黒フード
「今日のサンドイッチはなかなかの自信作なんだけど、どう?」
「文句なしに美味いぞ。春香の手料理にハズレは――からあああああ!!」
二個目のサンドイッチを口にした瞬間、俺は口から盛大に火を噴いた。慌ててコップのジュースを流し込む。
「ふふっ。どうやらハズレを引いたみたいね」
「ゲホッ、ゴホッ!! 何だこれ、滅茶苦茶辛いぞ!!」
「実は秋人に出したサンドイッチの一つにはタバスコを大量に入れてあったのよ。その反応ってことは本当に大丈夫そうね」
「タバスコで俺の体調をチェックすんのやめてくれる!?」
精神が病んでる時の俺はこんなものを平然と飲んでたのか。我ながらまともじゃない。
「あー、まだ口の中がヒリヒリする……」
コップにジュースを追加しようとピッチャーに手を伸ばした、その時。同じく手を伸ばした真冬と手が触れ合った。
「「あっ……」」
一瞬だけ目が合い、互いに手を引っ込めてしまう。昨日あんなことがあったばかりなので、なんとなく気まずい。
「ご、ごめん……」
「いや、こちらこそ……」
真冬の唇の感触が蘇ってくる。あれからずっと興奮状態が続いているので、昨夜もほとんど眠れなかった。それもそのはず、頬とはいえ女の子にキスされたのなんて初めてだったのだから。こんなのどうしたって意識してしまう。
「二人とも、何かあったの?」
そんな俺と真冬の顔を交互に見て、首を傾げる春香。
「べ、別に何もない。ねえ秋人」
「あ、ああ。ただ二人で遊園地に行っただけ――あっ!?」
しまったーーーーー!! 遊園地のことは春香には内緒だった!!
「ちょっと待って!! 二人で遊園地に行ったの!? 聞いてないわよそんなの!! どうしてアタシに何も言ってくれなかったのよ!!」
案の定、騒ぎ始める春香。こうなるから言いたくなかったんだ。
「ご、ごめんな春香。別に仲間外れにしたつもりはなくて……」
「アタシも遊園地に行きたかった!! 二人だけズルい!!」
「だって春香は学校に行ってたし……」
「ズルいズルいズルいズルいズルいズルーーーーーい!!」
それから俺はひたすら春香を宥め続け、およそ一時間後にようやく機嫌を治してくれたのであった。やはり中身はまだまだお子様だ。
「秋人、春香。大事な話があるから、後で作戦会議室に来て」
朝食の後片付けをしている最中、真冬が言った。
「大事な話? 転生杯関係?」
「ん。そんなとこ」
新たな参加者でも発見したのだろうか。程なくして片付けを終えると、真冬が俺に近づいてきて、耳元でこう囁いた。
(昨日のアレは、その、一時の気の迷いというか、雰囲気に流されてやっちゃったというか……。できれば忘れてほしい)
(あ、ああ……)
早足でリビングを出る真冬。いや忘れられるわけないだろ、と心の中でツッコんだのであった。
それから俺達三人は作戦会議室に集まった。まだ昨日の興奮は冷めていないが、なんとか切り替えていこう。
「まずはこれを見てほしい」
真冬はそう言って、モニター画面に一人の人物の画像を映し出した。黒フードを目深に被っており、見るからに不審者である。
「これは私が少し前から目をつけていた人物。主に深夜帯、不特定の場所を徘徊する姿を確認してる」
「転生杯の参加者なの?」
「痣を完全に隠してるから確実なことは言えないけど、可能性はかなり高いと思う。それを裏付けるのが、ここ三日間の行動範囲」
モニターに地図が映し出され、黒フードの行動範囲が赤色で示される。
「これは……!!」
赤色で示された部分、なんとそれは俺達が通っている陸奥高校であった。これまで不特定の場所を徘徊していた奴が、ここ三日間は特定の場所、しかも陸奥高校に現れている。これは偶然とは思えない。
陸奥高校は雪風が一連の騒動を起こした場所であり、俺・春香・朝野という三人もの参加者が在籍している学校なので、他の参加者が嗅ぎつけてきても不思議ではない。実際、今は亡き炎丸もその一人だった。
「とりあえず下見に来たってところか。取り返しのつかないことになる前に、こいつを何とかしないとな」
この黒フードが皆の高校生活を脅かす危険性は十分にある。もう氷の牢獄のような苦しみは死んでもゴメンだ。
「そうと決まれば行動あるのみ! というわけで頼んだわよ秋人!」
春香が俺の肩をポンと叩いて言った。この他力本願な感じ、なんだか久し振りだ。それを見て真冬が嘆息する。
「今となっては春香も立派な戦力なんだし、協力してあげればいいのに」
「何度も言ってるでしょ、アタシはできるだけ危険を冒さずに転生杯を勝ち抜きたいの。でも安心して秋人、ピンチになったらちゃんと駆けつけてあげるから!」
「そりゃ頼もしい」
皮肉交じりに俺は言った。まあ俺としても仲間を危ない目に遭わせたくはないから全然いいんだけど。
「でも、本当に下見かしらね」
モニター画面を見ながら、ふと春香が呟いた。
「どういう意味だ?」
「ただの下見なら一日もあれば十分でしょ? なのに同じ場所を三日も彷徨くなんて、まるで誰かが来るのを待っているような……」
「誘ってる、ってことか」
「アタシはそんな気がするわ」
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