真冬とデート
無事に真冬の意識が戻ったので、ひとまずベンチに座って一休みすることにした。
「ビックリしたよ、まさか真冬が気絶するほどジェットコースターが苦手だったとは」
「別に苦手じゃないし気絶もしてない。ただ野生の熊に遭遇した時に備えて死んだフリの練習してただけ」
「何故あのタイミングで!?」
「ちなみに熊に遭遇した時の対処法として死んだフリはあまり推奨されていない。ゆっくりと後退りしてその場を離れるのが正解」
だったら尚更死んだフリの練習いらなくない?
「そんな強がらなくてもいいだろ。誰だって苦手なもんの一つや二つはあるさ」
「……ん」
その時、真冬のお腹から「キュルル……」と可愛らしい音が鳴った。顔を真っ赤にして俯く真冬。反応も可愛らしい。そういや昼はまだ何も食べてなかった。ちょうど近くにキッチンカーが停まっている。
「俺も腹減ったし、あそこで食料を調達してくるよ」
「あっ、私も……」
「真冬はまだ安静にしてろって。何が食べたい?」
「……ホットドック」
「了解」
なんかもう普通に遊園地で遊んでる感じになってるな。キッチンカーでホットドックとハンバーガーを購入し、ベンチまで戻ろうとしたところ――
「君可愛いねー。一人?」
「これから俺達と一緒に遊ばない?」
真冬が男二人組にナンパされていた。しかもよく見たらあの二人、千夏をナンパしてた奴らじゃねーか。台詞もあの時と全く同じだし。遊園地に来てまでナンパとかどんだけ必死なんだよ。
一方の真冬は、スマホをイジって完全スルーを決め込んでいた。が、その手は明らかに震えている。いくら転生杯の参加者でも中身は普通の女の子なんだ、怖いに決まってる。
「何してんだお前ら!」
俺はすぐさまその場に向かった。男二人が煩わしそうに目を向けてくる。
「ちっ、彼氏持ちかよ」
「ねえ君、こんな奴とは別れて俺と――いででで!!」
男の一人が真冬に手を伸ばそうとしたので、俺は潰れない程度にそいつの腕を掴んで鋭く睨みつけた。
「やめろっつったよな?」
「は、はい……」
「すみませんでした……」
本能的に力の差を理解したらしく、男二人はそそくさと立ち去っていった。聞き分けの良い奴らでよかった。できれば一般人には手を出したくないからな。
「大丈夫か真冬?」
ホットドックを手渡しながら、真冬に声を掛ける。
「……ん。ありがと秋人」
「これくらいお安い御用だ。しっかしあいつらも懲りないな……」
「もしかして知り合い?」
「んなわけないだろ。あいつら以前、千夏にもナンパしてたんだよ」
「……そうなんだ」
「あの時は驚いたなー。なんせ千夏が大声を出して一人で撃退したもんだから、俺の出番がなかったよ」
すると真冬は少し不機嫌そうに頬を膨らませた。
「私だって全然怖くなかったし。今度ナンパされたら私も一人で撃退してみせる」
「そこで対抗心を燃やさなくても……」
俺は真冬の隣りに座り、ハンバーガーを口に運んだ。こういう場所で食べると三割増しで美味しく感じるな。そんなことを思っていると、真冬が俺の服の袖を小さく握りしめてきた。
「嘘。ほんのちょっとだけ、怖かった」
そのいじらしい仕草に、つい笑みがこぼれてしまう。
「そっか。これからも遠慮せず、俺を頼ってくれていいからな」
「……ん」
ホットドッグを食べ終えるまで、真冬は袖から手を離さなかった。
その後も俺達は参加者探しという名目で、様々なアトラクションを回っては体験してを繰り返した。そして気付けば閉園時間間際になり、最後に観覧車に乗ることにした。俺と真冬はゴンドラに乗り、向かい合って座る。
「……秋人に謝らないといけないことがある」
「何だ?」
「この遊園地に転生杯の参加者が現れたかもって話、あれは真っ赤な嘘」
「……だろうな」
「いつから気付いてた?」
「最初から怪しいとは思ってたけど、まあいいかなって」
俺も途中から参加者のことなんか忘れて年甲斐もなく楽しんじゃってたし。いや今は16歳だから年甲斐はあるか。
「……怒ってない?」
「全然。真冬の冗談好きは今に始まったことじゃないしな。てかそれならお化け屋敷だったりジェットコースターだったり、わざわざ自分の苦手なものをチョイスする必要なかったんじゃないか?」
「遊園地に来たのは生前の小学生以来だったから、今なら平気かもと思って。でも見通しが甘かった」
「ははっ、なるほど」
そういや俺も遊園地は生前の小学生以来だな。死ぬ前に一度くらい女の子と遊園地デートとかしてみたかったものだ――
ん? ちょっと待て。冷静に考えたら俺、今まさに遊園地デートをしてないか? 女の子と二人きりで遊園地。うん、誰がどう見てもデートだ。そしてこれが、真冬との初めてのデート……。
うおおおおおなんか急に緊張してきたあああああ!! いや落ち着け、真冬は全然そんなつもりないかもしれないだろ!! 一人で舞い上がってどうする!!
「えーっと、なんだ。転生杯絡みじゃないとしたら、真冬はどうして俺を遊園地に連れてきたんだ? 何か理由があるんだろ?」
「…………」
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