同居の提案
「千夏には一つ、俺から提案があるんだ」
「提案、ですか?」
首を傾げる千夏。数秒の沈黙の後、俺は口を開いた。
「千夏、俺と一緒に暮らさないか?」
「……はい!?」
これまで見てきた中で一番驚いた顔で、千夏は声を上げた。
「く、暮らす!? 私が、秋人さんとですか!?」
「ああ」
「ままま待ってください!! それって、つ、つまり同棲ってことですよね!? そういうのはもっと段階を踏んでからの方が……!! ももも勿論嬉しいですけど、まだ心の準備ができてないというか……!!」
「あれ、まだ言ってなかったっけ? 俺は今、このアジトに真冬と春香の三人で暮らしてるんだ」
「……へ?」
「だから正確には俺達と一緒に、だな」
「……なるほど。そうだったんですね」
なんか急にテンション下がったな。俺の言い方が紛らわしかったか。
「確か千夏の家は両親が滅多に帰ってこなくて、実質一人暮らしのようなものって言ってたよな?」
「は、はい」
「それなら都合が良いな。勿論、千夏が良ければの話だけど」
「……どうして、そんな提案を?」
千夏が不思議そうに尋ねる。当然これにはちゃんとした理由がある。
「また昨日みたいに、俺を嵌めようと千夏を人質に捕るような輩が現れるかもしれない。だから一人でいるより俺達といる方が、千夏にとって安全だと考えたんだ」
「でもそんなの、秋人さん達に迷惑をかけるだけでは……?」
「いや全然。むしろ近くにいてくれた方が断然安心できる。まあ俺も住まわせてもらってる立場だから真冬達の許可が必要だけど、きっとあの二人も快く受け入れてくれると思う。部屋はいくらでも余ってるしな」
「私が……秋人さん達と……」
「ああ。どうだ?」
俺が千夏の言葉を待っていると、千夏の目から涙が溢れ出した。
「え!? ど、どうした!?」
「すみません、なんかこう、色々なものが込み上げてきて……!! 昨日秋人さんにフラれた時は、もうどうしようもなくツラかったんですけど、それが今は一緒に暮らそうなんて言ってもらえて……!! 人生って何が起きるか分からないものですね……」
泣きながらも千夏は笑顔を見せてくれた。
「……でもまあ、すぐに決められるようなことじゃないだろうし、まずはよく考えてみて――」
「いえ、大丈夫です!」
千夏は涙を拭うと、ベッドから起き上がり、俺に深く頭を下げた。
「不束者ですが、よろしくお願いします」
「……ああ。こちらこそよろしくな」
斯くして千夏が俺達の仲間に加わったのであった。
だが、後に千夏の存在が転生杯に多大な影響を与えることになろうとは、この時の俺は知る由もなかった。
☆
同日の昼過ぎ。この頃には千夏の体調もだいぶ良くなり、千夏がこのアジトで生活する為の準備も完了した。ちなみに千夏が住むことに関しては真冬も春香も大いに賛成してくれた。これで今日からは女子三人との共同生活……。これがハーレムってやつか。
「さて、そろそろ晩ご飯の準備を始めよっかな」
「あ、待ってください春香さん! 晩ご飯は私に作らせてください!」
「あら、千夏ちゃんも料理できるの?」
「はい! 一人での生活が長かったので、料理は毎日やってました!」
俺も生前は一人暮らしだったけど料理なんてほとんどやらなかったな。冷凍食品とコンビニ弁当が俺の相棒だった。だから千夏のような子は素直に尊敬する。
「気持ちは嬉しいけど、怪我の方は大丈夫なの?」
「もうほとんど痛みもありませんし、これくらい平気です。それに今日からここでお世話になるわけですから、私にできる範囲で皆さんの力になりたいんです!」
「んじゃ、お言葉に甘えようかしら」
「任せてください。キッチンお借りします!」
そして夕食の時間になり、テーブルに千夏の手料理が運ばれてきた。俺がリクエストしたシチューだ。
「おお、美味い……!」
「うん、美味しい! やるわね千夏ちゃん!」
「ど、どうもです」
春香の料理を〝ガツンとくる美味さ〟と表現するなら、千夏の料理は〝ジンワリとくる美味さ〟といった感じだ。料理にも性格って出るもんだな。
「…………」
一方の真冬はというと、なにやら難しげな顔でシチューを口にしていた。
「東雲さん、もしかしてお口に合いませんでした?」
「……ううん、美味しい。美味しいからこそ、なんか悔しい」
「悔しい……?」
「……何でもない。正直、大宮さんの料理には胃袋を掴まれた。私が男だったら嫁にしたいくらい」
「お、大袈裟ですよ東雲さん……」
真冬と千夏のやりとりを見て、怪訝な顔を浮かべる春香。
「ねえ二人とも、苗字で呼び合うのってなんか堅くない? 同じクラスだった頃の癖ってのもあるだろうけど、今日から一緒に暮らすわけだし、もっと距離を縮めてもいいと思うけど」
「そ、そうですね。それじゃ……。真冬、さん」
「……千夏」
照れ臭そうに俯く二人であった。
「千夏ちゃんに提案なんだけど、これからご飯はアタシと千夏ちゃんの当番制にするのはどうかしら?」
「はい、私でよければ全然大丈夫です!」
「よかった。料理は好きだけど毎日やるのは結構大変だったから、すごく助かるわ。他の二人は料理に関してはポンコツだし」
何も言い返せない俺と真冬であった。
ストーリーの構想はだいぶ先まで練ってあるのですが、そこまで気力が続くか不安なので応援よろしくお願いします。






