リストバンド
「お待たせ! どう秋人?」
リビングに戻ってきた春香が俺に夏服姿を見せつけてきた。思わず俺はそれに見惚れてしまう。
「おお……。なんというか、春香は何を着ても絵になるな」
「でしょー? ちなみに下着も夏っぽくしてみたんだけど、どう?」
春香はぴらりとスカートを捲り、俺に水色のパンツを見せた。
「ぶっ!? だからそういうことすんのやめろって言ってるだろ!」
「そんなこと言って、本当は嬉しいくせに」
「そりゃ嬉しいに決まってゲホッゴホッ!」
「まったく。毎日のようにアタシの裸を見てるくせに、今更パンツくらいで興奮してどうすんのよ」
それとこれとは話が別だ。裸には裸、パンツにはパンツの良さというものが……。いや何言ってんだ俺。
「てかスケスケすぎるだろそれ! 学校にそんなの穿いていくな!」
「えー、駄目? 相変わらず秋人はお堅いわね。それよりなんで秋人が女子の夏服着てるのよ。そういう趣味あったの?」
「……ノリだよ」
その後ちゃんと真冬から男子の夏服を渡され、俺はそれに着替えた。しかしここである問題に気付く。
「これじゃ痣が丸見えだな……」
夏服は半袖なので、参加者の証である〝88〟の痣がモロに露出してしまう。他の生徒にこれを見られたら面倒なことになるのは間違いない。今までは長袖で自然に隠れていたから、気を付けるのは体育の着替えの時くらいでよかったが……。
「アタシはリストバンドで隠すわ。ライブの時とかもそうしてるし」
痣が隠れるように赤色のリストバンドを付ける春香。それはそれで不自然に思われそうだが、何もしないよりはマシだろう。
「ほら、秋人にもあげる。これの色違いよ」
春香が俺に青色のリストバントを差し出した。
「……厚意は嬉しいけど、遠慮しとく」
「何よ、アタシとお揃いがそんなに嫌なの?」
「そういうわけじゃないけど、お揃いのリストバンドなんて付けてたら絶対変な噂が立つだろ」
「別にいいじゃない。何か問題ある?」
「問題大ありだ!」
ただえさえ俺達の関係は疑われているのだから、もし付き合ってるなんて誤解された日には、はるにゃんファンから殺されかねない。
「まあ、俺は適当に何か巻いとくよ。包帯ってあるか?」
「ん。あの棚の引き出しに入ってる」
「サンキュ真冬」
そんなわけで、俺は右腕に包帯をグルグル巻いた。何か聞かれたら火傷をしたとか答えとけばいいだろ。
「うわっ、なんか中二病っぽいわね。高二でそれはキツイんじゃない?」
「ほっとけ」
そういえば千夏がまだ俺のことを何も知らなかった頃、痣を誤魔化そうとして右腕に力を封印してるとかどうとか言ったことがあったっけ。これじゃ本当に何か封印しているみたいだ。
「それより下着はちゃんと履き替えたんだろうな?」
「ええ。これなら文句ないでしょ?」
「だ、だからそうやって見せるんじゃない!」
「あっ、もうこんな時間。そろそろ出るわよ秋人」
「……ああ。真冬、いってきます」
「ん。いってらっしゃい」
真冬に見送られ、俺と春香はアジトを出た。およそ二週間ぶりの登校か。こうして駅までの道を歩くのも、随分と久し振りに感じてしまう。
「もう六月かー。夏本番に向けて今の内に水着とか買っちゃおうかしら」
「…………」
「秋人? 聞いてる?」
「え? ああ、うん。いいんじゃないか」
「まったく。久々の学校なんだからシャキッとしなさいよね」
俺には雪風との闘い以来、ずっと気掛かりなことがあった。ちょうど春香と二人きりになったのでそれをどう切り出そうか考えていたのだが、上手く言葉が見つからない。
「春香。なんというか、その……。大丈夫か?」
「大丈夫って、何が?」
「春香の復讐の件だ。復讐の相手と思っていた雪風が、実は全くの無関係だった。そのことでショックを受けてるんじゃないかと思ってな」
春香の復讐は振り出しに戻ってしまった。何でもないように振る舞っているが、本当はかなり落ち込んでいるのでは――
「いたっ」
春香が俺に軽くデコピンをした。
「なーに余計な心配してんのよ。確かに復讐を果たせなかったのは残念だけど、それで一々落ち込んだりしないわ。転生杯で生き残ってる限り、いずれ必ずあいつはアタシの前に現れるはず。それがちょっと先延ばしになったというだけよ」
「……そうか」
「というか秋人はアタシより自分の心配しなさいよ。秋人の復讐の相手だって、まだ全然正体を掴めてないんだから」
「ああ」
どうやら杞憂だったようだ。だが春香の証言によれば、犯人が氷系スキルの使い手ということは間違いない。雪風が犯人ではなかったとすると、似たようなスキルを使う奴が他にもいるということだろうか。真冬の情報では、参加者のスキルが被ったり似通ったりするケースは今のところ確認されていないようだが……。
「ところでどう? 新しく手に入れたスキルの使い心地は」
「んー、ボチボチかな」
雪風との闘いで、俺は二つのスキルを獲得した。この五日間もスキルの自主練は欠かさずやっていたので、スキルの効力はだいぶ把握することができた。
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