退学の危機?
「どう? 美味しいでしょ?」
「あ、ああ……」
ちっ、今回だけは許してやるか。しかし春香の飲みかけのお茶といい、今日はやたらと間接キスの機会に恵まれてる。
「そうそう、聞いてよ千夏ちゃん。秋人ったらこの前の中間テスト、全教科赤点だったんだって」
「ぜ、全教科ですか!?」
「にゃっはっは! ○び太くんみたいだにゃ!」
「おい春香、そんな言い触らすなよ」
「あら、駄目だった? それは悪かったわね」
「別に駄目ってわけじゃないけどさ……」
自分から言う分には何とも思わないが、他の人に言われるとあまり良い気持ちはしないものだ。
「ちなみに千夏ちゃんはどうだった? 中間テスト」
「私は学年で9番目でした」
「へえ、千夏ちゃんもやるわね!」
なんか俺と一緒に住んでる女子達ってやたら頭良くない?
「確か赤点の人は次の土曜日に再テストを受けなきゃいけないんでしょ?」
「ああ、面倒だよほんと。どうせまた赤点ばっかりだろうしな。ははっ」
「……秋人さん。それはちょっと、笑い事じゃないかもしれません」
いつになく真剣な顔つきで千夏が言った。
「千夏? どういう意味だ?」
「うちの高校、結構そういうのに厳しくて……。その再テストでまた赤点を取ってしまったら、今度は再々テストを受けさせられるんです。その再々テストでも赤点を取った場合は……」
「赤点を取った場合は?」
「……退学になります」
「なん……だと……」
俺は固まった。ちょっと前なら喜んで退学を受け入れただろうが、状況が変わった今となっては、退学になるのは困る。
「そうだ。真冬なら職員室のパソコンをハッキングして、俺の成績表のデータを書き換えたりできるかも……」
「うわっ、発想が最低ね」
「……冗談だよ」
退学を免れるには、ちゃんと勉強して赤点を回避するしかないということか。しかし今の俺の学力では一人で勉強してどうにかなる気がしない。
「……春香。俺に勉強を教えてくれないか」
「嫌よ、アタシ人に教えたりするの苦手だし。お願いするなら他の人にして」
「……そう言うと思ったよ」
困ったな、同学年で他にお願いできそうな奴といったら圭介くらいしかいないぞ。その圭介も赤点ギリギリだったし、それ以前にあいつに教わるのはなんか腹立つ。
その時、朝野が何かを企むような顔で、俺と千夏を交互に見ていることに気付いた。
「な、なんだよ朝野」
「んーん、別に。千夏ちゃん、ちょっとこっち来て!」
「あ、朝野さん!?」
朝野が千夏の腕を引っ張り、俺と春香から距離を取る。
(ねーねー。千夏ちゃんってさ、秋人くんのこと好きでしょ?)
(はい!? ななな何ですか突然!?)
(その反応は当たりだね。まー初めて会った時から薄々気付いてはいたけど)
(……どうして分かったんですか?)
(だって秋人くんと話してる時の千夏ちゃん、すっごく乙女の顔なんだもん。あれは誰だって気付くにゃ)
(そんな顔してました!? うー、なんだか恥ずかしいです……)
(これはビッグチャンス到来だよ千夏ちゃん! 千夏ちゃんが秋人くんに勉強を教えてあげるにゃ!)
(私がですか!?)
(そっ。きっと秋人くんとグッと距離を縮められるはずにゃ!)
(で、でも……)
(大丈夫、自信を持って! 秋人くんと千夏ちゃんって結構お似合いだと思うし、応援してるにゃ!)
会話の内容は聞こえないが、なにやら盛り上がっている様子だ。
「あの二人って、あんなに仲良かったかしら?」
「さあ……」
春香と待つこと数分、千夏と朝野が戻ってきた。
「秋人くん! 千夏ちゃんが秋人くんに勉強を教えてくれるって!」
「えっ、本当か千夏?」
「は、はい。私でよければ……」
「でもいいのか? 千夏は三年なんだし、今更二年の勉強を教えるのは手間なんじゃ……」
「だ、大丈夫です! 私もちょうど二年生の頃の復習をしたいと思ってましたから! 人に教えるのも勉強になりますし!」
「……そうか。千夏がそう言ってくれるなら、お言葉に甘えようかな」
俺がそう答えると、何故か朝野が小さくガッツポーズをした。
(やったね千夏ちゃん! あとは千夏ちゃんの頑張り次第にゃ!)
(は、はい。頑張ります……)
また小声で何か話してる。朝野め、一体何を企んでるんだ。まあいい、千夏なら優しくかつ丁寧に勉強を教えてくれそうだし、俺としても申し分ない。きっと良い先生になってくれるだろう。
しかしアジトに帰宅してからの夕食後に、ちょっとした事件が起きた。
「秋人さん。再テストまであまり時間がありませんので、今日から早速始めてもいいでしょうか?」
「ああ、勿論。よろしく頼む」
「こ、こちらこそ」
「んじゃ、どの部屋でやろうか……」
「待って」
そこで真冬が俺と千夏の会話に割り込んできた。
「ん? どうした真冬」
「二人とも、さっきから何の話をしてるの?」
「ああ、実は……」
俺が事の経緯を話すと、真冬はいかにも不機嫌そうな顔をした。そうだよな、再テストに向けて勉強するなんて、端から見たら転生杯そっちのけで学校生活に現を抜かしてるようにしか見えないだろう。
「聞いてくれ真冬、一応これには理由があって――」
「勉強のことなら、どうして私を頼らないの?」
そっち!?
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