違う出会い方
「くっ、よくもケッシーを……!! エンチャン!!」
仲間の仇を討とうと、再び鉛筆がドリル攻撃を仕掛けてきた。だが今度は下敷きの邪魔もないので、俺は横に跳んで容易に回避する。また鉛筆の頭が地面に突き刺さった隙に【氷結】を発動し、氷の剣を生成。その一太刀で鉛筆を真っ二つに切り裂いた。
「エンチャーン!!」
鉛筆は真っ二つの状態で元の姿に戻った。残るは一体。俺は一気に下敷きとの距離を詰め、拳を構える。
「は、跳ね返せシタジン!!」
そう、ただ殴るだけではまた跳ね返されるのがオチだ。そこで俺は拳を炸裂させるフリをして、掌を下敷きに触れさせる。そして【氷結】を発動し、下敷きの一部を凍りづけにした。
「確かプラスチックってのは、凍らせると脆くなるんだよな」
巨大化しても物体の性質は変わらないはず。俺はスキルを【怪力】に切り替え、凍らせた部分に拳を炸裂させた。狙い通り、跳ね返されることなく下敷きに風穴が開いた。
「シタジーン!!」
下敷きが元の姿に戻る。これで三体とも始末した。佐竹は今にも泣きそうな顔で、破損した文房具達を見つめていた。
同じ使役系スキルでも、昼山とは雲泥の差だな。昼山のクマやワシの強さはこんなものじゃなかった。そして何と言っても一番の違いは、昼山本人も相当手強かったということだ。ただ突っ立ってるだけのあいつに負けるはずがない。
「お前の大事な文房具達はいなくなった。もう打つ手がないのなら、トドメを刺させてもらう」
「……まだだ!!」
佐竹が巾着袋から大量の文房具を取り出し、高く投げ上げる。やはり他にも文房具が入っていたか。定規、修正液、分度器など、様々な文房具が生物となって出現した。三十体は優に超えているだろう。
「どうだ、まさに多勢に無勢だろう!? 君に勝ち目はない!!」
「……多勢に無勢、ね」
どれだけ数を増やそうと、所詮は烏合の衆だ。俺の敵ではないことを思い知らせてやるとしよう。
数分後には、全ての文房具が破損した状態で地面に転がっていた。俺はグラウンドを見回して仕留め損ねた奴がいないかを確認した後、小さく息をついた。さすがにあれだけの数を相手にするのは疲れたが、ほぼ無傷のまま終わらせることができた。
「そ……そんな……」
絶望の表情で膝をつく佐竹。もう呼び出せる文房具も残っていないようだ。戦意を喪失した佐竹のもとに、俺はゆっくりと歩み寄る。
「今度こそ、トドメを刺させてもらうぞ」
俺は【氷結】を発動し、巨大な氷の槍を生成した。佐竹は顔を上げ、乾いた笑みを浮かべる。
「僕の負け、か……。ということは、そうか。僕は殺されるのか……」
「お前が悪い奴じゃないってのは分かる。だけど、これが転生杯なんだ」
「うん、とっくに覚悟はできてるよ。約束通り、はるにゃんファンクラブのリーダーの座は君に譲ろう」
「そんな約束してないだろ」
思わず俺は苦笑した。正直こいつを殺すのは気が進まない。だが転生杯に参加している以上、避けては通れない道だ。
「もし俺達が違う出会い方をしていたら、良い友達になれたかもしれないな」
「ふん、君と友達なんて僕はゴメンだね。けどまあ一回くらいは、はるにゃんのライブで君と一緒にハジケたりしたかったかな」
「……そうだな」
ふと、そんな光景が俺の脳裏に過ぎった。
「そういえば闘いの前に、はるにゃんにメッセージがあるなら伝えといてやる、みたいなこと言ってたよね」
「ああ」
「せっかくだからお願いしていいかな。『君は本当に素敵だ。君と出会えたことが僕の人生の中で一番の宝物だ。これからも君の飛躍を願っているよ』ってね」
「……分かった。必ず伝えておく」
佐竹が静かに目を閉じる。そして俺の氷の槍が、佐竹の身体を貫いた。俺は【略奪】で佐竹のスキルを受け継ぎ、その消滅を見送った。
アジトに帰宅すると、春香と真冬が玄関で俺の帰りを待ってくれていた。
「お帰り秋人! 今回は楽勝だったわね!」
「……まあな」
二人には陸奥高校のグラウンドで佐竹と闘うことは予め伝えていたので、ドローンを通じて俺達の闘いを見ていたのだろう。一応インカムも付けて臨んではいたが、サポートが必要な局面はなかったし、真冬からの指示もなく勝つことができた。
「てか、こんな時間なのによく起きてたな春香」
「そんなの当然よ。秋人が闘ってるって時に一人だけ寝るわけにはいかないわ」
「……この間は寝てただろ」
この間というのは里菜ちゃんと闘いを指している。もう午前二時を過ぎてるし、とっくに寝てるとばかり思っていた。
「まあ寝てもよかったんだけど、相手がアタシの熱烈なファンって聞いてたから、最期くらい見届けてあげないと悪いかなって思ったのよ」
「……なるほど」
たまには春香も良いことをするもんだ。ドローン越しではあるが、はるにゃんに看取ってもらえたのだから佐竹も本望だろう。
「なんだか浮かない顔だけど……大丈夫?」
「ん、そうか? 別に何ともないぞ」
真冬が不安そうな顔で聞いてきたので、俺はそう答えた。
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