きっかけ
「お見事。相変わらずの戦闘力ね、昼山」
「……本当にいいのか? せっかくお前が作ったロボット達をこんなに破壊してしまって」
「それ、全部壊した後に言うこと? まあ暇潰しに作っただけだし、別に構わないわよ」
技術力の広瀬。科学力の兵藤。戦闘力の昼山。そして彼らを束ねる向井。この四人は転生杯においても隙のないチームであった。
「それにしても、昼山のスキルはいつ見ても変わってるわね。貴方のスキルだけは子供達に取り込ませても誰一人扱えないって、兵藤が嘆いてたわ」
「だろうな。子供達といえば……今日も地下で実験が行われているのか?」
「でしょうね。そっちは兵藤の管轄だから私はノータッチだけど、それなりに順調みたいよ。やっぱり戦闘要員としては機械より人間の方が優秀みたい。ロボットはスキルとか使えないしね」
何か思うところがあるように、昼山は腕を組む。
「……どんなことが行われているのか、一度この目で見てみたいものだな。まだ地下に入れてもらえないのが残念でならない」
「それはしょうがないわよ、貴方は私達の一員になって日が浅いんだから。貴方はまだ向井様から完全に信用されてないってこと。せいぜい子供達に負けないくらい働いて、向井様の信頼を得ることね」
「……そうだな」
「ちょっと待ちなさい昼山」
ルームから退室しようとする昼山を、広瀬が呼び止めた。
「何だ?」
「何だじゃないでしょ。掃除がまだ終わってないわよ」
床に散らばった大量のロボットの残骸を指差す広瀬。
「……俺がやらないといけないのか?」
「当たり前でしょ。お片づけは散らかした人の仕事って子供の頃に教わらなかったの?後は頼んだわよ」
そう言い残し、広瀬はルームから退室した。昼山は箒とちりとりを持ってきて、黙々と掃除を始めたのであった。
☆
真冬がニーベルングの陰謀を突き止めた次の日。俺達は普段と変わらず高校に通い、授業を受けた。何か向井達に繋がる情報が手に入ったらすぐに連絡すると真冬は言っていたが、放課後になっても真冬からの着信はなかった。どうやら難航しているようだ。
「あっ、秋人さん」
「……おお、千夏」
帰宅しようと校舎の玄関まで歩く途中、千夏とばったり出くわした。
「今日は生徒会の仕事はないのか?」
「はい、今日はお休みです。春香さんは一緒じゃないんですか?」
「アイドル部の練習があるんだと」
まったく春香の奴、こんな状況だというのに熱心なことだ。まあ普通に登校してる俺も人のことは言えないかもしれないが。しかしまだニーベルングには攻め込めないし、今の俺にできるのは、再びこの学校が戦場にならないように警戒することくらいだ。
「えっと……。それじゃ、一緒に帰るか」
「そ、そうですね」
千夏と肩を並べて校門を出る。こうして二人で歩くのは、この前出かけた時以来だ。あの日のラブホテルでの出来事がどうしても頭を過ぎってしまう。だいぶ気まずい空気はなくなってきたが、今もなかなか言葉が出てこなくて無言が続いている。
俺、以前は千夏とどんなふうに話してたっけ。とりあえず何か話題を……。そうだ、しりとりをしよう。会話に困った時はこれに尽きる。
「……秋人さん」
どの文字から始めようかと考えていたその時、千夏が先に会話を切り出してきた。
「その……。あの時のことは、本当にすみませんでした」
「あの時って……あの時か?」
「はい。あの時の私はちょっと冷静さを失っていたといいますか、秋人さんの気持ちも考えずに一人で突っ走ってしまって、秋人さんに御迷惑を……」
「い、いやいや! そんな気にしなくていいから!」
これは驚いた。あの時のことは俺達の間では完全にタブーだと思っていたが、まさか千夏からそこに触れてくるとは。
「なんで急に、そんなことを?」
「どうしても一度、謝っておきたくて。真冬さんや春香さんと違って私には何の力もないので、秋人さんの為に私ができることといったら、ああいうことしかなくて……。すみません、こんなの言い訳ですよね」
苦笑いを浮かべる千夏。それを見て俺は、千夏に対して自分が抱いている気持ちを素直に伝えようと思った。
「そんなことはない。今の俺が在るのは、千夏のおかげだからな」
「えっ……どういう意味ですか?」
「……そういえば、千夏にはまだちゃんと話したことなかったな。俺の生前のこと」
俺は自分が冤罪で死刑になるまでの経緯を千夏に話した。千夏は終始神妙な面持ちで、俺の話に耳を傾けていた。
「ごめんな。こんなの聞かされても面白くないよな」
「いえ、そんな……。春香さん達からなんとなく話は聞いてましたけど、とても不幸な目に遭われたのですね……」
「だから転生杯の参加者としてこの世に蘇った時、それはもう憎しみと怒りで頭がいっぱいでさ。復讐のことしか考えられなくなってたんだ」
夕焼けに染まっていく空を見上げながら、俺は言葉を続ける。
「だけど今はそうじゃないっていうか……。勿論、復讐の感情が消えたわけじゃない。ただ、それだけじゃなくなった。それはきっと、千夏との出会いがきっかけだったと思う」
「私……ですか?」
不思議そうな顔で、千夏が俺を見つめる。
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