堂々たる逃亡
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「何っ!?」
赤来が驚愕の声を上げる。弾丸が昼山の頬を掠めたからだ。
(馬鹿な、この俺様がハズした……!?)
一瞬、赤来に動揺が走る。その一瞬を昼山は見逃さず、足下に落ちていた大きめの石を拾い、赤来を目がけて勢いよく投擲した。赤来は圧縮空気で守られているため、無駄な行動に思われたが――
「がっ……!!」
石が赤来の右目に直撃。赤来は大きくよろめき、右目を手で押さえる。
「馬鹿な……なんで……!?」
「ずっと疑問だった。お前の周囲が圧縮空気で覆われているのなら、何故俺の攻撃のみが弾かれてお前からは問題なく攻撃できるのか、とな。おそらくお前は攻撃の際に圧縮空気を流動させて空洞を作り、そこから弾丸を放っていた。違うか?」
「……!!」
昼山の読みは的中していたらしく、赤来は言い淀む。
「その空洞は俺には視認できないが、お前の弾丸の射線から位置の目星はつく。しかし俺の攻撃に合わせて空洞を塞がれてしまったら結果は同じ。そこでお前が動揺して対処が遅れるであろう瞬間――渾身の弾丸をかわされた瞬間を狙ったというわけだ。俺も投擲の腕には多少の自信があってな」
たとえ空洞の位置が分かっていたとしても石をハズしたら意味がないため、そこは昼山の腕次第だったと言える。
「待て待て待て、そもそもどうやって俺様の弾丸をかわした……!? 有り得ねえだろそんなの……!!」
「お前が何度も弾丸を放ってくれたおかげで、お前の動きのクセは大体把握できた。そこから弾丸の射線とタイミングを見極めれば、回避することはそれほど難しくない」
「いやいやそんなん簡単にできることじゃねえだろ……!! これだから天才は嫌になるぜ……!!」
「先程も言ったが、過大評価だ。きっと俺のリーダーなら初撃で避けてみせるだろう。俺もまだまだ未熟だ」
赤来の右目は出血により、ほぼ何も見えない状態となった。いくら赤来でも、片目を潰されては弾丸の精度は相当落ちることになる。
「……はあ」
赤来は嘆息すると、昼山に背を向けた。それから自身の身体を空気で包み、宙に浮かび上がらせる。それを見て昼山は瞠目した。
「何のつもりだ……!?」
「ああん? 見りゃ分かんだろ、逃げるんだよ。このまま続けたら負けちまいそうだしさあ。つーか考えてみたら律儀にお前との真剣勝負に付き合ってやる義理もねーしな」
「よくも堂々とそんなことが言えたものだ。お前にプライドはないのか?」
「ハッ、プライドぉ? 転生杯で勝ち残る為ならそんなもんくれてやるよ。そんじゃさようなら、天才クン」
赤来はどこかへ飛び去っていった。ワシを失った今、昼山に空を移動する敵を追いかける手段はない。
小さく息をつく昼山。赤来はああ言っていたが、あのまま闘いを続けていたらどうなっていたか分からない。そう思わせるほど、赤来は強敵であった。
(さて、もう一方の闘いはどうなったか……)
昼山は全身の激痛を堪えながら、秋人と遭遇した地点に戻ることにした。
☆
春香のスキルの後遺症がだいぶ治まってきた頃、一つの足音がこちらに近づいてきた。間違いなく朱雀だ。
『秋人、作戦通りに』
「……ああ」
多少の不安を抱えつつ、真冬の声に頷く。間もなく朱雀が姿を現した。今は【変身】を解除しており、朱雀本人の姿である。
「やっと見つけた。もう死んで消滅したのかと思ったわ」
「生憎……しぶとさには自信があってな……」
腹を手で押さえてうずくまりながら、俺はか細い声で言った。朱雀は春香が俺にスキルを使ったことは知らないはずなので、俺が元気だったら不自然だと思われるだろう。よって俺は致命傷を負って今にも死にそうなフリをしていた。
「まあ私としても貴方の死はちゃんとこの目で見届けておきたいし、そのしぶとさには感謝しておくわ」
「俺を……殺すのか……!?」
「当たり前でしょ? それが転生杯のルールなんだから」
俺は両手と額を地面に付けた。紛うことなき土下座である。
「頼む、殺さないでくれ……!! 俺にはどうしても、やり遂げなければならないことがある……!! こんな所で死ぬわけにはいかない……!!」
命乞いをする俺を見て、朱雀は深々と嘆息した。
「呆れた。まさかここまでプライドがない男だなんて思わなかったわ。なんかガッカリ」
俺だってこんなことしたくないんだよ。でもこれが真冬の作戦なのだから仕方ない。
「残念だけど、貴方は確実に殺すようリーダーに言われてるの。悪く思わないでね」
「そんな……!!」
朱雀が鮫島に姿を変え、一歩一歩近づいてくる。
「う……うわあああああ!!」
俺は立ち上がり、朱雀から逃げるように走り出した。
「まったく、どれだけ醜態を晒せば気が済むのかしら」
案の定、朱雀が追いかけてくる。俺は朱雀に追いつかれない程度の速さでひたすら逃げ続け、やがて雑木林を抜けて再び住宅街の道路に出た。致命傷を負っているはずの人間がこんな速さで走っているのは不自然かもしれないが、火事場の馬鹿力だと思われていることを祈ろう。
「真冬、あとどれくらいだ……!?」
『そこまでは私にも分からない』
まじかよ。さすがにそろそろ怪しまれそうな気がするぞ。そして俺と朱雀の鬼ごっこが始まって数十秒が経った時だった。
「!?」
突然、朱雀が足を止めた。一瞬だけ振り返ると、朱雀の変身が解けて元の姿に戻っていた。やはり真冬の言った通りだったか……!
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