スキルの攻略

　もし何らかの制約によって今は鮫島の【怪力】と愛城の【潜伏】しか使えないのだとしたら勝機はありそうだが、そう思わせることすら奴の作戦なのかもしれないし、決めつけるのは危険だ。だいたいこの二人のスキルしか使えない制約ってどんな制約なんだ。なんだか頭が痛くなってきた……。

「あー、やっぱり頭を使うのは苦手だ。というわけで頼んだぞ真冬」

『……丸投げ？』

「そう言うなって。実際俺なんかより真冬の方が遙かに頭が良いからな。この闘いは真冬の頭脳に懸かっている」

『プレッシャーかけるのやめて』

「はは、悪い悪い」

　かつて雪風との闘いで、俺は雪風の居場所を導き出すまで七日も要してしまった。俺の頭脳は所詮その程度だ。さっき春香も「遠慮なくアタシ達を頼りなさい」と言ってくれたし、その言葉に甘えさせてもらうとしよう。

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　秋人から変身女のスキルの攻略を託された真冬であったが、その前からとっくに考察はしていた。【変身】に何かしらの発動条件や制約があるという見解は真冬も同じ。しかしそれを解明する糸口をまだ掴めていなかった。

　言い換えるなら、それさえ解明できれば秋人の勝利に大きく近づくだろう。ここで役に立てなくてどうする、と真冬は自分の両頬を叩いて気合いを入れ直した。まずは現場に何かヒントが残されていないか、真冬は防犯カメラをくまなくチェックする。おそらくもうすぐ秋人が変身女に見つかるので、あまり時間はかけられない。

「これは……？」

　間もなく真冬は、秋人と変身女が闘った公園に〝何か〟が落ちていることに気付いた。真冬は映像を拡大させて解像度を上げる。それは男物の衣服だった。

　もう一つのモニターで数十分前の公園の映像を確認したところ、衣服は落ちていなかった。つまりこれは変身女の物と見て間違いない。

　何故こんな物が？　変身女が脱ぎ捨てたのか？　しかし見たところ【変身】は対象の人物の衣服ごと姿を変えられるので、わざわざ着替える必要はないはず……。

「まさか……!!」

　ある可能性に至った真冬は、光速で変身女の身元を調べる。秋人の前で「朱雀真鈴」とご丁寧に名乗ってくれたので、本名は把握済みである。程なくして変身女の素性が浮かび上がり、真冬は小さく口角を上げた。

「秋人、分かった！　変身女のスキルの発動条件！」

『……何っ、本当か!?』

　真冬がインカムで伝えると、秋人は驚きの声を上げた。発動条件が分かればこっちのもの。真冬はその内容を伝えた後、秋人に作戦を考案する。

『……それ、どうしてもやらなきゃ駄目か？』

「ん。これが最も確実に勝てる方法だと思う」

『いや、でもなあ。俺にもプライドというものが……』

「秋人にプライドなんてあったの？」

『失敬な！　少しはあるわ！』

　短い沈黙の後、秋人の嘆息する音が聞こえた。

『分かった、やるよ。確かにその方法が最も確実だ』

「よろしい」

　変身女こと朱雀を倒すべく、真冬の作戦が始まった。

　　☆

　ビル屋上から地上へと闘いの場が移った昼山と赤来。赤来は右手から次々と空気弾丸を放ち、昼山の身体に炸裂させる。距離も溜め時間も短いため一発一発の威力は小さいが、それでも傷だらけの身体にはかなり堪えていた。

「おいおいどうした、さっきから反撃もせずボケッと突っ立ってるだけじゃねーか。実はドＭか？」

「……反撃したところで、俺の攻撃は通用しないのだろう？」

「くくっ、まあそうなんだけどよ。でもちょっとは悪足掻きしたっていいんだぜ？」

　赤来の周囲が圧縮空気で覆われている限り、昼山の攻撃は全て弾かれてしまう。先程はビル内部からの攻撃で意表を突くことができたが、地上ではその方法も使えない。

「確か【守護霊】だったか？　そのスキルで新たな動物でも呼び出したらどうだ？　家族が傍にいた方がお前も心強いだろ」

「…………」

「おやおや？　その様子だと、もう無理なのかな？　何かスキルの発動条件に引っ掛かるのか、それとも最初から三体しか呼べないのか。まあどっちでもいいけどよ」

　赤来の見解は後者が正しい。昼山のスキル【守護霊】には発動条件こそないが、召喚できるのはクマ（ワン）、ワシ（ツー）、チーター（スリー）の三体のみである。

　クマとワシは倒され、チーターは一般人の救援に回しているため、現在の昼山はその身一つで闘うしかなかった。そして尚も赤来は右手から空気弾丸を放ち続ける。

「右手の弾丸で俺の動きを牽制し、その間に溜めた左手の弾丸でトドメを刺す。それがお前の戦法か」

「大正解！　言っとくがハズすのは期待しない方がいいぜ？　俺様はこの距離なら豆粒でも撃ち抜けるからな」

「そいつは大した腕前だ。祭りの射的では大活躍だな」

「もう盾になってくれる動物もいねえ。逃げるなら今の内だぜ？」

「安心しろ。俺は逃げも隠れもしない」

「そうか。じゃあ……」

　赤来は右手を下ろし、左手を上げる。

「消えてもらおうか!!」

　人差し指の先から、威力を十分に高めた空気弾丸が放たれた。今度こそ殺ったと赤来は勝利を確信したが――