明かされる正体
「確かに秋人くん、なんか顔色悪いもんね。了解したにゃ!」
これで一安心だ。こういう時は同盟を組んでいて良かったと思う。まあ朝野なら同盟関係なく引き受けてくれそうではあるが。
「あ、そういや朝野は今日テストがあるんだっけ」
「そう、再々々テスト! 絶対に合格して退学を回避してみせるにゃ!」
「悪いな、テスト当日にこんなお願いをして」
「全然大丈夫だよ! 春香ちゃんのおかげでテスト対策はバッチリだし、だいぶ心にも余裕があるにゃ! あっ、噂をすれば春香ちゃん! おはよーにゃ!」
「おはよー……って朝野!? なんでアンタがここにいんのよ!?」
身支度を終えて玄関に来た春香が、朝野の顔を見るなり声を上げる。俺は事情を春香に説明した。
「はあ!? こんなのがアタシのボディガード!?」
「こんなのって酷くないかにゃ!?」
「そもそもボディガードとかいる!? 何度も言ってるけど最近の秋人は過保護すぎ! 自分の身くらい自分で守れるわ!」
「だけど用心するに越したことはないだろ? 俺がいない間に学校で何かあったらと思うと気が気じゃなくて、心置きなく休めないんだ。朝野が一緒なら俺も安心だし、俺の為と思ってさ」
「うっ……そういう言われ方をされると……」
悶々とした顔を見せた後、春香は頷いてくれた。
「任せて秋人くん! 親友の春香ちゃんはこの私がバッチリ守るにゃ!」
「ああ、頼んだ」
「って誰が親友よ誰が! せいぜい友達でしょ!」
「えっ!? やっと私のこと友達って認めてくれたの!? 嬉しいにゃー!」
「あっ……!! い、今のナシ!!」
仲良く言い合いながら、春香と朝野はアジトを出た。二人の背中を見送った後、俺は自分の部屋のベッドに転がり込んだ。
まだ昨日の疲れが完全に癒えてないし、今はいろいろ考えるのをやめて、とにかく身体と心を休めよう。程なくして俺は深い眠りについた。
☆
紫色の空、赤色の地。気が付くと、俺はその空間の中に立っていた。ここには見覚えがある。俺の深層心理の空間ってやつだ。
「よう、秋人」
目の前で陽炎が揺らめき、その中から一人の人物が現れた。この空間に住み着いている謎の男、大地だ。前回同様、俺が眠っている間に俺の意識を呼び寄せたのだろう。もう今更驚きはしない。
「何の用だよ。悪いが今はお前の相手をしてやれる気分じゃない」
『薄情な奴だな。お前の心からとてつもない〝揺らぎ〟が伝わってきたから、心配して声を掛けてやってんだぞ』
「揺らぎ……?」
『行き場を失ったお前の憎しみ、悲しみ、怒り……。どうやら復讐の失敗が相当効いてるみたいだな』
「見てたのか?」
『前にも言ったろ。ここじゃ外の世界は見えないし音も聞こえてこない、入ってくるのはお前の心の声だけ、ってな。ただ、その声からお前の身に何が起きたのかは大体分かるんだよ』
相変わらず俺の心はこいつに筒抜けなのか。プライバシーの侵害にも程がある。
「お前に心配される謂われはない。俺を陥れた真犯人は必ずどこかにいる。そいつを見つけ出して復讐を遂げる、それだけだ」
『へえ、思ったより元気そうで安心したよ。まあ、せいぜい頑張りな。僕も応援してるからさ』
俺は未だに大地のことをほとんど何も知らない。せっかくこうして呼び寄せられたのだから、こいつの正体を暴く良い機会だ。
「そろそろ教えろよ。お前は一体何者だ?」
『くくっ。随分ストレートに聞くんだな』
「俺の思考が読めるのなら、駆け引きは無意味だろ」
『別に心の声が聞こえるからって、お前の思考を完璧に読めるわけじゃない。心と思考は別物だ。しっかし、お前の心の声は毎日エロいことばかりでウンザリだよ。こっちは生殺しもいいとこだ』
「う、うるさい!! 話を逸らそうとするな!!」
そりゃ可愛い女の子達と同居してたら必然的にそうなる――って、俺が余計なことを考えてどうする。
「いいから答えろ。正体不明の奴に住み着かれてる身にもなってみろよ」
『そうだな。いつまでも勿体ぶるのは性に合わないし、教えてやるよ』
緊張感か漂う。ついに明らかになる、大地の正体が……!!
『この僕――紅月大地は、お前の前世なのさ』
「……は?」
予想だにしない発言に、俺は唖然としてしまった。確かに外見は俺と瓜二つだが、こいつが俺の前世だと……!?
「つまり俺は、お前の生まれ変わりってことか……?」
『そういうことになるな。前に夢で見せた通り、僕は第七次転生杯の参加者だった。その転生杯で最後まで生き残った四人の内の一人が僕だ』
こいつが第七次転生杯の参加者だったのは知っていたが、最後まで生き残ったという話は初耳だ。
「それなら、お前は転生権を手に入れたんだな?」
『ああ。その転生権によって、僕は再び現世に生を受けた。仮転生などではなく正真正銘の転生、赤ん坊からのスタートだ。そして僕は月坂という両親の間に生まれ、秋人と名付けられた。そう、つまりお前だ』
「……!!」
なんか頭が痛くなってきた。ひとまず時系列を整理すると、大地が死ぬ→大地が第七次転生杯の参加者として仮転生→大地が転生権を手に入れ俺(秋人)として転生→俺が死ぬ→俺が第八次転生杯の参加者として仮転生(今ここ)ということになるのか。
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