春夏秋冬
「あのなあ、そんなの今決めることじゃないだろ。空気を読め空気を」
「で、アタシ色々と考えてきたんだけど!」
聞いてないし。俺は真冬と目を合わせ、頷いた。しょうがない、闘いの前の余興として付き合ってやるか。
「……言ってみろよ」
「『アルティメット・メモリー』なんてどう!? いいと思わない!?」
「思うか! 何だよ『究極の記憶』って! せめて意味が通じるやつにしろ!」
「カッコよければ意味なんてどうでもいいでしょ」
「まずカッコいいのかそれ……?」
「じゃあ『アルティメット・アビス』は?」
「却下!」
「ならもう『アルティメット・ロマノフ』でいいわよ」
「よくない! つーかどんだけアルティメット付けたいんだよ!」
俺は溜息を禁じ得なかった。春香のネーミングセンスがここまで壊滅的だったとは。
「何よさっきから文句ばっかり! だったら秋人達も案を出しなさいよ!」
「そう言われてもな……。真冬、何かないか?」
かく言う俺もネーミングセンスは大して自信がないので、真冬に振ってみた。
「パッと思いついたのは、『社蓄の連勤術師』とか」
「絶対ふざけてるよなそれ!? なんかパクリ臭すごいし!」
「……千夏、任せた」
「わ、私も案を出していいんですか?」
「当たり前じゃない。遠慮しなくていいわよ」
「ありがとうございます。えっと、そうですね……」
頼んだぞ千夏。この中でまともなのは千夏だけなんだ。
「では『南無妙法連華経』なんてどうでしょうか?」
「千夏!?」
「す、すみません。ここはボケる流れかと思いまして……」
いやそんな流れに乗らなくていいから。前から思ってたけど千夏って意外とノリ良いよな。
「でも、こういうのってそれぞれの名前から一文字ずつ取ったりしますよね」
「名前から一文字ずつ、か……。あっ」
「何か良いの浮かんだ秋人?」
「いや、そういえば四人とも名前に季節が入ってるなと思って」
「春香、千夏、秋人、真冬……。確かに、全然気付かなかったわ! 凄い偶然ね!」
「せっかくだしチーム名は『春夏秋冬』でどうだ?」
「ん。異議なし」
「ちょっと安直な気がするけど、まあいいわ」
春香にだけは言われなくないっての。
「あ、あの……」
チーム名が決まりかけたその時、千夏が申し訳なさそうに小さく手を挙げた。
「なに? 千夏ちゃん」
「私の名前も入ってますけど、いいんですか? 転生杯の参加者でもないのに……」
「何言ってんのよ。千夏ちゃんも立派なアタシ達の仲間でしょ? 参加者がどうとか関係ないわ。むしろ入ってない方がおかしいでしょ。ねえ二人とも」
「ああ。そもそも千夏の案だしな」
「ん。春香の言う通り」
「あ、ありがとうございます……!」
目を潤ませながら、千夏は頭を下げた。
「あ、勿論リーダーはアタシだから! チーム名も春香の春が一番最初だし!」
「関係あるかそれ……?」
ぶっちゃけリーダーが誰かなんてどうでもいいので、春香がリーダーということで異存はなかった。
斯くして俺達のチーム名は『春夏秋冬』に決定した。あれ、でも春香はあと一人転生杯の参加者を仲間にするとか言ってたし、そうなったらこのチーム名だと困る気が……。まあ、その時はまた考え直せばいいか。
「チーム名も決まったことだし、俺はそろそろ行くよ」
「あっ……秋人さん!」
出陣の準備のために部屋を出ようとした俺を、千夏が呼び止める。
「その……。む、無茶はしないでくださいね」
「……ああ」
千夏とは依然として気まずい空気だが、それでも俺の身を案じてくれていることが、なにより嬉しかった。
夜の十一時過ぎ、俺は例の路上に到着した。幸いアジトからはそれほど離れておらず、歩いて四十分ほどだった。周囲に人の気配もないので、仮に戦闘になったとしても一般人を巻き込む心配はなさそうだ。
『秋人。私の声、ちゃんと聞こえてる?』
俺は真冬の声に頷く。愛城と闘った時と同様、真冬がアジトから路上の監視カメラをハッキングして俺の周辺の状況を把握し、インカムで俺に指示を送ってきてくれる。相手が本当にただの子供なら痣が反応することはないので、今回は真冬の声が頼りだ。
それから一時間ほど適当に彷徨いてみたが、今のところ野良猫を一匹見かけたくらいで、何も起きる気配がない。こんな真夜中に子供が一人でいたら明らかに不自然なので、現れたらすぐに真冬が気付くはずだ。
やはり二日続けて同じ場所に現れるなんて都合の良い話はないか。俺も大して期待していなかったし、また日を改めて――
『いた、子供!!』
インカムから真冬の声が響いた。マジで現れたのか!
『そこの道を真っ直ぐ! 突き当たりを左に曲がって!』
俺はすぐさま真冬の指示通りに動き、子供が現れたという場所に急行した。どこだ、どこにいる……!?
『秋人後ろ!!』
真冬の声で振り向くと、凄まじい速さで俺に突進してくる一人の子供が視界に飛び込んできた。咄嗟に俺は横に跳んで回避する。
「女の子……!?」
同時に俺は目を見張った。そう、それはどう見ても女の子だった。真冬が見せてくれた映像に映っていたのは男の子だったはず。利用されている子供は一人だけじゃなかったのか……!!
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