真冬のお礼
「あまりジロジロ見ないで。恥ずかしい」
「あっ……すまん。朝ご飯、ここに置いとくからな」
女の子にとって男が部屋にいるのはあまり気分の良いものではないだろうし、早く出るとするか。
「何か困ったことがあったら、遠慮せず携帯で呼んでくれ。それじゃ――」
「待って」
真冬が俺を呼び止める。そして本を閉じ、左手でベッドをポンポンと叩いた。
「えっと……座れってことか?」
「ん」
真冬がそう言うならと思い、俺は昨日と同じ位置に腰を下ろした。
「春香は学校?」
「ああ。今日も放課後にライブがあるんだとさ」
「秋人は行かないの?」
「もう行く意味もないだろ。一応さっき担任の先生には連絡入れといたけど。転入した翌日に休むか普通って思われただろうな」
まあ真冬が心配だからというのが一番の理由だけど、と俺は心の中で付け加えた。
「体調はどうだ?」
「だいぶ良くなった。今日中には普通に過ごせるようになってると思う」
「それはなによりだ」
しばらく立ち直れなかったらどうしようかと心配していたが、杞憂で済みそうだ。
「それで、その……」
何故かモジモジし始める真冬。トイレ……ではなさそうだ。
「どうした?」
「……昨日のお礼を、ちゃんとしたくて。秋人には色々と迷惑もかけちゃったし」
「礼なんていい。俺は俺のやりたいようにやっただけだ」
「駄目。それじゃ私の気が収まらない。秋人が私にしてほしいことを言って」
「そう言われても、特には……」
「なら今考えて。私にできることなら何でもする」
至近距離まで俺に顔を近づける真冬。まさかここまで食い下がるとは。だけどなんだか気が進まないし……。そうだ、こうしよう。
「何でもするって言ったよな? だったら今日風呂に入る時、俺の身体を隅々まで洗ってくれ。勿論裸でな」
「なっ……!?」
分かり易く顔を真っ赤にする真冬。どうだ、これは予想外だろう。敢えて無理難題を提示して礼をさせない作戦だ。そりゃ本当にそういうことをしてくれたら最高だけど、真冬には絶対に無理だろう。春香なら平気でやりそうだけど。
「ほ……他には……?」
「ないな。真冬にしてほしいことと言ったらこれしか思い浮かばない」
「……っ」
「ま、そういうことだ。俺に礼をしようなんて考えなくていい。朝ご飯、ちゃんと食べとけよ」
そう言い残し、俺は真冬の部屋を出た。
夕方。俺が心地よく湯船に浸かっていると、後ろで浴室のドアが開く音がした。また春香が勝手に入ってきたようだ。ついさっき帰宅したのだろう。
「おかえり春香。今日のライブはどうだった?」
「…………」
「春香? なんで黙ってブーッ!?」
振り返った瞬間、俺は盛大に噴き出した。なんとそこにいたのは春香ではなく、真冬だった。しかも生まれたままの姿で。
「ままま、真冬!? 何やってんだ!?」
「だ……だって……秋人が裸で身体を洗ってほしいと言ったから……!!」
身体を震わせ、今にも泣き出しそうな顔の真冬。恥ずかしくて死にそうというのが痛いほど伝わってくる。
「あんなの冗談だ冗談!! いや確かに俺の願望ではあったけども!!」
「だったらやる……これが秋人のしてほしいことなら……!!」
まさか本当に実行するとは思わなかった。どうやら俺は真冬の意志を甘く見ていたようだ。女の子にとって自分から男に裸を見せるという行為は、とてつもなく勇気がいるだろうに。
「せ、せめてタオルとかで隠したらどうだ?」
「ううん……秋人には前に一度裸を見られてるし……平気……!!」
いやどう見ても平気じゃないだろ。真冬の気持ちを考えると、できるだけ見ないようにしてあげたいが……駄目だ。真冬ほどの美少女の裸、目を逸らすことなどできるはずもない。
「それじゃ洗うから……湯船から出て……!!」
「ほ、本当にやるのか? そこまで無理しなくても――」
「いいから!!」
「はい!!」
俺は湯船から飛び出し、鏡の前に腰を下ろす。そして真冬がその背後に立ち、ぎこちない手つきで俺の背中を洗い始めた。この位置だと直接真冬の身体は見えないが、時折鏡に真冬の胸やアソコがチラチラ映り、その度に俺の興奮度が著しく上昇する。
「ち、力加減はどう? ちょうどいい?」
「……ああ、うん」
正直それどころではない。最後まで保ってくれよ俺の理性……!!
「後ろは終わったから、今度はこっちを向いて」
「は!? いやもう十分だ!! あとは自分で洗う!!」
「だって、隅々まで洗ってほしいって秋人が……」
「そりゃ確かに言ったけど!」
俺が真冬の方を向けば、真冬は至近距離で俺に裸を見せることになる。しかもそれだけじゃない、俺の大砲が真冬の眼前に晒されることにもなる。果たして真冬がその衝撃に耐えられるかどうか。
「い、いいのか? 俺のアレ、今物凄いことになってるぞ」
「……っ!! だ、大丈夫。それくらいで狼狽える私じゃない……!!」
「分かった。それじゃ……」
俺は意を決し、真冬の正面に身体を向けた。
「~~~~!!」
その瞬間、真冬の頭からボンッという爆発音が響き、真冬は床に倒れた。
「真冬!? しっかりしろ真冬ー!!」
直後、ちょうど帰宅した春香によって、真冬は無事に介抱されたのであった。
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