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【書籍化&】冤罪で死刑にされた男は【略奪】のスキルを得て蘇り復讐を謳歌する【コミカライズ決定】  作者: ダイヤモンド


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鬼ごっこ

「しかし妙だな。一般人ならば転生杯に関する記憶は全て消されるはずなのに、どうやら君はそうではないようだ。どうして君だけ例外なのか実に興味深いが、まあそれは置いておこう」



 向井はゆっくりと部屋の中を見回す。ようやく助かると思って泣いていた子供達も、向井が現れてからはすっかり竦み上がっていた。



「君は子供達をここから連れ出そうとしていたのだろう? 悪いけど、この子達は大事な実験道具なんだ。そう簡単に手放すわけにはいかなくてね」

「実験……道具……!!」



 子供達を人間とも思っていないような発言に、思わず千夏の拳に力が入る。



「というわけでお引き取り願おうか――と言いたいところが、ここまで我々のことを知られてしまった以上、ただで返すわけにはいかない。分かる……よね?」



 向井の口元が歪む。自分の命が危ないと千夏は瞬時に理解した。子供達を見捨てるわけにはいかないが、ここで千夏が殺されてしまっては元も子もない。子供達を巻き込まない為にも、千夏が取るべき行動は――



「皆さんごめんなさい!! 必ず、後で必ず助けに来ますから!!」



 苦渋の決断だった。千夏は反対側のドアから部屋を出て、走り出した。



「ははははは!! そうだ逃げろ逃げろ!! お前は月坂秋人達を誘き出す為の餌だ、そう簡単に殺しはしない……!!」



 人が変わったように笑う向井。その気になれば千夏を殺すことなど容易い。だがこの女が生きている限り月坂秋人達は必ず助けに来ると向井は踏んでいた。そしてそれこそが向井の真の狙いであった。



「さあ、楽しい鬼ごっこの時間だ!!」



 向井は悠然と、千夏の後を追い始めた。





「千夏!! 返事をして千夏!!」



 スマホに向かって必死に呼びかける真冬。しかし何度やっても繋がらない。ビルの内部を映していたモニター画面も、今は真っ暗だった。



「ジャミング……!!」



 真冬は歯噛みする。敵側のジャミングによって通信もハッキングも妨害されている。これでは千夏と連絡を取ることもできず、千夏の状況も分からない。狙い澄ましたかのようなタイミング、やはり罠だった。



 絶望の表情で、机に両手をつく真冬。こうなっては今の真冬には何もできない。残された手は――




  ☆




「っ……ああっ……!!」



 気付けばもう、夜中の三時を過ぎていた。俺は今、あまりにも激しい頭痛にベッドの上で悶え苦しんでいた。


 昨日薬局で鎮痛薬を買って飲んだが、まるで効き目がなかった。生前はドラッグストアに勤めていたので、これでも医薬品の知識はそれなりにあるつもりだが、どうやら薬でどうにかなる類の頭痛ではないようだ。何をどうすればこの頭痛は治まるんだ……!?


 そんな時、ドアの向こうから叫び声のようなものが聞こえてきた。真冬の声だ。こんな時間に一体どうしたのか。一瞬他の参加者が襲撃してきたのではと冷や汗をかいたが、痣に反応がないのでそれはないだろう。どうせ眠れないし、ちょっと様子を見に行くか。



「あら秋人」



 頭を抱えながら部屋を出ると、廊下で春香と出くわした。



「こんな時間にどうしたの? おしっこ?」

「なんか真冬の声が聞こえてから、様子を見にな。あと女の子がおしっことか言うんじゃありません」

「アタシも真冬の声で目が覚めちゃったのよね。何かあったのかしら。それはそうと頭でも痛いの秋人?」

「え? ああ、その、寝てる時にベッドから落っこちてな」

「ドジっ子ねえ」



 俺と春香は真冬の部屋に寄ってドアをノックしたが、返事はなかった。ここにいないとなると、作戦会議室か? 声もそっちの方から聞こえてきた気がする。


 続いて作戦会議室に向かってみると、ドアの隙間から明かりが漏れていた。やはりここにいるようだ。



「入るわよ真冬」



 ドアを開けると、そこには机に両手をついて項垂れる真冬の姿があった。明らかに何かあった様子だ。



「真冬、何してるんだ?」

「……秋人……春香……!!」



 真冬は振り返るなり、今にも泣きそうな顔で俺の胸に飛びついてきた。



「ま、真冬!? どうした!?」

「お願い秋人!! 千夏を……千夏を助けて!!」

「千夏……!? 千夏に何かあったのか!?」



 俺は真冬から全てを聞かされた。千夏が子供達を助け出す為にニーベルングのビルに潜入したこと。それが向井達の罠であったこと。千夏が危機的状況に置かれていること――



「な……んで……」



 しばらく俺は現実を受け止めることができず、唖然としてしまった。



「なんで千夏がそんな……!! 真冬は全部知ってたのか!?」

「……っ」



 恐る恐る、真冬が頷く。思わず俺は真冬の肩を掴んだ。



「どうして止めなかった!? それがどんなに危険なことか真冬なら分かるだろ!!」



 俺の知っている真冬なら絶対に止めたはずだ。真冬は誰よりも冷静な判断力を持っているからだ。だから真冬がそんな作戦に加担していたなんて、とても信じられなかった。



「……った、から」

「は!?」

「千夏の気持ちが……痛いほど分かったから……」



 震える声で、真冬はそう言った。



「……!? 何を言って――」

「はいはいそこまで!」



 春香が手を叩きながら俺と真冬の間に割って入ってきた。




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