春香の元仲間
「とにかく無理なものは無理よ。アタシはアイドル部の活動でいつも疲れてるから、アンタに勉強を教える気力なんて残ってないの」
「そこをなんとか! それにほら、同盟! 同盟を組んだ以上は協力し合わなきゃ!」
「こんなことの為に組んだんじゃないでしょ!」
「ううー……秋人くん……」
潤んだ瞳で俺を見つめる朝野。春香を説得してほしい、そんな意志がひしひしと伝わってくる。少しだけ悩んだ後、俺は口を開いた。
「春香。朝野に勉強を教えてやってくれないか」
「ちょっ、秋人まで何言ってんの!?」
「朝野が一回目の再テストを受け損ねたのは俺のせいでもあるからな……。だから俺からも頼む」
「ほら、秋人くんもこう言ってるにゃ!」
「ぐうっ……!!」
春香は唸り声を上げた後、観念したように溜息をついた。
「ああもう、アタシの負けよ」
「えっ!? それじゃ……!!」
「ええ。秋人に免じて、勉強を教えてあげるわ」
またもや朝野の目にじんわりと涙が浮かぶ。今度は歓喜の涙だろう。
「ありがとー!! 春香ちゃん大好き!!」
「いちいち抱きつかないで! 言っとくけどアタシは厳しいわよ! やるからには絶対に合格してもらうから覚悟しなさい!」
「分かってるにゃ! 秋人くんもありがとね!」
「ああ。ただし勉強が終わったら、ちゃんと春香を俺達のアジトまで送り届けること。いいな?」
「了解にゃ!」
朝野に俺達のアジトの場所を教えることになるが、もうリーダーの夜神には知られてしまったことだし、大した問題ではないだろう。
「あっ、鞄を教室に置いたままだった! 急いで取ってくるから待っててにゃ!」
朝野はダッシュで校舎に向かう。数秒後、廊下は走るなと注意する教師の声が響いてきたのであった。
「まったく秋人ったら、余計な仕事を押し付けてくれたものね」
「そう言うなって。それに俺が頼まなくても、最終的には朝野に手を差し伸べるつもりだったんだろ?」
「べ、別にそんなことは……」
決まり悪そうに頬をかく春香。何だかんだ春香も優しいからな。それに生前高校に通えなかった者同士、共感できる部分も多いのだろう。
「それにしても、あんな騒がしい仲間を持って夜神も大変ね。アタシもチームのリーダーとして同情しちゃうわ」
春香から仲間という言葉を聞いて、ある疑問が浮かんだ。
「そういや春香って、真冬と組む前は仲間とかいなかったのか?」
「……どうしたの突然?」
「まあ、ちょっと気になっただけだ。真冬が夜神と組んでたように、春香も誰かと組んでたのかと思ってな。話したくないなら別にいい」
春香の痣の数字は39、参加者の中では前半の方だ。正直春香一人で転生杯を生き抜くのは厳しいだろうし、真冬と出会うまでずっと一人だったとは考えにくい。それに真冬の過去が明らかになった今、春香のことも純粋に知りたいと思った。
「……いたわよ、アタシにも三人の仲間が。四人でチームを組んでたわ」
どこか重い口調で春香は言った。あまり良い思い出ではなさそうだ。
「春香はそのチームを抜けた後、真冬と出会ったってことか?」
「ええ。当時のリーダーが他の参加者を倒すことしか頭になくて、仲間のこともその為の駒としか見ないような奴だったの。アタシはそれが嫌になって、自分からチームを抜けちゃった。方向性の違いってやつね。アタシはもっとフレンドリーな仲間が欲しかったのよ」
転生杯参加者の在り方としてはそれも一つの形だと思うが、確かに春香には合いそうにないな。俺も仮転生したばかりの頃なら賛同していたかもしれない。
「他の二人もロクでもなかったわね。今にして思えば、なんであんなチームに入ったのかって感じ。夜神のようなまともな仲間がいた真冬が羨ましくなるわ」
果たしてあれをまともと言っていいのだろうか、と俺は真冬を前にした時の夜神の様々な醜態を思い出す。
「その三人って、今も生き残ってるのか?」
「さあ? 完全に縁を切ったから連絡とか全くしてないし、何にも知らないわ。もしかしたら既に脱落してるかもね」
仮にも仲間だったのにサッパリしてるな。未練は微塵もなさそうだ。
「あーでも、その中の一人ならこの間テレビに出演してるのを見たわ」
「えっ? それって芸能人か何かってことか?」
「アイドルよ。芸名は忘れたわ。転生杯の参加者でありながらアイドルになるなんて、本当どうかしてるわね」
「いや春香は人のこと言えないだろ!」
「アタシはほら、あくまで高校の部活の範囲だからセーフよ」
随分と自分に都合の良いセーフラインだな。
「もしかして春香がアイドル部に入ったのって、そいつの影響だったりするのか?」
「まさか。アタシは自分のやりたいことをやってるだけよ」
「……だよな」
ん、待てよ? そういや俺が相対した参加者の中にアイドルをやってる奴がいたような……。
「なあ、もしかしてそのアイドルって神崎――」
「お待たせにゃー!!」
その時、朝野が大声と共に戻ってきた。
「遅いじゃない。何してたのよ」
「やーごめんごめん。途中で良い感じの変身ポーズを思いついて、その練習してたら遅くなっちゃったにゃ!」
本当に何してたんだ。少女戦士に変身ポーズは重要かもしれないが。
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