2回目のデート
「秋人くん! 千夏ちゃんから秋人くんに言いたいことがあるんだって!」
「千夏が、俺に?」
「さあ千夏ちゃん!」
「えっと……その……」
なにやら千夏は顔を赤くしてモジモジしている。そんな千夏を見て朝野はむず痒そうな顔をしていた。
「……ええい、じれったいにゃ! 秋人くん、千夏ちゃんが秋人くんとデートしたいんだって!」
「えっ!?」
「でででデートというか、一緒にお出かけとかできたらなって……!!」
「いやまあ、それくらい全然構わないけど」
「ほ、本当ですか!?」
「やったね千夏ちゃん!」
軽くハイタッチした後、再び廊下の端に移動する千夏と朝野。
(上手くいったね千夏ちゃん!)
(は、はい。ありがとうございます……)
(ようし、ここは私も一肌脱ぐよ! 二人の仲が更に深まるように、デート中にサプライズを用意してあげる!)
(サプライズ、ですか? 一体何を……)
(それを言っちゃったらサプライズにならないにゃ! まー楽しみにしておいて!)
☆
翌日の日曜日。俺と千夏は敢えて時間をズラしてアジトを出て、前回と同じ待ち合わせ場所に集合した。春香達に知られたらまた色々と面倒なことになりそうだし、あの二人には内緒だ。
「こうして千夏と二人で街を出歩くのは二度目だな」
「はい。今日は私のワガママに付き合ってくださって、ありがとうございます……」
「ははっ、そんな畏まらなくていいって。千夏には今回色々と世話になったしな。まずは食事にするか?」
「そ、そうですね」
俺達はレストランに入り、適当にメニューを注文した。
「……実はずっと、千夏に謝りたいことがあったんだ」
ふと俺が切り出すと、千夏は目を丸くした。
「私に謝りたいこと、ですか?」
「ああ。ほら、千夏は他の一般人と違って、何故か転生杯に関する記憶を消されたりしないだろ? だから俺は千夏が転生杯の参加者じゃないかって疑ってたんだ」
「私が……?」
「だから前回一緒に出かけた時、その真偽を確かめる為にあの手この手で千夏の右腕を見ようとした。転生杯の参加者なら右腕に数字の痣があるはずだからな」
結局どれも失敗に終わって、最後は力業になってしまったけども。
「それでは、腕フェチだから腕を見せてほしいと私に言ったのも……」
「……そういうこと」
「ふふっ、そうだったんですね。なんだか納得しました」
今振り返ってもかなり無理があるな。普通の女子だったらドン引きだろう。
「つまり俺はその目的の為に、俺にお礼をしたいっていう千夏の気持ちを利用していたことになる。まったく、最低な男だよな。本当に悪かった」
「そ、そんな謝らないでください! 私は秋人さんと食事をしたり遊んだりできただけで十分嬉しかったので! だから気にしないでください!」
思わず涙が出そうになった。なんて良い子なんだ。天使というのは千夏のような女の子のことを言うのだろう。
「でも、もし本当に私が転生杯の参加者だったら、私も春香さん達のように秋人さんを支えることができたかもしれませんね……」
「えっ……」
短い沈黙の後、千夏はハッと我に返った顔をした。
「な、なーんて! 私には誰かと闘ったりなんて絶対無理ですし、すぐに脱落しちゃいますよね! すみません変なこと言って!」
「……ははっ。千夏も冗談を言ったりするんだな」
転生杯の参加者じゃなくても、千夏は十分俺のことを支えてくれてるだろ。そう口にしようとしたが、なんだか気恥ずかしいので思い留まった。
「とにかく今日は裏事情とか何もないから安心してくれ! 純粋に楽しもう!」
「はい!」
食事を終えると、俺と千夏はグランドワンに向かった。ここには前回も行ったが、あの時は春香の指示に従っていただけだったしな。俺達は宣言通り、様々なアミューズメントを純粋に楽しんだ。
それから映画を観たりゲームセンターで遊んだりしていると、気付けば夕方になっていた。なんか結局、前回とやってることがほとんど変わらなかったな。まあ千夏は楽しそうにしてたし、俺も楽しかったから良しとするか。
「ところで千夏って、どうして生徒会に入ったんだ?」
ふと、俺はそんなことを千夏に聞いてみる。
「去年の生徒会選挙の時、沢渡さん達の悪ふざけで無理矢理立候補させられたんです。そしたら何故か当選しちゃって……」
千夏は自分から表舞台に立つようなタイプではないと思っていたが、あいつらの仕業だったのか。千夏ほどの美少女なら何もしなくても票が集まりそうだ。
「ごめんな、嫌なことを思い出させて」
「い、いえ! 最初は憂鬱でしたけど、今はやり甲斐を感じています。書記なのでそんな大層なことはしてませんけど、生徒会に入ってよかったと思っています」
「ははっ。それは沢渡達も想定外だっただろうな」
「かもしれません。あっ、そういえば沢渡さん達が突然いなくなったのって、やっぱり秋人さんが関わって……」
「ん!? いや俺は本当に何も知らないぞ!?」
「……そう、ですか」
俺が沢渡達を殺したことは、千夏にはまだ話していない。仮に話したとしても千夏は受け入れてくれそうだが、一般人を手にかけたことを千夏に知られるのは、なんだか抵抗感があった。






