女子のタイプ
「おいーっす秋人」
そこにスポーツ刈りの男子生徒が軽く挨拶をしてきた。こいつは島崎圭介。前の席というだけあって、しょっちゅう俺に話しかけてくる。
「ああ、おはよう」
「相変わらずシケた面してんなー。今日は体力測定があるんだから、もっと気合入れていこーぜ!」
「……体力測定?」
「おいおい、まさか忘れてたのか? 女子にカッコイイところを見せるチャンスだってのに。俺なんて今日の為にここ最近ずっと腕立てしてたんだぜ!」
今日はそんなものがあるのか。授業もホームルームもロクに聞いてなかったから全然知らなかった。高校にいる限り、今後もそういう面倒事が続くと思うと憂鬱だ。
その時、スマホにLINEの新着メッセージが表示された。真冬からだ。
『OTT□□SSENTETT□□SSENT……□に入る共通の文字は? 制限時間三十秒』
思わず俺は苦笑い。真冬は時折俺にこのようなクイズを送ってくる。何か意味があるわけでもなく、ただの退屈しのぎらしい。俺も暇潰しになるからいいんだけど。
しかし今回もムズいな……全然分からん。頭を悩ませること三十秒、真冬から解答が送られてきた。
『答はF。英語数字の頭文字を表してる』
One、Two、Three……。なるほどそういうことか。真冬のナゾナゾは今までまともに解けた試しがない。次こそはリベンジを果たそう。
「んん? 誰とLINEしてんだ?」
「……別に誰だっていいだろ」
雅也がスマホを覗き込んできたので、俺は反射的にLINEを閉じて待ち受け画面に戻した。
「おおっ!? なんだその美少女二人組は!?」
あ、しまった。待ち受け画面を春香と真冬の画像にしていたこと、すっかり忘れてた。かえって面倒くさいことに……。
「てか左の子って今すげー噂になってるB組の転入生だよな!? そういやこの子とお前が一緒にいるところを見かけたって話をよく耳にするんだが、この子とは一体どういう関係だ!?」
知らない間にそんな噂が広がってたのか。まさか同じ屋根の下で暮らしていて、おまけに風呂も一緒に入るような関係だとは夢にも思わないだろう。ちなみに左に映ってるのが春香で、右が真冬だ。
「同じ時期に転入してきたってのもなんか怪しいしよ! さあ正直に答えろ! 付き合ってんのか!? どうなんだ!?」
「違う、ただの女友達だ。実は小学校からの幼馴染みでな。転入も偶然重なっただけだ」
と、いうことにしておこう。
「幼馴染みぃ? 本当にそれだけか?」
「本当だ。だいたい彼女だったら他の女の子と一緒に写ってる画像を待ち受けなんかにしないだろ」
「ま、そう言われるとそうだな。もしお前の彼女だったら嫉妬のあまりお前を絞首刑にしてたところだったぜ」
あっさり信じたな。見た目通り単純な奴で助かった。さすがに二度目の絞首刑は勘弁願いたいものだ。
「確か名前は青葉さん、だったよな? はあ、A組の転入生が青葉さんだったらよかったのに」
「……俺で悪かったな」
「やっぱ可愛いよなー。クラスで人気投票やったらぶっちぎりで一位だろうな」
「さっきから聞いてれば……右の子だって可愛いだろ」
と、思わず俺はそんなことを口にした。
「いや勿論二人とも可愛いぜ? ただ右の子はなんつーか、ちょっと物足りない感じがするんだよなー。こう、もう一押し欲しいっつーかさ」
「…………」
「どうした秋人、あからさまに不機嫌そうな顔して……あっ! もしかしてお前、こっちの子がタイプなのか!? だったらすまねえ!」
「別にそういうんじゃ……」
生前の学生時代もそうだった。俺はクラスで一番人気の子にはあまり惹かれず、俺が一番だと思っている子は皆から見たら三番とか四番で、それがどうにも腑に落ちなかった。だから真冬がその程度の評価なのも納得しかねる。
「実はこの子を狙ってるんだろ? そうなんだろ!?」
「そういうんじゃ……」
「やっぱりなー! ま、せいぜい頑張れ! 応援してっからよ!」
俺の肩をバシバシ叩く圭介。全然人の話聞かないなこいつ。
「ところで秋人。今日の夜は空いてるか?」
「断る」
「せめて最後まで聞けや! 最近この学校でちょっとした心霊現象が噂になってんのは知ってるよな?」
「心霊現象?」
「はあ、お前って何にも知らないな。その名もグラウンドの幽霊。ある生徒が夜中に学校の近くをジョギングしてたら、グラウンドに人の形をした二つの影が見えたそうだ。何だろうと思ってその生徒が目を凝らした次の瞬間……突然その影が姿を消したんだよ!」
「ふーん……」
「反応薄いな! もっと怖がれや!」
ざっくりしすぎてどこをどう怖がればいいんだよ。誰が噂を広めたのか知らないが、もっと設定を練り込めよと言いたい。
「そんで今日の夜、クラスの何人かで集まって噂の真相を突き止めようぜって話になったわけよ。秋人も一緒にどうだ?」
「さっきも言っただろ。断る」
「ちぇっ、ノリ悪いな。実はビビッてんのか?」
「ああ、すげービビッてる。後で感想でも聞かせてくれ」
軽くあしらうように俺は言った。こちとら幽霊なんぞに構ってる余裕はない。というか俺だって一度死んでるから、ある意味幽霊みたいなもんだしな。これ以上の心霊現象はないだろう。
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