【息吹】のスキル
「その必要はない! 何故なら勝つのは僕だからだ!! では始めるよ!!」
佐竹が再び巾着袋の口を広げる。袋の膨らみ具合を見るに、どうやら中身ははるにゃんフィギュアだけではなさそうだ。
「何か武器でも入ってるのか?」
「残念、ハズレだ」
佐竹が取り出したのは、下敷き・消しゴム・鉛筆の三つだった。文房具……?
「おいおい、勉強なら家に帰ってからやってくれよ」
「そんな軽口が叩けるのも今の内だ。見せてあげよう、僕のスキルを!!」
佐竹がそれらを高く投げ上げる。次の瞬間、その三つの文房具はみるみるうちに巨大化し、あっという間に三メートルを超える大きさになった。おまけに三つとも両目、両足、両手まで備わっている。まるで生物のようだ。いや本当に生物になったのか……?
「驚いたかい? 僕のスキルは【息吹】。この通り、無生物に命を吹き込むことができるんだ」
「……へえ。面白いスキルだな」
昼山の【守護霊】のような使役系のスキルってところか。あいつとはだいぶ毛色が違うようだが。
「まあ無生物なら何でもいいってわけじゃなくて、相性もあったりするけどね。紹介しよう。下敷きのシタジン、消しゴムのケッシー、鉛筆のエンチャンだ」
『シッター!!』
『ケッシー!!』
『エンピー!!』
安直な名前と安直な鳴き声だな……。あと外見がなんか日朝アニメに出てくる敵モンスターっぽい。朝野が見たら喜びそうだ。
「見た目が愛くるしいからと言って、油断してたら痛い目に遭うよ。さあ皆、あの男を叩き潰すんだ!」
どこが愛くるしいんだよと心の中でツッコミを入れた矢先、三体の文房具が俺の方に突っ走ってきた。正面から受けて立とうと、俺も駆け出す。
まずは軽く腕試しだ。俺は鉛筆に狙いを定め、拳を炸裂――
「シタジン!」
佐竹の合図で鉛筆を守るように下敷きが立ちはだかり、俺の拳は下敷きに直撃した。しかしまるで手応えがなく、ただ大きく湾曲しただけだった。
『シーッ、ター!!』
「うおっ!?」
そのまま俺の身体は後方に弾き飛ばされた。巨大化したことで弾力性も上がっているようだ。
「驚いたかい? シタジンはあらゆる攻撃を跳ね返すことができるのさ!」
その場から一歩も動かないまま、佐竹が得意気に言い放つ。闘うのは文房具達に任せて自分は高みの見物か、臆病者に相応しい戦術だな。俺は【氷結】を発動し、巨大な氷の槍を生成した。
「へえ。それが君のスキルか」
文房具達は後回しだ。まずは佐竹に一泡噴かせてやろうと、その氷の槍を佐竹に向けて放った。
「ケッシー頼んだ!」
『ケッシー!!』
今度は消しゴムが氷の槍の軌道上に立ちはだかり、その頭を突き出す。氷の槍は消しゴムの頭に直撃するのと同時に消滅してしまった。
「君が直接僕を狙ってくるのも計算の内さ。近距離攻撃に失敗してすぐに遠距離攻撃に切り替えた判断力は見事だが、残念だったね。ケッシーはあらゆる攻撃を〝消す〟ことができるんだよ!」
まさに消しゴムならではって感じだな。放っておくと厄介そうだし、やはり文房具達から片付けるか。
「今度はこちらの番だ。エンチャン!」
『エンピー!!』
鉛筆が高らかに跳躍し、ドリルのように回転しながら突っ込んできた。あの鋭い芯が身体に直撃したら痛いでは済まないだろう。しかし目で追えるスピードなので回避は難しくない。俺は後方に下がり――
「!?」
俺の背中が何かにぶつかる。いつの間にか下敷きが俺の後ろに立っていたのだ。回避の体勢に入れないまま、鉛筆のドリル攻撃が炸裂した。
「意外とあっけなかったね。だがこれで証明された。はるにゃんに相応しい男が僕だということが! ははははは!!」
「お前の目は節穴か?」
「……は!?」
鉛筆の頭が地面に突き刺さっている。そう、鉛筆の攻撃は外れていた。今の俺が立っているのは、消しゴムの背後だ。
「ば、馬鹿な!! どうやって移動した!?」
簡単な話だ。鉛筆の攻撃が炸裂する直前に【潜伏】を発動し、地面に潜って回避していた。そしてそのまま地中を移動して消しゴムの背後に出てきたというわけだ。
下敷きで近距離攻撃を、消しゴムで遠距離攻撃を無力化し、鉛筆の攻撃で仕留める。なるほど、なかなか理に適った闘い方だ。並大抵の参加者では苦戦を強いられるだろう。だが所詮は俺の敵じゃない。
俺は【怪力】を発動し、拳を消しゴムの背中に叩き込む。消しゴムはバラバラに砕け散った。やはり消せるのは正面からの攻撃だけのようだ。
「ケッシー!!」
佐竹が叫び声を上げると共に、消しゴムが消滅する。その跡には普通サイズの消しゴムがバラバラの状態で転がっていた。どうやら【息吹】で命を吹き込まれた物体は、死ぬと本来の姿に戻るらしい。
「何だそのパワーは……!? まさか【怪力】か!?」
「お、正解だ。よく分かったな」
そういや佐竹は仮転生の直後に鮫島から襲撃されたんだったな。元々【怪力】は鮫島のスキルだし、俺が使ったのを見て驚くのは無理もない話だ。
「どうして君がそのスキルを……!? いやそれ以前に、参加者が支配人から与えられたスキルは一つだけのはずだ! 何故複数のスキルを使える!?」
「さて、何でだろうな」
わざわざ答えてやる義理などない。さて、残るは二体だ。
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