元気になる方法
春香は考え込む素振りを見せた後、意味深な笑みを浮かべた。
「そうねー。確実に秋人が元気になる方法なら一つだけ知ってるわ」
「ほんと!? 教えて、私は何をすればいい!?」
「その前に一つ聞くけど、真冬は何でもする覚悟はある?」
「ん。秋人の為なら、私はどんなことでもする」
「それじゃあ……」
春香は真冬の耳に口を近づけ、作戦の内容を囁く。すると真冬の顔がみるみる内に真っ赤になった。
「なっ……!? ふ、ふざけないで!!」
「ふざけてなんかないわよ。これなら秋人は絶対元気になるわ。真冬も秋人にはこういうのが一番だって本当は分かってたんじゃないの?」
「それは……確かに秋人はムッツリだけど……でも……!!」
「あら、どんなことでもすると言ったのは嘘だったの? それとも真冬の覚悟はその程度のものだったのかしら?」
「……!!」
頭から湯気を出しながら、激しく葛藤する真冬。やがて真冬は腹を括った顔で、こう口にした。
「……分かった。やる」
「ふふっ。決まりね!」
☆
夕飯を済ませ、俺は大浴場の湯船に浸かりながら、ぼうっと天井を眺めていた。
「……はあ」
駄目だ、どうしても千夏のことを考えてしまう。切り替えなければならないと頭では分かっているのに、心が追いついていない。いつまでもこんな状態じゃ、他の参加者と遭遇した時にまともに闘えるかどうかも怪しい――
「わぷっ!?」
突然、俺の顔にお湯がかけられた。
「あ、生きてた。目を開けたまま死んでるのかと思ったわ」
いつの間にか春香が湯船に浸かっていた。俺がぼうっとしている間に入ってきたのだろう。全く気付かなかった。
「どうしたのよ、そんな暗い顔して。ほらほら、秋人の大好きな美少女の裸よ? 元気出しなさいよ!」
春香が立ち上がり、その魅惑的な裸体を惜しげもなく近づけてくる。
「……悪いけど、今はそういう気分じゃないんだ」
「とか言ってるけど、ちん○んの方は元気になってるじゃない」
「どこ見てんだよ!」
くっ、こういう時でも反応してしまう男の性が憎い。
「ほんと、いつ見ても不思議よね。どうして興奮するとこんなになるのかしら」
「だから触ろうとすんなって!」
「……やっぱり千夏ちゃんのこと、まだ引きずってるの?」
春香が俺の隣りに座り、真面目な声色で聞いてきた。
「……まあ、な」
「そう。真冬もかなり落ち込んでるみたいだし、困ったものね」
「逆にどうして春香はそんないつも通りなんだよ。千夏があんなことになって、春香は悲しくないのか?」
「…………」
春香が無言で目を伏せる。馬鹿か俺は、春香だって悲しいに決まってる。きっといつも通り振る舞うことで、悲しさを紛らわせてるだけなのだろう。
「……ごめん。今のは俺が悪かった」
「そりゃあ、アタシだって悲しくないわけじゃないわ。ただ、何事も前向きに考えるようにしてるの」
「前向きに……?」
「もし千夏ちゃんが死んだまま還らぬ人になってたら、アタシも凄くショックを受けてたと思うわ。でも千夏ちゃんは、転生杯の参加者として蘇った。アタシ達と同じ存在になったというだけよ。だから千夏ちゃんとは永遠のお別れじゃない。いずれまた会えるってことよ」
そう言って、春香は再び立ち上がった。
「それにほら、前からずっと言ってるでしょ! アタシ達のチームにはあと一人、転生杯の参加者が必要だって! 千夏ちゃんが参加者になったのなら、これはもう千夏ちゃんしか有り得ないわ! その時こそチーム『春夏秋冬』の完成よ!」
「……はは」
思わず俺は笑ってしまった。ほんと、春香のメンタルの強さは尊敬に値する。俺も見習いたいものだ。
「だけど春香も見ただろ、あの千夏の目を。千夏は俺達のことを完全に忘れてる様子だった。そんな千夏に、俺達の言葉が届くかどうか……」
「忘れてるなら思い出させるまでよ。頭を何回か叩けば思い出すでしょ」
そんな昔のテレビじゃないんだから。
「とにかく千夏ちゃんは絶対に連れ戻す! 何か異論はある!?」
「……あるわけないだろ」
そうだ、いつまでも落ち込んでるわけにはいかない。たとえ記憶を無くしていても、千夏は俺達の仲間だ。また四人で過ごす日々が戻ってくると信じよう。
「ありがとな春香。おかげで少し元気が出てきた」
「あら、それはアタシの裸を見て?」
「違うから! 春香の言葉のおかげって意味だよ!」
「ほんとー?」
春香がニヤケ面でまた俺に裸体を近づけてくる。
「くっ……!! いやまあ、それも全くないとは言い切れないけども……!!」
「正直でよろしい。ま、秋人が女の子の裸が大好きってことは重々承知してるわ」
そりゃ嫌いなわけがないだろう。特に春香のような美少女の裸は何度見ても反応してしまう。
「そんな秋人のことを、もっと元気にしたい人がいるんだって。もう来てるみたいね」
「え……?」
浴室のドアに目を向けると、一つの人影が映っていることに気付いた。このアジトにいる人物といったら、あとは一人しかいない。
「いつまでそこにいるのよ! いい加減入ってきなさい!」
入浴シーンを書いてる時はテンション上がります。






