変身と変装
「クズ外道の俺は、洗脳スキルで美少女を脱がすことにした。」のコミカライズ版が、ガンマぷらすにて連載開始しました!
コミカライズは2作目となります。よろしくお願いします!
☆
遡ること数分前――
『秋人、分かった! 変身女のスキルの発動条件!』
「……何っ、本当か!?」
俺が真冬に朱雀のスキルの攻略を託してからまだ一分も経っていないというのに。頼りになりすぎるだろ。
『私達の最初の推測は間違ってなかった。やっぱり変身女は転生杯の脱落者にしか変身できない』
「え? いやいやそれはないだろ。だってあいつ、俺や春香にも変身してたぞ?」
『そう、私達は〝変身〟という言葉に囚われるあまり単純なことにも気付かなかった。そもそもスキル名すら偽りなのかもしれない』
「……!?」
真冬の言葉の真意が分からず、頭上にクエスチョンマークが浮かぶ。
『変身女……朱雀真鈴という人物について調べたら、生前はそれなりに有名なコスプレイヤーだったことが分かった』
「こ、コスプレイヤー?」
『ん。アニメや漫画のキャラクターのコスプレは勿論のこと、実在する人間の変装もお手の物で、そのクオリティの高さから、かなり注目を集めてたみたい』
「……そうか。でもその情報が一体何の――」
その時、一つの仮説が俺の脳裏をよぎった。
「まさか……!!」
『そう、そのまさか。変身女は秋人と春香に姿を変えた時にはスキルを使っていない。つまり単なる変装。その証拠に公園には男物の服が捨てられていた。あれはおそらく秋人に変装する際に使用したもの』
そういうことだったのか。思えば朱雀は俺と春香の姿の時は一切言葉を発していなかった。ただの変装では声まで変えることはできないので、声の違いでスキルを使っていないことがバレるからだろう。わざわざ俺の姿でスカートめくりをやったのは、誰にでも変身できると思い込ませるため……!!
そして朱雀が腰に付けていた大きめのポーチ。何が入っているのかずっと気になっていたが、きっと中身は変装用の道具だ。昼山が登場した直後、一時的に姿を消したのは、春香に変装する時間が必要だったからと考えれば辻褄が合う。暗がりでよく見えなかったが、春香の姿の時に着ていた服は朱雀本人のものと同じだった気がする。さすがに変装用の服まで持ち運ぶのは難しかったのだろう。
これで全て繋がった。俺と春香を除けば、これまで朱雀が変身したのは全て転生杯の脱落者だけだ。朱雀は〝変身〟と〝変装〟を巧みに使い分けることで俺達に誰にでも変身できると思い込ませ、必要以上に警戒するよう仕向けていたわけだ。
「でも変身可能なのが転生杯の脱落者のみだとしても、なんで今回は鮫島と愛城にしか変身しないんだ? この間は雪風に変身したりしてたのに」
『発動条件はもう一つある。鍵となるのは場所』
「場所……?」
『ん。この間変身女が変身した人物と、闘った場所を思い出してみて』
「んっと、変身したのは雪風・雪風弟・佐竹の三人。闘った場所は陸奥高校――」
そうか。この三人は全員、陸奥高校で命を落としている。そして今日朱雀が現れた場所は、俺と鮫島が闘った路上、俺と愛城が闘った公園、どちらにも近い。これは偶然ではないだろう。
『変身女のスキルには〝有効範囲〟があって、その範囲内で死んだ脱落者にのみ変身できる。これは間違いないと思う』
「なるほど、だから鍵が場所なのか」
要するに朱雀が変身できるのは、自分の現在地付近で死んだ脱落者に限られる、ということか。
『つまり変身女をスキルの有効範囲外まで誘導できれば誰にも変身できなくなり、完全に無力化できる』
「んー、誘導と言われてもそう簡単にはな……」
『…………』
「真冬?」
『……素晴らしい作戦を思いついた」
数秒の沈黙の後、真冬が言った。なんだか嫌な予感がする。
『変身女は秋人がまだ瀕死の状態だと思ってるはずだから、秋人はそのフリをしながら命乞いをして。土下座をすると尚良し』
「命乞い!? そんなの聞き入れるとは……」
『ん。まず間違いなく殺そうとしてくる。だから秋人は必死に逃げて。変身女は追いかけてくるだろうから、そのまま有効範囲外になるまで逃げ続けて』
「そして変身女がスキルを使えなくなったところを俺が仕留める、って寸法か……」
「問題は、途中で作戦に気付かれてしまうこと。その場合は普通に闘って勝つしかなくなる。だからこの作戦は秋人の演技力に懸かっている」
朱雀が変身可能なのが鮫島と愛城だけだとしても【怪力】と【潜伏】を使われるのは厄介なので、百%俺が勝つにはスキルを無力化するのが一番だ。それは分かる。引っ掛かるのは作戦の前半部分だ。
『……それ、どうしてもやらなきゃ駄目か?』
「ん。これが最も確実に勝てる方法だと思う」
『いや、でもなあ。俺にもプライドというものが……』
敵に命乞いをしたり必死に逃げたりなど、正直あまりやりたくない。
「秋人にプライドなんてあったの?」
『失敬な! 少しはあるわ!』
悩みに悩んだ末、俺は小さく嘆息した。プライドと勝利、どちらを優先するかと言われたら、答えは決まっている。
『分かった、やるよ。確かにその方法が最も確実だ』
「よろしい」
斯くして俺は真冬の作戦を実行に移すことにした。
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