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議会は踊り、俺の心は揺れている。

 俺の超高速脳内会議が急遽開催される、この状況は俺にとっては非常に宜しくない結果しか生み出さないので、忌憚ない意見をシックス・センス(もうひとりのぼく)にも求めてみた。


  その時、ブルックリンの脳内に名案が浮かび華麗に対処する。

→ 女関係で華麗に対処?そんなん出来りゃとっくの昔に童貞辞めてるわ。


 脳内議員はほぼノータイムで「うん、そうだよねー知ってた」と言いたくなるような結果を導き出して、諦めという言葉で出来た笑顔で完全降伏を宣言する。


「どうしました?さっきから顔が少し赤いような気がしますけど……」 


「お願いだから気にしないでくれ……」


 真剣さの中に優しさが篭った両目に見つめられ、自分の顔が益々熱くなるのを感じてしまう。


 仮にこの部屋が薄暗くなければ、ブルックリンの白い肌が羞恥でピンク色に染まってる現状を彼女に知られていただろう。


 そんな恥ずかしい事実を知られずに済んでよかったが、同時にオイルランプの仄暗い明かりのせいで、部屋がムード満点で漂う空気がピンク色なんだけどな!


「そろそろ君は、自分の部屋に戻った方がいいんじゃないか?」


 俺は脳内に浮かんだセルフ突っ込みを噛み殺しながら、メリッサに自分の部屋へ帰れと言ってみた。


 だってさ、これ以上メリッサが居たら何言っていいか分かんないし、俺のキャラが崩壊する様なボロが出る前に帰って欲しいです。


 夏場の死に掛けの蝉くらい弱りきった、俺の偽りない本音にメリッサが子供を見つめる母親のような視線を向けてくる。


「そんなに必死になって……、本当に可愛い人……」


 お願いですからもう心読まないでくれませんか?これ以上読まれたらもう生きて居られんのですよ、割りとガチで。


「ほら、余計なことを考えてないでそろそろ帰れ」


 言いながら互いの触れていた肌を離すと、俺の肌や着ている高級そうなお仕着せの衣装越しに感じてた彼女の持つ柔らかさと温もりが消え、名残を惜しむように花のような甘い香りを移して離れていった。


 無くしてしまった温もりを少し惜しいと感じてしまうほど、俺は彼女の全てに魅了されてしまったのかもしれない……。


 普段の自分なら絶対に出てこないであろう感想に、随分と馬鹿なことを考えていると驚いている俺の耳元に、彼女はベッドから離れる直前一言だけ残した。


「私の今の気持ちは貴方と同じものです……」


 暖かな吐息混じりに囁かれ言葉は、まるで俺の心を鷲掴みにするようなものだった。


 彼女の気持ちが自分と同じだと言われた瞬間、自分の耳を抑え飛び跳ね言葉にならない悲鳴と共に部屋の角まで逃げ出した。

 

「ウヒャアア!?」


 混乱する頭に彼女の言葉が何度もリフレインして、胸の奥でアクセル全壊した心臓が馬鹿みたいに動いて息が詰まりそうで苦しくなる。


「私、今まで男の人は怖いものだとばかり感じていました」


 部屋の片隅で混乱する情けない俺を見つめ、彼女が語りかける言葉はライブで聞いたフットドラム並に煩くリズムを刻む鼓動の中でも、確りとした音色で耳に届いてくる。


「でも……、貴方が私を、私に触れる事を怖がっている姿を見て、何故か愛おしく感じています……、こんな気持ちは初めてです」


 だ~か~らぁ、なんでこの処女ビッチは余裕綽々なん?こんなの、こんなって可怪しいですよ!


 部屋の片隅で真っ赤な顔して、自分の耳を押さえるブルックリンは陰険な顔の準イケメンという程度、間違っても可愛いという言葉が似合うキャラではない……、筈だ。


「ふっ、ふざけるな!俺はお前など怖くはないぞ!」


 べ、別に怖く感じることなど無いし、仮に童貞と処女だったら、こう言う展開の時は童貞の方がアグレッシブで強いんだぞぅ……、多分。


 なのにこんなにコイツにやり込められて居るのって、実は処女ビッチに対抗するには30年近く熟成したはずの童貞力でも足らないの?


 いや違うっ、結論として目の前のメリッサは特殊な性癖であり、俺の常識は通用しないんだ!だってさ、そうじゃないと怖すぎるだろ!


 仮にもし処女でもこんなにアグレッシブな世界だと、経験済みの女性ならもっと凄いんだろ?それこそ俺みたいなレベルだと問答無用で食い散らかされて、ベッドの上で泣く未来しか見えないよ?


 あ、でもこの世界って、アリス嬢を筆頭に耳年増メイドたちもこういった男女の交際的な事に結構アグレッシブなんだよね……、今の俺が知ってる限りだと、恋愛脳っぽくない若い女ってお嬢様位だったわ……。


 今まで遭遇した女性陣の思考を思い返して自分の今後について頭を抱えそうになっていると、目の前の問題(メリッサ)がゆっくりと動き出した。


 静かにシーツの上で四肢を滑らせる姿は淫靡さとは違う美しさがあり、何故か俺はその姿から目を話すことが出来きず、呆けたように見つめてしまった。


「そのように殿方に熱心に見つめられたのは初めです」


 (いささ)か不躾になってしまった視線を窘めるためか、メリッサが声を出す。


「見つめられるのは少し照れ臭いですが、それ以上になにか晴れがましい気持ちになるのは何故なのでしょうね……」


 そんなのしらねーよぅ、つうかもう勘弁して下さいよぉ。


 アンタのせいで俺の心臓がぶっ壊れそうなんですよ、もう顔が熱くてしゃーないんですから勘弁してくださいよぅ。


「もういいから、早く出て行けよ!」


 恥ずかしさと情けなさ、それと自分でもよく解らない感情に突き動かされて、俺は彼女の傍に駆け寄って立ち上がったばかりのメリッサの腕を掴んで無理やりドアに引っ張っていく。


「あっ……」


 女性に対して乱暴だって?そんなん知らんわ、恥ずかしすぎて俺は今一人になりたくてしゃーないんや!


「分かりっ、ましたから、そんなに引っ張らないで下さいっ」


 少し慌てたような彼女の声を聞いて、なんだかやり返してやったような気になった俺は、自分の中に急に湧いて出た勢いに任せてドアを開け、廊下にメリッサを押し出してしまう。


 押し出された彼女は少しだけ寂しそうな視線をこちらに向けてきた、その瞬間今まで自分を突き動かしていた感情は消沈して、心に残ったのは後味の悪い罪悪感が奏でる後悔だった。


「なにか……、何か私の行動が貴方を傷つけてしまったのでしょうか……」


 不安定な心に振り回されている俺に振り回される彼女、不安と混乱は無神経な行動になり、目の前の女性にを不安にさせ、その鳶色の瞳に悲しみの色を混ぜてゆく。


「違うんだ……、君は悪くない、悪いのは私なんだよ、今の私は感情が上手く制御できなくなってる……」


 メリッサの視線が辛くて視線を反らして、片手で瞼を覆い、深く重たい溜息を吐いた。


 自らの感情が制御できない、まるで子供のように感情に振り回されて彼女を乱暴な態度で振り回し、彼女にこんな顔をさせてしまった。


 どうしてこんな事になってしまったのだろうと、自らの行動が産んだ結果に、苦い気持ちが胸の中を支配しようと鎌首をもたげてきたが、そんな俺の手を彼女の手が優しく包み込んだ。


「大丈夫、大丈夫ですよ、貴方は私を傷つけたりしていませんし、私は貴方を嫌いなったりしていません、ただ少し、急なことで驚いただけですから……」


 握りしめられた手から、彼女の温もりと偽りない優しさが伝わって、それと同時に胸の奥から湧きだした苦い気持ちが霧散していき、変わり先程まで感じていた彼女への気恥ずかしさが再び戻って来た。


「分かったっ!分かったから離してくれ!その、なんだ……、は、恥ずかしいんだよ……」


 恥ずかしさで小さく消え入りそうな声が口から溢れだし、真夜中の暗い無音の廊下に染みこんで消えていくと、黒く艶やかな髪が俺の背中越しのランプの明かりに照らされ、仄かに煌めきながら揺れ始める。


「ふふふっ、やっぱり貴方は本当に可愛い人だと思います……。おやすみなさいブルックリンさん……」


 それだけ言い残して彼女は静かに俺の手を離して、ゆっくりと背中を向けた。


 何を言えば良いのか分からない俺は、離れていくメリッサの背中に何も言い返せず、ただ喧しいほどの心音が鳴り響くのを漫然と感じるだけの存在になっていた。


 こちらを振り返らず進む真っ直ぐ伸びた美しい背中と、廊下に響く彼女の靴音が角を曲がる時まで、そうしてただ呆然と立ち尽くして見送った。


 メリッサという存在が見えなくなり、俺の心臓以外が無音になった廊下に残ったのは、彼女の微かな温もりと身に纏っていた花のような残り香だけだった。

仕事で事故で怪我をしたので投稿が遅くなってすいません、未だに治らずリハビリしながらですが、少しずつ進めていこうと思いますので、のんびりお付き合い頂けると嬉しいです。

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