朝野のピンチ
俺と春香はとりとめのない話をしながら部室棟を出る。
「今更だけど、わざわざアタシを待たなくてもいいのに」
「そんなわけいくかよ。また攫われたりしたらどうすんだよ」
「相変わらず心配性ねー」
「……ん?」
噂をすれば、春香を攫った張本人である朝野が校庭の木の下に座り込んでいた。この世の終わりのような顔をしており、明らかに様子がおかしい。そういや思い詰めた顔をしてたとか昼山が言っていたが……。
「アンタ、そんな所で何してんのよ。パンツでも見せたいの?」
思わず俺は目を凝らして体操座りの朝野を見る。くっ、上手いこと足で隠れていて見えそうで見えない。
「……春香ちゃん。秋人くん」
朝野がこちらに目を向ける。その目からじんわり涙が溢れてきたかと思えば、勢いよく春香に抱きついた。
「春香ちゃーん!! 助けてほしいにゃー!!」
「ちょっ、何!? 離れなさいよ馬鹿!!」
「……何かあったのか?」
朝野が落ち着くのを待った後、俺と春香は話を聞くことにした。
「この間、中間テストの再々テストがあったんだけど……」
「ああ、俺もそれ気になってたんだ。どうだった?」
「……数学と英語で赤点を取っちゃったにゃ」
消え入りそうな声で朝野は答えた。
「確かこの学校って、再々テストで一教科でも赤点を取ったら退学なのよね?」
「……そうらしいな」
春香がポンと朝野の肩を叩いた。
「短い間だったけど、楽しかったわよ。さようなら」
「そんなー!! 酷いにゃ!!」
「でも退学なんでしょ?」
「違うよ! ほら私、最初の再テストはサボッちゃったでしょ?」
「いや知らないけど」
「それが何故か風邪でやむを得ず欠席したことになってたから、特別にあと一回だけチャンスを貰えることになったの! だからまだ退学だと決まったわけじゃないにゃ!」
「ああ、そうなの。チッ」
「春香ちゃん舌打ちした!?」
そういや朝野は俺の代わりに炎丸と闘ったせいで、再テストを受けられなかったんだよな。それが支配人の改竄によって病欠したことになっていたわけか。思わぬ形で功を奏したな。
「でもその再々々テストで駄目だったら今度こそ退学になっちゃうの! しかも再々々テストは四日後だよ!? このままだと再々々テストも赤点取っちゃうにゃ!」
「サイサイサイサイうるさいわね! てかアンタって夜神の裏工作で高校に入ったんでしょ? なら今回も夜神にお願いしたら何とかしてくれるんじゃない?」
「一応お願いしてみたけど『それくらい自分の力で何とかしろ』って言われちゃったにゃ……」
正論である。
「だいたい高校に入るまで勉強の経験ほぼゼロだった私にいきなり高校のテストを受けろだなんて、無茶振りにも程があるよ! 高校生活は凄く楽しいのに、勉強だけが私を苦しめるんだにゃ!」
俺の場合は生前に一度高校を卒業してるので、当時の知識を掘り起こしながら勉強に取り組めたが、朝野はそういうわけにはいかないからな……。
「アタシだって似たようなものだったけど、頑張ったら何とかなったわよ。どうせ高校に入った後ロクに勉強しなかったんでしょ?」
「ギクッ!! そそそそそんなことはないにゃ!」
「図星みたいね……。要は努力を怠ったアンタが悪い」
「こ、これでも再々テストの時はかなり頑張ったんだよ!? だから他の教科はなんとか赤点を回避できたけど、数学と英語だけがどうしても駄目で……!!」
中間テストの成績は断トツの最下位だったと言ってたし、頑張ったのは本当だろう。そうでなければ赤点は二教科だけでは済まなかったはずだ。
「だからお願い春香ちゃん! 私に勉強を教えて!」
「なんでアタシが! 秋人でもいいでしょ別に!」
「いやそれは……秋人くんの成績もアレだし……」
「アレで悪かったな!」
実際俺も中間テストで赤点を取ってしまうほどの学力しかないから反論の余地はないけども。
こんな時に千夏がいてくれたら……ついそんなことを考えてしまう。俺が再テストに合格できたのも、千夏が親身になって勉強を教えてくれたおかげだ。そういや朝野も入れて三人で勉強したこともあったな。騒ぎすぎて図書館を出禁になってしまったが、今となっては良い思い出だ。
「だいたい再テストなんて中間テストと内容ほぼ同じでしょ? わざわざ再テストの為に一から問題を作成するほど先生達も暇じゃないだろうし。そうよね秋人?」
「ああ」
それは再テストを受けた俺が保証する。実際その内容は中間テストの問題を多少いじった程度だった。先生達も鬼ではないし、できるだけ生徒を退学になんてしたくないだろうから、再テストで意地の悪いことはしないはずだ。
「だから中間テストで出たところを重点的に勉強すれば合格できるはずよ。アタシが教えるまでもないわ」
「それができないから苦労してるんだにゃ!」
まあ、それらを考慮した上でも無理な人には無理だよな。俺も合格したと言っても結構ギリギリだったし。ピッチングマシンで豪速球が来ると分かっていても素人には打てないのと同じだ。
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