復讐作戦
「効率重視でいくなら、一人ずつより三人まとめて相手にする方がいいよな」
「となると三人が一カ所に集まる場所……やっぱり高校が狙い目でしょうね」
「でも部外者が高校に侵入するのは難しいし、放課後の校門前でそいつらを待ち伏せするしかないな」
「それだとどうしても人目に付いちゃうから動きづらいんじゃない? それに屋外で同じ場所に留まってると転生杯の参加者に狙われる可能性もあるわ」
「だよな……。なら予め人目の付かない場所を決めて、それぞれの家のポストに手紙を入れてそこに呼び出すとか?」
「怪しすぎるでしょそれ。絶対引っ掛からないわよ」
「そうか? いかにも知能が低そうな奴等だし、ラブレター風にでもすればあっさり引っ掛かりそうだけどな。名付けてラブレター大作戦だ」
「発想が完全におっさんね……。今時ラブレターなんて滅多に書く人いないから、いくら馬鹿でも騙されないわよ。そもそも三人の家の住所も分からないのに」
「それくらい真冬の諜報力をもってすればすぐに――あっ」
そこで俺は、先程から真冬を置いてけぼりにしていることに気付いた。
「す、すまん。真冬の意見も聞かず勝手に話を進めてた。これは真冬の復讐だから、真冬の意志が一番大事なのに」
「ううん、大丈夫。それよりも二人が私の為に一生懸命考えてくれてることが嬉しい」
そう言って真冬は小さく微笑んだ。なんだか真冬の笑顔を見ると安心する。
「ちなみに俺のラブレター大作戦はどう思った?」
「それは論外だと思った」
「論外……」
その二文字が俺の心臓に深く突き刺さる。わりと真面目に考えたのに。
「仮にその作戦でいくとしたら秋人にラブレターを書いてもらうことになるけど、それでもいいの?」
「うっ。それは……」
言われてみれば、男の俺が自ずとそういう役目になるよな。たとえ偽りであっても真冬を酷い目に遭わせた奴等にラブレターを出すなんて虫唾が走る。この作戦はナシだ。
「やっぱり沢渡達を誘い出すには、直接対面するのが確実じゃない?」
「それはそうだろうけど、問題はその方法だ。誰にも怪しまれず高校に潜入する方法でもあれば話は別だけど……」
「そう言うと思って、これを用意しておいた」
真冬がクローゼットから紙袋を取り出し、俺の前に置く。中を覗き込むと、紺色の服が入っていた。
「まさかこれ、高校の制服か!?」
「ん。陸奥高校の男子の制服。これを着て潜入すれば怪しまれることもない」
「いや、まあ……」
幸い今の俺は16歳なので高校生に偽装する分には問題ないが、真冬も大胆なことを考えつくものだ。制服なんて一体どこから調達したんだか。
「だけど制服を着たところで部外者だとバレる可能性はゼロじゃないし、ちょっと不安だな……」
「大丈夫。既に陸奥高校への転入手続きは済ませてある」
「は!?」
「生徒になってしまえば部外者じゃなくなる。というわけで秋人には明後日、陸奥高校に転入してもらう」
「しかも明後日!? 急すぎるだろ! つーか俺の許可もなしにそんなこと――」
「私に協力すると言った以上、それくらいのことはしてくれると思ってたけど……違う?」
「……違わないです」
確かに協力するとは言ったが、高校に転入させられるなんて一体誰が予想できようか。心の準備とか全然できてないぞ。
「あくまで目的は私の復讐だから、それが済んだらちゃんと私が責任をもって退学の手続きもする」
「まあ、そういうことなら……」
数日間だけなら高校生ライフも悪くないだろう。しかしいくらなんでも用意周到すぎるだろ。高校の転入手続きとかそう簡単にできるもんなの?
「はいはい! アタシも生徒になりたい!」
空気も読まず元気よく手を挙げる春香。
「おい春香、遊びに行くんじゃないんだぞ」
「分かってるわよ。だけどいざって時に仲間が近くにいた方が秋人も心強いでしょ? それに一度、高校生というものを体験してみたかったし!」
「それが本音だろ」
春香は高校生になる前に死んでるから気持ちは分からなくもないが、これは真冬の復讐だ。春香の願望を聞き入れてる場合では――
「そう言うと思って、女子の制服も用意しておいた。無論、春香の転入手続きも済ませてある」
「やったー! 流石は真冬!」
まじかよ。真冬はここまでの会話の流れを全て想定していたというのか。なんかもう真冬が怖ろしいんだけど。
「まさかとは思うが、真冬も転入する気なんじゃ……!?」
「それはない。二年前に死んだ私が同じ高校に転入してきたら大騒ぎになる」
「……確かに」
よく考えたら一度に三人の転入生というのもかなり不自然だよな。二人でもギリギリな気がする。
「それにもう……高校生には戻りたくない」
重苦しい表情で真冬は呟いた。そうだよな、あれだけ悲惨な目に遭ったのだから、そう思うのは当然だ。野暮なことを聞いてしまった。
「作戦としては、まず生徒として潜入した俺が沢渡達をどこか人目の付かない場所に誘い出す。同時にそこに真冬を呼んで、沢渡達と対峙させる……ってところか」
「勿論アタシも協力するわよ!」
春香が得意顔で胸を張る。なんか高校生活に夢中になるあまり作戦よりそっちを優先しそうで不安だ。ま、俺がしっかりしていれば大丈夫だろう。
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