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【書籍化&】冤罪で死刑にされた男は【略奪】のスキルを得て蘇り復讐を謳歌する【コミカライズ決定】  作者: ダイヤモンド


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千夏との別れ

 たとえ向井を殺したのが千夏だったとしても、それを責めるつもりはない。俺だってこれまで数々の人間を手にかけてきた。復讐心で人を殺したとしても、俺にどうこう言う資格はない。それよりも千夏から俺達の記憶が消えてしまったこと、それが何よりも辛かった。


 やがて千夏が静かに歩き出す。直後、俺達を断絶するかのように巨大な瓦礫が目の前に落下し、千夏の姿が視界から消えた。



「待て千夏!!」



 俺はすぐに追いかけようとしたが、突然身体に力が入らなくなり、俺は地面に膝をついた。先日から続く原因不明の激しい頭痛、昼山との戦闘による甚大なダメージ、そして千夏のことでの精神的ショック。俺の身体はとっくに限界を超えていた。


 だがまだ倒れるわけには……駄目だ意識が遠く……千夏……。



「秋人!? 秋人!!」

「しっかりして秋人!!」



 真冬と春香の叫び声を聞きながら、俺は意識を失った。




  ☆




 ニーベルングとの闘いを終え、三人はアジトに帰還した。それから三日が経ったが、秋人は未だに意識が戻っていない。それどころか身体の状態は悪化の一途を辿っており、体温も40度を超えていた。現在、秋人は自室のベットに横たわっている。



「秋人……!!」



 苦しげに呼吸をする秋人の右手を、真冬はずっと握りしめている。真冬はこの三日間一睡もせず、秋人の看病を続けていた。



「……秋人の容態は?」



 冷たいお茶を持った春香が部屋に入ってくる。秋人がこんな状態ではさすがの春香も高校には足が向かず、真冬の手伝いをしていた。


 真冬は力なく首を横に振る。春香は真冬にお茶を手渡した。



「真冬も少しは休んだらどう? 全然寝てないんでしょ? その間アタシが秋人を看ていてあげるから――」

「嫌!!」



 春香の言葉を遮るように、真冬は声を上げた。



「ごめん。春香が私のことを気遣ってくれてるのは分かってる。でも、怖いの。私が目を離してる間に、秋人が死んじゃうような気がして……!!」

「真冬……」



 真冬の身体が震えている。大袈裟だと言いたいところだが、秋人を見ていると本当に死んでしまうかもしれないという不安に駆られる。


 そもそも秋人がこのような状態に陥った原因が分からない。ニーベルングとの闘いの中で敵に何かされたのか、それとも何か別の要因か。真冬はありとあらゆる手を施したが、回復の兆しすら見えなかった。


 解熱剤などの薬が全く効かなかったことから、ただの病気でないことは確かだ。医者に診てもらうことも考えたが、転生杯参加者の身体(仮転生体)は一般人の身体とは性質が大きく異なるため、現代医学で治せる類ではないだろう。



「春香のスキルでどうにかならないの!?」



 真冬が必死な形相で春香の服を掴む。春香の【逆行】なら、秋人がこうなる前の状態に戻せるはず――普通はそう考えるだろう。しかし春香は首を横に振った。



「とっくにスキルは使ったわ。先日の外傷は問題なく消えたけど、結果は見ての通りよ」

「どうして!? 春香のスキルが効かなかったの!?」

「効かなかったというより、まるで何者かに阻まれてるような……。アタシにもよく分からないわ」



 このやりとりも既に三回目である。そんなことも失念してしまうほど、真冬は精神的に追い詰められていた。



「秋人、お願い。目を覚まして……!!」



 強く祈りながら、真冬は秋人の手を握りしめた。




  ☆




 ふと目を開けると、俺は不思議な空間の中に立っていた。紫色の空に、赤色の地。空中には水晶のような物体がいくつも浮遊している。初めて来たような、ずっとここに居たような、奇妙な感覚である。


 一体どこだここは。確か俺はニーベルングのビルで昼山と闘い、それから転生杯の参加者となった千夏を見つけて……。



『ここはお前の深層心理の空間だ』



 不意に一つの声が響いた。この声には聞き覚えがある。目の前で陽炎が揺らめき、やがてその中から一人の男が現れた。


 俺は目を見開いた。その姿があまりにも俺に似ていたからだ。まるで鏡でも見ているようだが、雰囲気は俺と全然違う。



「お前、大地か……!?」



 俺が問うと、そいつは小さく口角を上げた。



『そうだ。初めましてだな、秋人』



 こいつのことは夢で何度か見た。だがそれは常に大地の視点だったので、こうして姿を見るのは初めてだ。



『ようやくお前と話ができるようになって嬉しいよ。今までは僕の記憶を夢で見せて存在をアピールするくらいしかできなかったからな』

「……昼山との戦闘中にも話しかけてきたよな。あれはどういうつもりだ?」

『言っただろう、お前に死なれたら僕も困るんだ。だから救いの手を差し伸べようとしたのに、まさか拒否されるとはな。あれは驚いたよ』



 こっちは良い迷惑だ。まあいい、文句を言うよりまずこいつのことを知る必要がある。



「ここは俺の深層心理の空間と言ったな。つまりお前は俺の〝中〟にいる、ということでいいのか?」

『ああ。ここに居ても〝外〟の世界は見えないし音も聞こえてこない。入ってくる情報と言ったらお前の心の声だけ。不便なもんだ』



 心の声を他人に聞かれるってのは良い気がしないな。どうにかして追い出せないものか。




金……金が欲しい……。

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