過保護
「それはそうだけど……。買い物くらい別にいいじゃない。スーパーは歩いて数分なんだし」
「よくない! 買い物なら俺が行ってやる! 俺がそいつを倒すまで一人での外出は禁止だ! 真冬もいいな!?」
「……ん」
真冬は納得したようだが、春香は不満げな顔である。
「ちょっと過保護すぎじゃない? 前にも似たようなことがあったけど、ここまで厳しくしなかったでしょ」
確かに前にも校内で痣が反応して、参加者が姿を見せないというケースはあった。結局その正体は朝野だったわけだが。
「もう、嫌なんだよ。仲間がいなくなるのは……」
春香の言う通り、過保護なのかもしれない。だが今の俺は千夏がいなくなった直後ということもあって、かなり神経質になっていた。もし春香が買い物の途中で参加者と遭遇したら? 春香が助けを求めても間に合わないかもしれない。
「……はあ。分かったわよ」
俺の気持ちを汲んでくれたのか、春香は俺に買い物メモを渡した。
「アタシも危機意識が足りなかったわ。買い物お願いね」
「ああ、任せろ……ん? ハバネロ?」
買い物メモを見てみると、その中の一つにハバネロソースと書かれてあった。
「ハバネロって、タバスコより更に辛いやつだよな……」
「ん。辛さを表すスコヴィル値は20万から45万。秋人が前に飲んでたタバスコの約400倍の辛さがある」
真冬が買い物メモを覗き込みながら解説してくれた。
「マジか……。え!? 俺タバスコ飲んだことあんの!?」
「覚えてないの?」
「いや全く……。それはさておき、ハバネロソースも料理に使うのか?」
俺が尋ねると、途端に春香の目が泳ぎだした。
「あー、これはその、テレビでハバネロ入りチョコを使ったロシアンルーレットゲームをやってるの見て、面白そうだからアタシ達もやってみようかなーと……」
「……これは買わないからな」
「そんなー!! 秋人に任せるんじゃなかったわ!」
やっぱり中身はお子様だな、と俺は呆れたのであった。
☆
特に何も起きないまま土日が過ぎ、月曜の朝。俺と春香はいつも通り登校した。
例の参加者が校内に潜んでいる可能性もあるので、本当は春香を学校に行かせるのも抵抗があったが、さすがにそこまで制限するのは可哀想だと思ったので「教室から移動する時はその都度必ず俺にLINEで知らせること」という条件つきで許可した。春香とは別クラスなので、こうでもしないと居場所を把握できないのである。
一時間目の授業が終わって休み時間になると、春香から早速LINEが来た。
『売店に行ってくる』
よし、ならば俺も行こう。俺は春香と廊下で合流して共に売店へ向かう。その次の休み時間にもLINEが来た。
『図書室に行ってくる』
よし、ならば俺も行こう。俺は春香と共に図書室へ向かう。その次の休み時間にもLINEが来た。
『トイレに行ってくる』
よし、ならば俺も行こう。俺は春香と共に女子トイレへ――
「「「キャーーーーー!!」」」
「あっ!? すみませんでした!!」
女子達の悲鳴を浴びながら、慌てて女子トイレから飛び出したのであった。
「ねえ秋人。ずっと言うかどうか迷ってたけど……。やっぱり言わせて」
昼休みに屋上で春香と弁当を食べている最中、春香が切り出した。
「なんだよ?」
「今の秋人って、アタシのストーカーっぽくない?」
なん……だと……!?
「俺のどこかストーカーなんだよ! 春香を守る為にやってるんだぞ! 春香だって容認しただろ!」
いやまあ確かに自分でもストーカーみたいだなと思ったのは事実だけど、この間のストーカー共と同類にされるのは心外である。
「あー、そうね。ストーカーというよりは束縛彼氏って感じかしら」
「それも嫌だな……」
「前にも言ったけど、アタシだって転生杯の参加者なんだし、自分の身くらい自分で守れるわ。なんせ兵藤だってこの手で倒したんだから!」
ドヤ顔の春香。実際、春香が兵藤を倒して子供達を救ったと聞いた時は驚いた。ニーベルングとの闘いにおける春香は間違いなく面目躍如だったと言える。
「アタシのことを心配してくれるのは嬉しいんだけどね。ただ、もっとアタシの力を信じてくれてもいいんじゃない?」
春香の言葉を聞いて、俺は自らの行いを反省した。
「そうだな。確かにちょっと神経質になりすぎてたかもしれない」
俺が思ってるよりも春香は強いし、やる時はやる子だ。そこまで気を揉む必要はないだろう。
「だけど実際に転生杯の参加者と遭遇した時は、迷わず俺に知らせてくれよ」
「ええ、勿論」
放課後。気を揉む必要はないとは言ったものの、さすがに一緒には帰った方がいいと思い、俺は春香の部活動が終わるまで待つことにした。ちなみに今日は部室でダンスの練習だそうだ。
その間、俺は学校の敷地内の至る所を歩いて回った。また例の参加者が学校に現れることは大いに考えられるし、そいつの正体を掴むまで気は抜けない。
それに先程から、不穏な空気を肌で感じる。俺の勘が正しければ、例の参加者がすぐ近くに潜んでいる。もう雪風の時のような事態に陥るのだけは絶対に避けたいので、できるだけ早く――
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