【分身】のスキル
『そんな……貴女はそこまで読んで……!?』
「わざわざ壁を破壊してくれてありがとう。おかげで脱出できる。今から秋人と合流して貴女の所に行くから、そこで待ってて」
真冬は壊れた壁から部屋の外に出た。十中八九、広瀬は全てのコンピュータを管理している管制室にいる。これ以上引っかき回されるのは御免なので、まずは管制室のコントロールを奪う。真冬は管制室のある二階へと向かった。
ちなみに秋人と合流するというのは当然ハッタリである。それで広瀬が秋人の襲撃を怖れて管制室から離脱していれば儲けものだと思ったからだ。
「!!」
しかし管制室まで目前という時、右腕の痣が反応し、真冬は足を止めた。この先に転生杯の参加者がいる。間違いなく広瀬だ。さすがにあんなハッタリが通用するほど甘くはなかったらしい。
広瀬と遭遇すれば戦闘になる可能性が高い。広瀬の戦闘力は未知数だが、いわゆる強者と呼ばれるほどではないだろうと真冬は予測する。なんにせよ真冬の接近には広瀬も気付いたはずなので、ここまで来たら腹を括るしかない。真冬は意を決し、管制室のドアを開けた。
「えっ……!?」
真冬は声を上げた。大量のコンピュータが稼働している傍ら、一人の女が床に仰向けの状態で倒れていたからだ。あの顔は間違いない、広瀬だ。
起き上がってくる気配はない。何かの罠だろうか。真冬は警戒しつつ、広瀬に近づいていく。右腕には〝23〟の痣があった。
そして脈を図ってみたところ――既に止まっていた。毒でも服用して自ら命を断ったものと思われる。間もなく広瀬の身体は塵となり、真冬の目の前から消滅した。
殺されるくらいなら自ら死を選ぶ、といったところか。まさかあのハッタリが効いていたとは。おかげで闘わずして管制室を占拠することができた――そう素直に喜びたいところだが、真冬は不信感を抱いていた。
転生杯の参加者に選ばれた以上、広瀬も生前は悲惨な最期を迎え、何かしらの信念を持って転生杯に臨んでいたはず。それがこんな簡単に命を捨てられるものなのか、と。
しかし広瀬が消滅したことは紛れもない事実。今は真冬にできることを全うするのみ。きっと広瀬も真冬同様、他の転生杯参加者の情報を集めていたに違いない。ならばそれを盗まない手はないだろう。広瀬の仲間がここに駆けつけてくる可能性もあるので、あまり長居はできない。
真冬は管制室の中を調べ始める。先日コンピュータをハッキングした際、重要な情報は何も出てこなかった。となると何か違う形で情報を保存しているはず。もしかしたらその中に、秋人の復讐の相手である〝42〟の痣を持つ参加者の情報もあるかもしれない。
やがて真冬は一個のUSBメモリを発見した。それをノートパソコンに接続してみたところ、数字によって振り分けられた様々な人物の情報が出てきた。間違いない、これは転生杯の参加者に関する――
「!!」
背後から殺気。直後、真冬の身体を鋭利な物が切り裂いた。
「……っ!!」
まさかもう広瀬の仲間が――いや痣に反応はなかった。では一体何者か。痛みを堪えながら振り向くと、真冬は自分の目を疑った。
「あら、よく急所を避けたわね」
そう。そこに立っていたのは、死んだはずの広瀬だった。
「私が苦労して集めた情報を盗もうとしてたでしょ? まったく泥棒もいいとこね」
「なん……で……!?」
真冬は広瀬から距離を取り、右手で出血部位を押さえる。咄嗟に身体を捻らせたので致命傷には至らなかったが、決して小さなダメージではない。
「そんなに驚くことかしら。まさか私があんな見え透いたハッタリに怯えて自害したと本気で思っていたの? 私も舐められたものね。これは返してもらうわよ」
広瀬がUSBメモリを引き抜く。確かに広瀬は真冬の目の前で消滅した。思えば広瀬のスキルはまだ判明していない。何か幻術でも見せられていたのかと真冬は推察する。
「ふふっ、考えてる考えてる。答えはこれよ」
広瀬が指を鳴らすと、広瀬と全く同じ姿をした人間が出現した。しかもその数は一人や二人ではない。
「私のスキルは【分身】。さっき消滅したのはただの私の分身よ。まんまと引っ掛かってくれたわね」
「……そういう、こと」
あっという間に広瀬が十一人に増えた。広瀬の【分身】は最大十人まで自らの分身を生み出すことができるのだ。
「自分の戦闘能力が皆無だからって、私も同類だと思った? 確かに私個人の戦闘能力は大したことないけど、こうして数を増やせばその欠点も十分に補える。少なくとも貴女一人を殺すくらい造作もないわ」
十一人の広瀬が一斉にナイフを構える。
「貴女のスキルが記憶を読み取る能力しかないことは既に調べがついてる。この状況じゃそのスキルは何の役にも立たないわね」
「……頭脳戦では勝ち目がないから力ずくで決着をつけようだなんて、情けないとは思わないの?」
「何とでも言うがいいわ。そもそも転生杯ってそういうものじゃない。言ったでしょ、最後に笑うのは私だって。貴女はここで終わりよ」
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