものとか、生前の秋人さんはどんな人だったかとか、色々聞きたいです!」
「俺の生前の話ねえ。そんな面白いもんでもないと思うけど」
俺は千夏とのんびり昼休みを過ごした。屋上で女子と二人っきりでお喋りとか、まるでラブコメのような青春だ。
「みんなー!! 今日もはるにゃん達のライブに来てくれてありがとー!!」
「「「「「うおおおおおおおおおおーーーーー!!」」」」」
放課後。講堂で春香達アイドル部のライブが始まり、野郎共が野太い歓声を上げる。最初の屋外ライブの時より更に人が増えてるな。何故そんなことが分かるかって? そりゃまあ、俺もこの講堂に来ているからだ。しかも観客の最前列に。
言っておくがライブ目的で来ているわけじゃない。これだけ春香が目立ってると、どさくさに紛れて転生杯の参加者に狙われる可能性はゼロじゃないし、いざという時に俺が守ってやる為だ。生前のアイドルオタクの血が騒いだとか、断じてそんなんじゃない。
ライブはクライマックスに突入。観客がより一層盛り上がる中、俺は――
「いいぞ春香!! いやはるにゃん!! うおおおおおおおおおおーーーーーごほっげほっ!!」
違う、今のは春香に声援を送ったわけではない。ちょっと豪快な咳が出ただけだ。
「みんな応援ありがとー!! 次のライブも絶対来てねー!!」
「うおおおおおおおおおおーーーーーげほっがはっ!!」
おかしいな、今日は喉の調子があまり良くないようだ……。
ライブが終わり、俺は満ち足りた気分で講堂を出た。いやあ、今日のライブも最高――じゃない、何事もなくてよかった。次のライブもちゃんと見張らなくては。何かあってからじゃ遅いからな。
「…………」
玄関に着いた時、ふと俺は足を止める。そして冷静に、今の自分を見つめ直してみた。
なんか俺……高校生活に馴染んできてないか?
体力測定を頑張ったり、昼休み女子と過ごしたり、放課後ライブを観に行ったり……。やってることがそこらの高校生と変わらないぞ。
そもそも俺が高校生を続けているのは、この高校に潜んでいる転生杯の参加者を見つけ出す為だったはず。その目的そっちのけで普通に高校生活を満喫してどうする。これじゃ俺も春香のことを責められないではないか。明日からはちゃんとやろう。そう決意しながら靴箱を開けると――
「!?」
俺はその場で硬直した。なんと俺の靴箱の中に、ピンク色の封筒が入っていたからだ。
まさか……これって……ラブレター!?
おいおいマジか!? ラブレターなんて初めて貰ったぞ!! 嬉しいっちゃ嬉しいけど気を引き締めた矢先にこれかよ!! どんだけ俺に青春ロードを歩ませたいんだよ!!
しかし差出人は誰だ? 最初に千夏の顔が過ぎったが、一緒に住んでるのにわざわざこんな回りくどいことをする必要はないだろう。春香は……もっとないな。
となると他の女子か。でも転入したばかりでこんなことある? まだクラスで仲良くなったと言えるほどの女子はいないし、心当たりも特にない。もしや一目惚れってやつ? でも俺って一目惚れされるほどスペック高くないよな? 自分で言うのは悲しいけども。
まあ誰であろうと、これ以上高校生ライフに現を抜かすわけにはいかないので、丁重にお断りしよう。たとえどんな美少女であってもだ。また千夏のように、思いがけず転生杯に関わってしまう一般人を出さないようにする為にも。
だが中身も読まずに処分するのは、勇気を出してラブレターを書いてくれたその子に申し訳ない。俺は周囲に誰もいないことを確認した後、心臓を高鳴らせながら封を切る。中には一枚の手紙が入っており、その一番上にデカデカと書かれた四文字が俺の目に飛び込んできた。
『果たし状』
「……は?」
しばらく俺は呆然と立ち尽くす。えっと……何これ? 果、た、し、状?
「ふざけんなよおおおおおおおおおおーーーーーーーーーー!!」
俺は血の涙を流しながら全力で叫んだ。ラブレターじゃないのかよ!! さっきのモノローグ完全に無駄じゃねーか!! てかなんで封筒がピンク色なんだよ紛らわしい!! 絶対狙ってやっただろ!! 何が丁重にお断りしようだよ、自意識過剰か!!
まあ、冷静に考えたら今時ラブレターを書く女子高生なんて絶滅危惧種だよな。以前真冬と沢渡達を引き合わせる為にラブレター大作戦を提案したのを思い出した。まさか俺自身が騙されることになるとは、実に情けない話だ。
しかし一体誰が何の目的で、こんな物を俺に送りつけてきたのか。考えられる可能性は三つ。①ただの悪戯。②春香と俺の仲を疎ましく思う、はるにゃんファンの私怨。そして③は――
『やっほーこんにちは! 用件は言わなくても分かるよね? 今日の放課後、屋上で待ってるよん! 27より』
手紙の続きはこのように書かれていた。やはり……!!
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